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【ドイツ旅行記🇩🇪】真夜中の救世主に頭をポンポンされ、国際恋愛を前向きに検討した話。

「名乗るほどの者でもありません」ってなぜか耳に馴染むセリフだけど、実際言ってる人を見たことがない。
 
何も言わず颯爽と立ち去る謎の優男に「せ、せめてお名前だけでもぉぉーーー!!」と叫んだこともなければ、道端で困っている私を咄嗟に助けてくれるイケメンに出くわしたこともない。
 
しかし、溯ること2019年9月。
 
日本から遙か数万キロ離れた異国の地で、
ドイツで、出会ってしまった。
 
真夜中のアパート。困り果てる私と友達。
 
嫌な顔ひとつせず秒で駆けつけてくれた彼。
すぐに問題を解決すると、私の頭をポンポンと撫でて颯爽と走り去るのだった。
 
その間わずか5分。
“せめてお名前だけでも”タイムすらなく、顔も鮮明に覚えていない。
 
でもあの時、彼の背中を見送りながら、脳内スピーカーでbacknumber が自動再生されたことだけは忘れない。疲労困憊&停止寸前の私のおつむに、「国際恋愛」の文字が浮かんだ瞬間だった。
 
ーーーーーー
 
そもそも、あのトラブルさえ無ければ、
彼には出会うことすらなかった。
 
高校の女友達とのヨーロッパ旅行。
ドイツ滞在2日目のことだ。
 

ミュンヘンの市街地を散策し、その日は完全に浮かれモードだった。天気はびっくりするほど快晴。オシャレなカフェを見つけて、テラスで優雅にランチ。観光客で賑わう旧庁舎前で陽気なドイツ人のおばさんと仲良くなり、たくさん写真を撮ってもらった。
 

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夜はホーフブロイハウスで夕食。
 
あのヒトラーがこよなく愛したレストランらしい。ステージが併設されているレストランで、ドイツ伝統の踊りと音楽を鑑賞しながら、本場のソーセージとビールを楽しんだ。
 

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特にソーセージは格別だった。太さが、日本のそれと全然違う。皮がすごく分厚くて、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出す。ソーセージをひと口かじってそのままビールを仰げば、文句なしの優勝だ。自分を大蛇丸だと信じてやまない彼も太鼓判を押すであろう、大優勝である。
 
最高、の一言だった。
 
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適度に酔って気分も良く、終始ニマニマしながらレストランを後にする。ドイツは日本と同じく先進国だけど、夜間の治安は良いとは言えない。どんなに有名な観光地でも、一本路地に入れば雰囲気がガラリと変わる。最低でも9時には到着したかったので、少々千鳥足になりながらも、なんとか正気を保ちつつ宿泊先に向かった。
 
酔いどれは、地図が読めなくなるらしい。方向音痴も相まって、電車を降りた時には、もう10時を回っていた。
 
今回の旅はコスパ重視。Airbnbというアプリで宿を探していたため、民泊が中心だ。ミュンヘン中心地からひときわ離れた住宅街にあるアパートの1室が、その日の寝床だった。

なんとかアパートに到着し、ホストに指定された場所で部屋の鍵を探す。その日は私たち以外に宿泊客がおらず、ホストも別宅で泊まるらしいので、自分たちで鍵を開けなければならなかった。ホストには昼間に1度会った。その時鍵の置き場所を教わっていたため、探し出すのに苦労はなかった。
 
手に入れた鍵を握りしめ、部屋の前にたどり着く。1日中歩き回っていたから足はもう限界。スマホの電源も尽きかけていた。明日も早いし、今日はちゃんと寝るか〜〜なんて笑い合いながら、鍵を鍵穴に差し込み、ドアノブをひねる。
 
 
 
………開かねえ。
 
 
 
押しても引いても、ドアはびくともしなかった。え、ドユコト?試しに鍵を反対方向に回してみる。ガチャガチャと音はするものの、途中で何かに引っかかってしまい、開く気配が全くない。
 
いや、まてまて。落ち着け。
これは多分、私の腕力がないだけだ。
小学校の体力検査で握力20越えたことなかったし(?)
 
薄っぺらい言い訳がよくもまあペラペラと出るもんだ。当然落ち着けるわけもない。とりあえず友達と選手交代をしてみるが、やっぱりドアはびくともしない。思わず顔を見合わせる。
 
真夜中の住宅街。人通りはほぼなし。
スマホの充電はほぼ底をついている。ポケットWiFiは電池切れで、ジャーマン式鍵の開け方をググることもできない。市街地に戻る手もあるが、道中やべえ奴に襲われるかもしれない。リスクがでかすぎる。
 
 
この状況、控えめに言ってかなりアカンくない…?
 
 
そこから約30分、死に物狂いで開かずのドアと格闘し続けた。人は危機的状況に立たされると、感情のメーターが狂うらしい。「なんか開きそうな気がする」「あ、1ミリ動いた(気がする)」と妙にポジティブな台詞を吐きながら、闇雲に押したり引っ張ったりを繰り返す。…ドアが壊れなかったのが今でも不思議でたまらない。
 
ついにスマホの電源が切れた頃、
私たちの体力も0になった。
 
終わった、終わったわ。今日は野宿だわ。
 
壁にもたれかかり、深いため息をつく。会話する気力すらなく、地面に視線を落としたまま沈黙が続く。

あーあーせっかく楽しかったのになあ。予定が大幅に狂うこともなくて、幸せいっぱいだったのに。調子こいて酒を仰いでたさっきまでの自分を殴ってやりたかった。もう少し早く店を出ていれば、ポケットWifiがご臨終する前に到着できたかもしれない。旅の神様は意地悪だ。何事もなく終わらせてくれるほど、甘くなかった。
 
