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著…中野京子『名画に見る男のファッション』

 「自分をより美しく見せたい!」という欲求は万国共通であり、性別も関係ないのだ、と教えてくれる本。

 肖像画に描かれた男性たちのファッションを考察しています。

 皆さんとても洒脱。

 肖像画を実物よりだいぶ美化して描かせる心理は、現代人がスマホで自撮りした画像を加工する心理と似ている気がします。

 現代人の画像がこれでもかと加工の上に加工を重ねた結果、本人とはかけ離れた仕上がりになるのと同じように、当時の人々の肖像画が仕上がった時「これ…誰?」と周りの人たちは首を傾げたのかも。

 特にナポレオンは『アルプス越えのナポレオン(サン=ベルナール峠を越えるボナパルト)』を描かせる時、画家ジャック・ルイ・ダヴィッドに、

 「顔など似ていなくてもかまわない、偉大さを伝えろ」
(単行本版P14から引用)

 とオーダーしたそう。

 「実物よりかっこよく描いてね」とはっきり言ったも同然ですよね。

 その潔さがもはやかっこいい!

 この作品に描かれたナポレオンは颯爽と馬に乗り、凛々しくポーズを決め、お召し物も豪華なのだけれど…、実物のナポレオンはどうだったのだろう? とどうしても気になります。

 本当は馬ではなくロバに乗っていたらしいし、実際の体型はずんぐりむっくりだったらしいし…。

 盛り盛りの肖像画のおかげで、かえって、理想と現実の残酷な差について想像を掻き立てられてしまいます…。

 画家ティツィアーノ・ヴェチェリオの『皇帝カール五世と猟犬』も、これぞ男性の見栄の塊という感じ…。

 これが「お洒落! 流行の最先端!」の時代があったのだろうか…? とギョッとします。

 しかし、せめて虚構の中でくらい美しくありたいという気持ちにも痛いほど共感出来ます。

 わたしだって、もし肖像画を描いていただく機会に恵まれたら、きっと画家さんに「顔など似ていなくてもかまわない、絵の中でだけでもわたしを美女にしてください」とか「お願いですから胸を大きく描いてください」と頼むと思います。

 そして周りの人たちに「これ…誰?」と首を傾げられ、ナポレオンの霊とカール五世の霊が「分かる! 分かるぞその気持ち! 美しくありたいというのは古来から人類の夢なのだ!」と共感してくれる…かもしれない多分。

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