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「双子に安定期はありません」を体験中です


 

多胎に「安定期」は、ない

 元女子バレー日本代表の大山加奈さんが双子を妊娠していることを発表したとき、以下の表現をしていました。

こうしてご報告すべきかどうか
とても悩みました。。。
.
ひとつは双子には安定期がないということで
このような時期に発表して良いのかということ。
こちらはお仕事との兼ね合いもあるので
発表すべきかなと思い決心しました。
現在はかなりセーブさせてもらいながら
できる範囲でのお仕事をさせてもらっています。
(大山加奈オフィシャルブログより)

 「双子に安定期はない」これは、双子を妊娠している際に、幾度も耳にするフレーズです。

 双子の妊娠がわかった時、「ひとり用の子宮にふたりが入って育つ訳だから、異常な状態といえます。その為、双子妊娠は妊娠初期から出産まで様々なリスクが高くあります。」と、医師からリスクや合併症についての説明を受けました。私の場合、多胎に加え高齢出産であることから、リスクはより高いとのことでした。

 そこで、産科のみのクリニックでは対応出来ない事が多いからと、様々なリスクに対応できるNICU(新生児特定集中治療室)とMFICU(母体・胎児集中治療室)のある総合病院・大学病院に通うことを勧められました。
 地域医療情報システムによると、東京都には、産婦人科が856施設ありますが、NICUとMFICUを備える周産期母子医療センターは、23区内に13施設、多摩地域に2施設のみです。

 この時点で、「もしも自分が妊娠したら、ご飯の美味しい産科で無痛分娩をしたいな」と漠然と考えていた期待は実現できないことになりました。さらば、ごほうび美食祝い膳。

(とはいえ、東京に住んでいる私はまだ、選択肢がある方だと思います。例えば、高知県は1施設のみのようです。)


 そして、その日から今日まで「はたして、自分のお腹に宿ってくれたふたつの命は、無事に誕生してくれるのだろうか」という心配とともに、未来に対し過度に期待すぎることを避けながら、「ただただ、今いのちを感じるこの時を大切に暮らそう」と過ごしてきました。


安定期がない≒妊娠をオープンにするタイミングが難しい

 ところで、そもそも安定期とはなんでしょうか。

「安定期」とは、一般的に妊娠中期に入る16週目(妊娠5ヶ月)以降のことを指します。
妊娠初期の不安定な体調やつわりの症状が落ち着いてくる時期のことを表した言葉で、医学用語ではありません。妊娠12週ころまでに比べて 流産の可能性が低くなり、つわりも治まって比較的過ごしやすくなる時期です。(マイナビ子育て 医師監修 妊娠安定期はいつから?より )

 単胎の場合、安定期に入ったことをひとつの目安として、周囲や仕事場に妊娠の報告をすることが多いのではないでしょうか?
 これ自体、個人的には「つわりがひどいときこそ周囲のサポートが必要だから、安定期より前に伝えられる方がいいのでは」と思ってしまいますが、ごく親しい人以外には、初期流産のリスクが下がると言われる安定期に入ってから伝えたいという単胎妊婦さんの想いは、とてもわかります。
 
 私もそう思うから。

 私たち夫婦も、
「周囲に気を遣わせ過ぎることなく、妊娠を伝え命が芽生えたことを喜びあえる時期はいつなんだろう」
と考え、そのタイミングが今もわからないままいます。
 多胎の場合、その時は出産後、NICUを卒業して子ども達が退院した時ではないかとも思うし、早産で小さく産まれるだろう子どもたちが、臨月に出産した単胎の子の発達に追いついた頃なのかとさえ考えました。

 
 そんなことから、私は、なかなか妊娠をオープンに出来ませんでした。とはいえ、今後の仕事のすすめ方の話になった時、私を信頼して仕事を頼んでもらったとき、どうしても「私が責任をもって取組みやり遂げます。」と言えない場面が出てきます。
 例えば、定期的な出張を伴う業務や中長期的なプロジェクトのマネジメントを打診された時、半年後の自分の状態が不透明であることから、お話を前向きにすすめることが出来ませんでした。

 そんな中、ありがたいことに子ども達はスクスクと育ってくれ、お腹はぐぐぐっとふくらんでいきました。妊娠7ヶ月頃には、まちなかで臨月と思われ声をかけられる大きさになってきました。

 まずは、業務上必要な場合に限り、今後の仕事のあり方や事業推進の方法、いざという時の対処方針を中心に、ポロリポロリと妊娠をお伝えしはじめました。
 ただ、オンラインで一緒にお仕事をした方の中には、お伝えしないまま、今年度事業を完了したチームメンバーもいます。
 また、お伝えした方の中には、かなり困惑された反応をする方もおられました。オンライン打ち合わせの後ZOOMで、妊娠を伝えた途端、動揺した先方がミーティングルームから退出してしまったこともありました。
 私を信頼し、ともに業務を取り組み、まちばで成果をあげることを楽しみにしてくれた方の期待にそえない事は、大変心苦しかったです。

 

