記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

著…江戸川乱歩 絵…しきみ『押絵と旅する男』

 一目惚れ。

 それは人の運命を大きく変えます。

 この小説に出てくる男性は、恋をしてはいけない女性に恋焦がれてしまいました。

 ※注意
 以下のレビューには、結末までは明かしませんがネタバレを含みます。



 この世のものとは思えぬほど美しい彼女に、彼は心を奪われました。

 名前も知らない。

 どこの誰かも分からない。

 ただの一言だって言葉を交わしたこともないというのに。

 彼は彼女に会いたくて会いたくて会いたくて、来る日も来る日も出かけては、彼女の姿を探し続けました。

 どんなに追い求めたとて、本当に会えるかどうか分からないのに…。

 彼の食欲は落ち、痩せこけて、顔色も悪くなりました。

 彼の家族もそれはそれは心配しました。

 それでも彼はフラフラと出かけていきます。

 弱った体を引きずるようにして。

 ただひたすら彼女を探して…。

 彼の弟は「兄は化け物に魅入られたのではないか?」と心配して、彼のあとをつけていきます。

 たった一目見ただけの彼女の姿が心に焼き付いて離れず、彼女がどこかに通りかかりやしないかと探す彼のことを、彼の弟は止めることが出来ませんでした。

 その姿がとても真剣で、とても哀れだったので…。

 彼はようやく彼女を見つけ出せました!

 …しかし、彼女はなんと生身の女性ではありませんでした。

 絵に描かれた女性だったのです。

 彼は、

 「悲しいことだがあきらめられない」

 (P54から引用)

 と言って、その絵の前から動こうとしません。

 いつまでもいつまでもいつまでも…。

 そして、彼の弟がハッと気づいた時。

 なんと彼はその絵の中に入り込んでいました。

 絵の中で、彼は嬉しそうな顔をして彼女を抱きしめていたのです。

 幸せそうな彼と彼女の様子を見て、恐ろしがっても良さそうなものですよね?

 しかし、彼の弟はむしろ、

 「でもね、私は悲しいとは思いませんで、そうして本望を達した、兄の仕合せが、涙の出る程嬉しかったものですよ」

(P60から引用)

 と彼の恋が実ったことを祝福。

 また、彼の弟は、

 「結局、私は何と云われても構わず、母にお金をねだって、とうとうその覗き絵を手に入れ、それを持って、箱根から鎌倉の方へ旅をしました。それはね、兄に新婚旅行がさせてやりたかったからですよ」

(P62から引用)

 と言い、恋人たちの描かれた絵を持って旅をしたのです。

 なんて妖しい、なんて狂った、なんて美しい世界でしょうか…。

 この不思議な恋物語にはまだほんの少し続きがありますので、興味を持ってくださった方は是非読んでみてください。

 結末をどう解釈するかは読み手次第。

 あなたはこの作品をどう捉えますか?

この記事が参加している募集

読書感想文

いつもスキ・フォロー・コメント・サポートをありがとうございます😄 とても嬉しくて、記事投稿の励みになっています✨ 皆さまから頂いた貴重なサポートは、本の購入費用に充てさせていただいています📖