 
 
絶望しながら外を見る。刹那。うっすらとオレンジの光が視界の隅に飛び込んできた。
光源は隣のアパートの1階あたり。たしか、車の修理屋さんらしきお店があったっけ。入り口から光が僅かにこぼれているように見える。
 
これは…
 
ワンチャンあるかもしれない。
 
 
「襲われるかも」なんて甘言をこぼしている暇はなかった。
疲労困憊の足に鞭を打ち、鍵を握りしめたまま走り出す。
目の前に転がっている希望を、簡単に手放すわけにはいかないのだ。こっちとら捨て身の覚だ、なんとしてもすがりついてやる。
 
 
幸運なことに、玄関から見えたあのオレンジ色の光は見間違いではなかった。
入り口のドアが僅かに開いていて、部屋の中の明かりが外まで溢れている。そしてなにやら物音もする。人がいるようだ。
 
そっと中をのぞくと、蛍光色の作業着を着た中背の男性がタイヤを抱えて作業をしていた。お仕事中みたいだ。
 
男の人かーーーちょっと怖いなあ。せめて女の人なら…。しかし、ここまで来て怖じ気づくわけにもいかない。勇気を振り絞り、せいいっぱいのExcuse meを放った。
 
 
男性はすぐにこちらに気づいた。私たちのところに駆け寄ってくる。
表情は決して豊かではない人だった。むしろ顔が少し強ばっている。

ひるむな私。踏ん張れ。
 
握りしめた拳にぐっと力を入れる。なけなしの英語で状況を伝えた。とにかく、頭に浮かんだ単語を並べ続ける。文法なんてクソ食らえだった。この際伝わりゃなんだっていい。
 
彼は相づちもろくにしなかったが、とりあえず了解したらしく、
一通り説明が終わると、「わかった、いこう」的なことを言い、私たちより先に歩き出した。
 
まじか!!紳士すぎるやろ!
 
半泣き状態でセンキューを繰り返す。男性は振り返ることなくアパートへと向かう。私たちも慌てて彼の背中を追いかけた。
 
 
そこからは本当に早かった。
部屋の前に着き、彼に鍵を渡す。
「押したり引っ張ったりしたんやけどねえ」「何してもまるで動かなかったんよ」この期に及んで、悪あがき程度の言い訳を並べ立てる私をよそに、彼はドアの前に立った。
 
鍵穴に鍵を差し込み、
ドアノブを思いっきり引っ張る。
 
ガチャンっと耳をつんざくような音がしたかと思うと、目の前の景色が一気に変わった。
部屋の中に立ちこめた空気が、外にふわっと突き抜ける。
 
 
あ、開いた……。
 
 
思わずキャアっと歓声を上げる。まるで試合終了1分前に逆転ゴールを決めたサッカー選手かのように、私と友達はガッチリ抱き合った。やった、やったあ、これで安心して寝れる。野宿しなくて済む。
 
 彼はまさに救世主だった。
センスの良い謝辞が私の辞書にないので、オーマイゴッドとセンキューをこれでもかというくらい繰り返す。その姿は、神にすがる愚民そのものだったと思う。
 
男性は、ようやくこちらを振り返った。
大きくて綺麗な瞳。口角をキュッと上がる。
あ、笑った。
 
「ジャーマン式は、ちょいとコツがいるのさ!」
 
鍵を私に返した手がそのまま、
私の頭をそっと撫でた。
彼氏が彼女にするように優しく、ポンポンと。
 
 
エッ…?
 
 
思わず固まる。
頭ポンポンされたことを脳が理解した時には、
もう彼の姿はなかった。
 
 
名前を聞くこともできず、
記念に写真を撮ってもらう暇もなく、
彼は、風のように去っていった。
 真夜中、仕事場に突如現れたアジア人。カタコトの英語で助けろと言われ、わざわざ隣のアパートに呼ばれる。普通に考えれば超迷惑な話だ。それなのに、なんだこの神対応。嫌な顔ひとつせず、すぐに駆けつけてくれて、その上、頭ポンポンなんて…。
 
 ほ、惚れてまうやろ~~~~~~!!!!

恋人にするなら、絶対に日本人。
それまでの私は、こだわりが異常に強かった。
日本人なら、価値観や文化のギャップに悩む必要がない。言葉の壁もない。
留学生の友達が多くいるわりに、国際恋愛にみじんも興味を示していなかった。しかしそんな偏見は、彼によってぶち壊された。

 脳内スピーカーでbacknumberが流れ始める。
わかってる。実にチョロい。
だがその瞬間、私の辞書に「国際恋愛」の4文字がたしかに刻まれた。
 
 
その後、私たちは無事にヨーロッパ旅行を楽しんだ。
この他にもいくつかハプニングは起こった(…実はこのアパートも本来泊まる予定ではなかった。ある事件があり急遽予約をした)が、すごく長くなりそうなので、また別noteで書こう。
 

 
あの時手を差伸べてくれた彼は、
蛍光色の作業着を身にまとった救世主は、
元気にしているだろうか。
 
きっと、もう二度と会うことはない。
悲しいことに、顔も鮮明には覚えていない(覚えとけ)。
 
彼の幸せを祈り、4000字にも及ぶこのnoteに幕を下ろそうと思う。

初恋以来の胸キュンをくれた彼に、心からの感謝を込めて。

 

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P.S これからドイツに行く人へ。
ジャーマン式の鍵は、彼も言っていたようにちょいとコツがいる。
出国前にぜひこのサイトを見て欲しい。

真夜中の救世主がいつもいるとは限らない。
運命の王子様を気長に待つなら話は別だが、なんせ異国の地だ。リスクは最小限の方がいいだろう。



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