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在野研究一歩前(37)「読書論の系譜(第十九回):堀江秀雄『活少年』(明治書院、1900)②」

 みなさん、こんにちは、本ノ猪です。
 日々、お疲れ様です。

 今回は「在野研究一歩前(37)「読書論の系譜(第十九回):堀江秀雄『活少年』(明治書院、1900)②」」ということで、前回の続きとして、まず堀江の考える「世界の中の東亜及び日本」を確認し、次に読書論について見ていくことにします。

「吾々の金甌無缺と誇ッて居る大日本帝國は、國として、今既に其の競争をなして居るのである。しかも、競争の中心が、我が東亞に移ッて來たから、日本の蒙むる影響は、劇甚である。我が強いならば、彼を仆すべく、彼が弱くば、我は勝つべした。處が、東洋に於ける諸國は、概ね勢力が微弱で、殊に清韓兩國の如きは、君徳は薄く、民心は頑迷なものだから、常に上下の一致を缺いて、一揆や暴徒など、内亂の絶間がなく、禍を修交諸國に及ぼす事が頻なので、彼の豹狼の如く、鷙鷲の如く、暴慾で飽く事を知らない列強国は、この淸韓などの蒙昧未開なのを見て、奇貨となし、或は暴威により、或は甘言によりて、我が腹を肥やす事をのみ務めて居る」(P194~195)

⇒中身を要約すると次のようになります。
 文明発展のための弱肉強食の競争は、その中心を「東亜」へと移しつつある。その中で「勝利」を掴むためには、同じ東亜の住民である清国と韓国に依存してはならない。なぜなら、上記の二国には種々の点で欠点があるためである。
 ここからは、当時の知識人の多くに見られた「大日本帝国」中心の発想を確認することができます。

「我が輩は、みだりに諸君の目的に就いて云々する事を好まない。けれども、諸君が、我が日本の勢力範圍を擴張する事に、最も努力せられう事を切望する。政治家となッて内治外交を盛んにし、學者となッテ學術史上に異彩を放ち、教育家となッて文明の普及を計り、兵略家となッて尚武國の體面を保ち、實業家となッて富國の實を擧げるなど、いづれになりとも、我が向ふ所を定めて、天稟の才能を奮ひ、ろうして國家の勢力範圍を押し擴める事に志されるならば、まつ諸君の志望に於いて、遺憾はあるまい。」(P197~198)

⇒引用文の内容は以下のように纏められます。
 大日本帝国が西欧との戦いに勝利するためには、とにかく「勢力範圍を擴張する事」が求められる。この動きに寄与できるのは、なにも物理的に領地を拡大できる軍人、政治家だけではなく、学者や教育者、実業家となり異彩を放つことによっても果たすことができる。つまり、「大日本帝国」が、あらゆる分野にて世界で抜きん出ることが求められているのだ。そして、そこで大事になってくるのが、「少年」の教育なのだ。

 次に、その教育において重要とされる「読書」について見ていきたいと思います。(引用するのは「(二)少年と讀書と」の文章です。)

「少壮の時は、讀書を好むものである。また、好まねばならぬものであらう。古人が、悉く書を信ずれば書なきに如かずと言ッた如く、あまりに書籍に依頼すると、弊害が多いけれども、また書籍の媒介に因ッて得る智識も決して少くないから、讀書は、修行中、最も食ふべき事の一つである。」(P131)

⇒これまでnoteの中で見てきた幾つかの読書論と重なるところが多いです。
「読書することは大切なことであるが、あまりに書籍に依存することは時に「弊害」となる。」
 適度な読書ライフが求められていると言えます。

「我が輩は、少年學生に向ッて、教科書の豫復習を促すのみならず、それ以外の書物をも繙讀翫味して、受業の助とせられう事を勸めるのである。少壮にして、まだ意志の確定し難いやうな者には、教科書の色々を閲讀する事は勸められぬが、東西豪傑の言行錄や、航海、遠征、探檢家の冒險談を記したるものなどは、それに最も適するだらうと思ふ。」(P132~133)

⇒ここでは、学校で使用する教科書の予習復習と、その補助としての読書の重要性が説かれています。ここで面白いのは、少年期には、種々の教科書を読み比べてみることが勧められていない点で、ここからは当時において、教科書の中身に出版社間での違いがあったことが確認できます。
 一方、堀江は、「東西豪傑の言行錄や、航海、遠征、探檢家の冒險談」などを勧めています。

「すべて、詩や歌にも限らず、奇語妙句の類の、人を感ぜしめるに足るものは、繙讀の際に、之を紙片に認めおくか、ノートブックに書き抜きおいて、暗記する事を勉めるが可い、少年の頃は、記憶力が、最も強く盛んであるから、その位のものを暗記するのは雜作がない。そうして、それが、一生の中に、いくら役に立つかは、經驗ある者の、常に語ッて居る所である。」(P133~134)

⇒これも、読書論においては定番の「メモ」のススメです。
 また堀江は、読書中に遭遇した重要箇所をメモして、それを記憶化していくことも、同時に勧めています。

 以上、本書に記されていた読書論の内容を確認しました。
 世界競争の渦中にいる大日本帝国、そこに生きる少年たちが活躍していく上で大切とされている「読書」。一見すると、実用的な知識が重要視されそうな社会状況において、当然のごとく「読書」が重視されている状況をどう見るのか。考えさせられることは多いです。

 これにて、「在野研究一歩前(37)「読書論の系譜(第十九回):堀江秀雄『活少年』(明治書院、1900)②」」を終ります。
 お読み頂きありがとうございました。

 

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