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著…江戸川乱歩 絵…しきみ『押絵と旅する男』
一目惚れ。
それは人の運命を大きく変えます。
この小説に出てくる男性は、恋をしてはいけない女性に恋焦がれてしまいました。
※注意
以下のレビューには、結末までは明かしませんがネタバレを含みます。
この世のものとは思えぬほど美しい彼女に、彼は心を奪われました。
名前も知らない。
どこの誰かも分からない。
ただの一言だって言葉を交わしたこともないというのに。
彼は彼女に会いたくて会いたくて会いたくて、来る日も来る日も出かけては、彼女の姿を探し続けました。
どんなに追い求めたとて、本当に会えるかどうか分からないのに…。
彼の食欲は落ち、痩せこけて、顔色も悪くなりました。
彼の家族もそれはそれは心配しました。
それでも彼はフラフラと出かけていきます。
弱った体を引きずるようにして。
ただひたすら彼女を探して…。
彼の弟は「兄は化け物に魅入られたのではないか?」と心配して、彼のあとをつけていきます。
たった一目見ただけの彼女の姿が心に焼き付いて離れず、彼女がどこかに通りかかりやしないかと探す彼のことを、彼の弟は止めることが出来ませんでした。
その姿がとても真剣で、とても哀れだったので…。
彼はようやく彼女を見つけ出せました!
…しかし、彼女はなんと生身の女性ではありませんでした。
絵に描かれた女性だったのです。
彼は、
「悲しいことだがあきらめられない」
と言って、その絵の前から動こうとしません。
いつまでもいつまでもいつまでも…。
そして、彼の弟がハッと気づいた時。
なんと彼はその絵の中に入り込んでいました。
絵の中で、彼は嬉しそうな顔をして彼女を抱きしめていたのです。
幸せそうな彼と彼女の様子を見て、恐ろしがっても良さそうなものですよね?
しかし、彼の弟はむしろ、
「でもね、私は悲しいとは思いませんで、そうして本望を達した、兄の仕合せが、涙の出る程嬉しかったものですよ」
と彼の恋が実ったことを祝福。
また、彼の弟は、
「結局、私は何と云われても構わず、母にお金をねだって、とうとうその覗き絵を手に入れ、それを持って、箱根から鎌倉の方へ旅をしました。それはね、兄に新婚旅行がさせてやりたかったからですよ」
と言い、恋人たちの描かれた絵を持って旅をしたのです。
なんて妖しい、なんて狂った、なんて美しい世界でしょうか…。
この不思議な恋物語にはまだほんの少し続きがありますので、興味を持ってくださった方は是非読んでみてください。
結末をどう解釈するかは読み手次第。
あなたはこの作品をどう捉えますか?
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