安定期がない≒暮らしの自由が制限されがち

 多胎妊娠は以下のようなことがおこる可能性が単胎より高いです。

・バニシングツイン
・重い悪阻(つわり)
・貧血
・手根管症候群   等
・早産
・子宮内胎児発育不全 (FGR)
・妊娠糖尿病
・妊娠高血圧症候群
・弛緩出血
・双胎間輸血症候群(TTTS)
・無心体双胎(TRAP)
・胎児形態異常 
・臍帯相互巻絡
・子宮内胎児死亡
・血栓症 等
・母体への負担増によるマイナートラブル
・経腟分娩時の第二子のリスク(第一子経膣分娩ののちの第二子の緊急帝王切開)
・帝王切開によるリスク 等


 私たち多胎妊婦は、このような多くのリスクとともに妊娠生活を送り、子どもたちの命を未来につなぐ為、必要な管理のもとで過ごします。
 一般的に4週に一度の妊婦検診を2週に一度程度行い、経過観察を続けますが、妊娠中、多くの多胎妊婦が入院生活を送ります。

 石川県立看護大学の調査によれば、26週までに約3割弱、全期間で約8割弱の方が切迫早産等で入院を経験しています。「30週から全ての多胎妊婦は管理入院すること」というルールがある産科もありますし、管理入院をしない場合も、「自宅安静として、トイレと食事以外はベッドで過ごすこと」等の指示を受けることもあり、妊娠中の行動はかなり制限されます。
 私は現在、管理入院はしていませんが、5日に一度診察を受けながら、外出をせず自宅ベッド上で安静にしています。残念ながら、この春、生で、満開の桜をみることは出来ませんでした。 

安定期がない≒イメージしていたマタニティライフを選べない

 憧れのマタニティヨガやマタニティスイミング、マタニティピラティスの施設は双子を理由に門前払いされました。そもそも妊娠初期から今まで、継続して体調が不安定だったので、通うことは難しかったのですが、調べても調べても、双子妊娠は受入れない方針の施設ばかりでした。
 「双子が私たち夫婦のところに来てくれたことは、とてもうれしく全力で双子たちを歓迎したい。けれど、多胎妊婦である私は妊婦・子育て市場からは除外されてるな。」と感じました。
 産院の選択肢だけでなく、妊娠時の過ごし方の選択肢は単胎に比べかなり少ないように思います。

 また、信頼できる助言者をみつけることも難しいです。私のまわりには、経産婦子育て中の友人が多く、「もし妊娠したら、みんなに色々とアドバイスしてもらおう。高齢出産な分、たくさんの信頼できる先輩がまわりにいてラッキーだな」と思っていました。
 ただ、多胎は100人に一人という割合の少数派である上、単胎の経験をもとにしたアドバイス、例えば「定期的に歩いたり運動をするように」とか「床の雑巾がけすると股関節がやわらなくなって安産になるよ」とか「効果的なマッサージ」のようなものは、多胎には早産リスクを高める有害な行為であったりすることから、せっかくの助言も、本当に多胎の私に有益になものかどうか再度調べることが必要になりました。

 一方で、今年、新型コロナウィルス感染症が流行しオンラインでできる事が増えたことは、困難な中で可能性がひろがる出来事でした。
 東京の自宅にいながら豊中の多胎サークルの講座を受講することが出来ました。
 また、オンラインで出来る事が増えたおかげで、年度末ぎりぎりの30週まで、ワークショップで、問題なく全体ファシリテーターをすることが出来ました。


今の私にできること≒
ふたつのいのちの鼓動が、自分の中にあるよろこびを感じること 

 リスクや出来なくなったことばかり記していると「大丈夫??毎日笑えてる?」と心配になってしまいそうですが、多胎妊娠が判明してから、今日まで私は心からの笑顔で暮らせています。

 先週の診察で、想定より大きく、欧米の単胎児平均値以上の成長曲線で大きくなるふたりの子ども達による身体的負担を心配する医師に
「私達のところに居続けてくれるか心配だった命が、ここまで成長してくれてうれしい。体は辛いけど、胎動を感じるとほっとするし、いのちをふたつあずかってる所以だと思えば、体の辛さも受け入れられる。」
という話をしたら、
「多胎妊婦さんはまるで修行僧のようだ。」
と言われてしまいました。

 でも、きっと自分の中で育まれる命を感じることは、私の人生で今しか出来ない幸福な時間です。

 双子たちに願うことはひとつ。
あまり急いで出てこないで、あと1ヶ月、このよろこびを感じさせて欲しい。
そして、ふたりと笑顔で出逢いたいです。

 あ、願い事、ふたつしちゃった。
ふたごだから、いいよね。


最後に

 関東の多胎サークルの皆さんが連携して、ふたごみつご家庭を支援する団体を設立する為のクラウドファンディングに挑戦されています。
 孤立しがちで産後うつの発症率が単胎の倍以上と言われるふたご、みつご育児。
 同じ当事者である誰かとつながることで、抜け出せる困難もあると思います。そんな、つながりづくりと支援を行う多胎支援団体ができることは、これからふたご育児に挑む私には、とても心強いことです。

ふたごみつごファミリーが安心して楽しく育児できる支援団体をつくりたい!(関東多胎ネット)

 新型コロナウィルス感染症が流行し、流行前より制限の増えた多胎マタニティライフを送っているだろう、多胎妊婦の皆さんと家族、そしてふたご、みつごファミリーの皆さんが、笑顔で暮らせる明日でありますように。


 

※あくまで、私が、当事者として知ったこと、体験したことを書いています。より詳しく知りたいと思ったときは、専門家、担当医や保健師さんに相談してくださいね。


 


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