クリストファー・ノーラン監督『インターステラー』
ふいに、誰もが静まり返った深夜に、ひとりでヘッドフォンをつけて観たくなる映画。
大切な人といつか必ず再会するために、宇宙を旅している。
そんな気分になれるから。
観終わったら、朝日を浴びて、そして誰かと会って欲しいです。
自分以外の誰かがそばに居てくれる。
ただそれだけのことが、どんなに幸福なことか感じられるから。
※注意
結末は自分で確かめて欲しいので結末までは明かしませんが、以下、ネタバレを含むあらすじなので、未鑑賞の方はご注意ください。
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この映画の主人公が暮らす地球は荒れ果てています。
作物はうまく育たず、雨は降らず、呼吸を危うくするほどの砂嵐もひどくなるばかり。
食糧難なのはもちろんですが、植物が育たないということも問題。
植物に酸素を供給してもらえないため、人類は窒息による滅亡の危機にも晒されています。
地球は大ダメージを負い過ぎていて、地球そのものを回復させるのは不可能。
地球から脱出するしか、人類に残された道はありません。
そこで、主人公は仲間たちと共に、人類が移住出来る星を探して地球から旅立つことになります。
何年経てば帰れるか分からない、そもそも帰れるかどうかも分からない旅へ。
地球に愛する家族を残して。
愛しているからこそ。
「必ず帰る」と約束して旅立ちます。
…主人公たちは命がけで探しますが、人類が移り住めそうな星はなかなか見つかりません…。
しかも、遠く離れた星々と地球とでは、時間の進むスピードが大幅に違います。
ある星では、その星で過ごす1時間が地球での7年に相当し、しかもその星はハズレの星だったので23年もの時間をほぼ無駄に浪費したことになった上、その星の重力が地球より1.3倍強かったため動きがもたついて、その星での事故で大事な仲間を1人失うことにもなります。
おまけに、地球からのメッセージを宇宙船に受け取ることは出来ても、主人公たちからの返事を地球へ送れない事態となってしまいました。
家族から受け取るメッセージを通して、どんどん家族が成長し、老いていくこと、そして亡くなっていくことを目の当たりにしながらも、こちらからの返事を送ることは全く出来ません…。
地球から出発した当時既に高齢だった主人公の父は死亡。
地球から出発した当時15歳だった主人公の息子は、地球からのメッセージを受け取る度、大人になり、結婚し、子どもが生まれ、…子どもをやがて亡くします。
地球から出発した当時10歳だった主人公の娘は、大人になり、NASAに就職し、「パパはあの時、地球に帰って来る時は同じ歳になっているかもと言っていた。でも、今日わたしはパパと同じ歳になった」と告げます。
家族からのメッセージは「もう諦めた。あなたはもう帰って来ないんでしょう」という悲痛なメッセージへと変わっていきます。
主人公は涙を流します。
本当は生きているのに。
心の底から帰りたいのに…。
けれど、そんな言葉が家族に届くはずもなく。
時間は無情にもどんどん過ぎるばかり。
時間は決して巻き戻すことが出来ません…。
…仲間の中には、気が狂ってしまった者もいます。
そもそも、主人公たちは後発隊。
先発隊の12人の宇宙飛行士がそれぞれたったひとりで星を探し、人類が移り住めそうな星を見つけたら地球に向けて信号を送って、あとは地球からの救助を待つ、というのが当初の計画でした。
もし自分が発見したのが運悪く人類が移り住めない星である場合は信号を発信しない…という計画だった…のです。
ただでさえ地球に残されている資源はわずかで、12人全員を救助するための燃料も時間の猶予も人員の余裕も無いのだから。
…ところが。
ハズレの星にたどり着いた者が命惜しさに「ここは人類が移り住める星だ」という嘘のデータを地球へ向けて発信。
まさか嘘とは思いもよらない主人公たちはそのデータを信じてハズレの星に向かい、貴重な燃料と時間を浪費して、嘘つきを救助してしまいました。
この嘘つきの狙いは、自分を救助しに来てくれた後発隊の宇宙船を奪り取り、後発隊の口を封じて自分が嘘をついたことを隠蔽した上で、自分なりに計画を完遂させること。
この嘘つきは「自分の頭脳は誰よりも優れている」というつもりで、使命を全うするヒーローのつもり。
この嘘つきのせいで、人類を救うために必要な量子データを手に入れるために「俺がブラックホールに行ってデータを送信するよ」と決死の覚悟で志願してくれた大事な仲間まで口封じのために爆殺されてしまいます。
この嘘つきは主人公のことも殺そうとして襲いかかってきます。
