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著…エラ・フランシス・サンダース 訳…前田まゆみ『翻訳できない世界のことば』

 「気持ち」を言語化するのって難しいですよね?

 日本人が日本語で日本人に話す時だって、心の機微をうまく伝えられるか不安なものです。

 ましてや、外国語を日本語に訳したり、日本語を外国語に訳すなんて、至難のわざ。

 これは、一言では翻訳することが出来ない世界中のユニークな言葉たちをまとめた本。

 切ないもの、陽気なもの、ちょっと皮肉めいたものまで様々。

 もしかしたらどの言葉もそれぞれのお国柄を表しているのかな? と感じさせます。

 また、この本はイラストも美しいので、イラスト集として眺めるのも楽しいです。

 さて、わたしが日本語以外の言葉で特に気に入ったのは、

 ●KILIG
 (おなかの中に蝶が舞っている気分。たいてい、ロマンチックなことや、すてきなことが起きたときに感じる。タガログ語)

 ●HIRAETH
 (帰ることができない場所への郷愁と哀切の気持ち。過去に失った場所や、永遠に存在しない場所に対しても。ウェールズ語)

 ●MAMIHLAPINATAPAI
 (同じことを望んだり考えたりしている2人の間で、何も言わずにお互い了解していること。2人とも、言葉にしたいと思っていない。ヤガン語)

(著…エラ・フランシス・サンダース 訳…前田まゆみ『翻訳できない世界のことば』から引用)



 といった言葉たち。

 どれも、名付けるのが難しい、心が震えるような感情ですよね…。

 特に、「2人とも、言葉にしたいと思っていない」という感覚に敢えて名前がつけられていることに、「この気持ちをいつまでも大切にしたい」という想いも込められている気がします。

 人の気持ちは、良くも悪くも変わってしまうものですから…。

 それにしても、わたしはこの本を読んでいて、つくづく気づかされました。

 言葉は確かだけれど不自由だ…と。

 きっと誰もが、あまり多くの言葉を知らなかった子どもの頃は瑞々しくどこまでも広がるように豊かな感性を持っていたのではないでしょうか?

 まるで世界に限りなんて無いみたいに。

 それが、成長するにつれて多くの言葉を知り、自分の思考や感情を言葉に無理やり当てはめて表現していくことで、言葉にならない感情への関心が薄れていき、やがて自分の気持ちが揺れ動く範囲を自分で狭めてしまうのではないでしょうか?

 言葉は案外不自由なものですよね。

 もどかしいばかり…。

 けれど、黙っているばかりでは、自分の気持ちを他の人に察してもらうことは出来ません。

 どうしても言語化しないといけない時はあります。

 日本語は素晴らしい言語ですが、日本語の概念だけでは言い表せない「感じ」も存在することが、この本を読んだことで分かりました。

 また、わたしが普段は心の奥深くにしまいこんでいて、ほとんど忘れかけていた感情が外国語の中に存在したことにも、非常に驚かされました。

 外国語を学ぶことは、単に外国人と話すコミニュケーションツールとしての意味合いだけではなく、自分の感性を再構築するという意味合いも持つのかもしれませんね。




 〈こういう方におすすめ〉
 言葉による表現方法を模索中の方。

 〈読書所要時間の目安〉
 1時間〜1時間半前後くらい。

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