【ココロコラム】人間は、イヤなことがあったときほど、自分に注目しやすい

寄せられたお悩み相談を拝見すると、自分を否定的に見ている方が多いのに驚かされます。ちょっとしたことで「自分はどうしようもない」とか「なんてダメな人間なんだろう」と思ってしまう人がたくさんいます。社会的に有能で、他人からみた評価は「責任感が強く、温和で協調性のある人」というような人でも、なぜか自分のことを考えると「あれもできないし、他人にイヤな思いをさせてしまった」などと、落ち込む例が少なくないように見受けられます。

「もっと自信を持ちましょう」というのは簡単ですが、やはり実行するとなるとなかなか難しいものです。なぜ難しいのか。これは、人間心理の基本的なことがらが関係しています。

そもそも、人間は物事がうまく行っていたり、夢中になっていたりしているときは「自分はいったいどうなのか?」という疑問を感じにくい傾向があります。自分について深く疑問を持つのは、失敗したときや、悲しいことがあったときです。これはいろいろな研究で言われていますが、一番わかりやすいのは心理学者・坂本のデータです。

これによると、人間が自分に着目するのは、第一がネガティブな状況。ついで、誰かに自分のことを指摘された状況。ついで他人をうらやんでいる状況という結果が出ています。ポジティブな状況のときや、自分ひとりで行動しているときは、あまり自分に関心が向かないのです。人間は、イヤなことがあったときほど、自分に注目しやすい。これは覚えていて損のない知識です。

当然ながら、ネガティブな状況で自分について考えると、自分の理想像と、失敗した現在の自分とのギャップに苦しみ、よりいっそう否定的な考えが出てきてしまいます。その結果、イヤな気分や悲しい気分になります。イヤな気分や悲しい気分は、イヤな記憶や悲しい記憶を思い出しやすくなります(これを【気分一致効果】といいます)。このサイクルが続くと、どんどんネガティブな感情に浸ってしまいます。

イヤなことは誰にでも起こります。そのときの落ち込みを最小限にするには、イヤなときほど自分に注目しやすいということを知り、そのときに備えて、ポジティブな瞬間に積極的に自分のことを考えて補強しておくことが大切です。イヤなときには自分のことを勝手に考えてしまいます。いいことがあったときにこそ、あえて自分で立ち止まって考えてみて、よい気分を味わうことが、メンタルヘルス上非常に有効です。「いいこと日記」をお勧めしているのも、ここに一因があります。

また、他人をなるべくうらやまないようにするのも大切なことです。人をうらやましがっているときは、先のデータどおり、自分に注目しやすいシチュエーションです。そして、そのような時は「あの人に比べて、なんて自分はダメなんだ」という否定的な感情が出てきやすい。他人には自分に分からない苦労もあるでしょうし、自分の人生を決めるのはあくまで自分です。他人になるべく左右されない姿勢を身につけたいものです。

そうはいっても、自分に注目してネガティブなことを考えてしまうときはあります。そういうときには【気分一致効果】を利用しましょう。つまり、手軽な気晴らしやリラックスできる方法をいくつか確保しておくことです。気分が少しでも晴れれば、それに応じて考えも自分に優しいものになってきます。ネガティブな感情がわいたときに、すぐできるような気分転換方法をあらかじめ考えておく。これが、不必要に落ち込みを重いものにしないコツです。

(精神科医・西村鋭介)


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