危機一髪というところで残りの仲間に主人公は救助してもらうけれど、その隙にこの嘘つきは後発隊の宇宙船を奪い取ろうと一足先にハズレの星を脱出。
この嘘つきは主人公たちの宇宙船に不完全なドッキングを行い、「ハッチを開けるな」という主人公たちの忠告を聞かずに無理やりハッチを開けました。
ドッキングが不完全なままハッチを開けたらどうなるか…。
主人公たちの危惧は現実のものとなります。
急激な減圧。
大破。
嘘つきは吹っ飛びます。
あれほど死を恐れ、他人を殺してでも自分が生き残ろうとしたのに、自分で自分の死を招いたわけです。
なんて愚かな…。
ざまあみやがれ、と言いたいところですが、この嘘つきは吹っ飛ぶ際、主人公たちの宇宙船に大ダメージを残していきました。
どこまでも最悪な奴…。
死を覚悟して重要な任務についたとはいえ、地球から遠く離れた星でたったひとり死を待つというのが耐えきれなくて狂ったところまでは理解できますが…。
…先発隊の残りの人たちのほとんどはおそらく、自分が到達した星がハズレだと悟り、絶望と恐怖と孤独に打ちひしがれても、それでも「ここには人間が住める」なんて嘘の信号を地球に送ったりはしなかったでしょうに…。
地球に残されている資源はわずかだから、後発隊には自分を救助しに来る余裕など無い、望みのある星に辿り着いた者の方へ向かうべきだ、と誰もが覚悟していたから…。
なのにこの嘘つきのせいで貴重な仲間も時間も燃料も宇宙船もやられて…。
しかも、先発隊のうちの1人は、本当に人類が移り住むことの出来る、土もあり、宇宙服が無くても人間が呼吸出来る星に辿り着き、地球へ向けて信号をちゃんと送ってくれていたのに!
この嘘つきのように「自分だけ良ければ良い」という身勝手な人間が人類の中に大勢いるから、地球は回復不能なほどの大ダメージを負ったのでしょう。
たとえ母なる地球を見捨てて他の星へ移住したとしても、こういう人間がいれば、きっとまたその星を食い尽くしてまた移住してまた他の星をダメにして、を繰り返すだけ。
寄生虫やウイルスは宿主を生かさず殺さずの状態で共生しようとすることが多いけれど、宿主を殺して、また新しい宿主に寄生して殺して、を繰り返すなんて…、そんなんじゃ人類は寄生虫やウイルス以下じゃありませんか!
主人公たちが行った1つ目の星で死んだ仲間は自分より仲間を先に助けようとして死んだし、2つ目の星で嘘つきに爆殺された仲間は命がけでブラックホール内部のデータを送ろうとしてくれていたのに!
…けれど、主人公たちはそれでも諦めませんでした。
なんとか地球に残る人類を救うための量子データを入手しようとします。
そのデータを得るためには、超巨大ブラックホール「ガルガンチュア」の重力崩壊の中心・特異点を観測する必要がありました。
特異点の謎が解ければ、人類は重力を自在にコントロール出来るようになり、より多くの人類を地球外へと打ち上げて脱出させることが可能となります。
ただし、ブラックホールの内部が実際どうなっているかは誰にも分かりません。
まさに人知を超えた領域。
生きて帰れる確率は…計算のしようもありません。
それでも主人公は行くのです。
ブラックホールの内部へと。
地球に残した愛する家族を、人類滅亡の危機から救うために。
と仲間に言い残して。
けれど、主人公は決して、帰るのを諦めたわけではないのです。
いつか必ず家族に「ただいま」を言い、
いつか必ず家族に「おかえり」を言ってもらいたいからこそ、
ブラックホールの中へと吸い込まれていくのです。
必ず帰ると家族に約束したから。
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この映画の結末がどうなるかは是非自分で確かめて欲しいので、結末まではここに記しません。
つくづく、人間の醜さも傲慢さも愚かさも弱さも強さも美しさも愛おしさも、全てを描いた作品だと思います。
この映画の冒頭の、
という主人公と主人公の娘の会話も、全てが伏線で、全てが結末へと結びついていくことに心を打たれます。
愛は、何もかもを超越するのですね。
また、人間とAIロボットたちの友情も素敵。
AIは単なるプログラムに過ぎないなんて、わたしは到底思えません。
愛は種をも超越するのです。
また、この映画に登場する、
というディラン・トマスの詩もたまらなくかっこ良くて痺れます。
ここまでこの記事を読んでくださった方、ありがとうございます。
あなたも大切な方といつか必ず会えますように!
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