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コツ

 蔵書の整理について、世間には二つの流れがある。
 一つは、蔵書はあればあるだけいい、積読万歳、というもの。もう一つは、蔵書はこまめに整理して、不要なものは手放す、というものだ。
 本好きとしては、どうしても前者の主張ばかりを受け入れて、自分を正当化したくなる。慰めたくなる。ただどう足掻いても、自宅の空間上の限界を無視することはできない。
 本棚を当然のように埋め、床のスペースを侵食していく本たち。放っておけば、足の踏み場もなくなりそうである。本を踏んで痛めるという惨事を避けるためにも、本とは定期的にお別れしなければならない。

 以前、蔵書整理に臨むために、友人から一冊の本を借りた。
 沢野ひとしの『ジジイの片づけ』
 借りた理由は、蔵書数を減らすために本を一冊購入する、この行為に矛盾じみたものを感じたからだ(結局、後に購入する)。あと、友人が「それなりに参考になる」と勧めてくれたことも大きい。

 「若い頃は部屋をモノで溢れさせるのが喜びであった」。本書の「まえがき」は、この一文から始まる。
 部屋の中に置かれたモノは、年を経るごとに「思い出」をまとい、なかなか処分できないものになって、部屋を占領していく。生活空間が窮屈になる。対処するには、定期的に部屋を掃除&整理整頓しようとする、心がけが大切になる。その実践が、本書に纏められている。

「机の引き出しや本棚、あるいは薬箱などには隙間を用意しておくことが極めて大切である。旅行トランクにしても出発の時から一分の隙間もなく、物を入れてしまうと旅行そのものが窮屈になってしまう。
 整理整頓も行き過ぎると息が詰まり、ロクなことはない。それよりもたえず余裕ある隙間、空間を作る方が大らかな人間を作りあげる。」
沢野ひとし『ジジイの片づけ』集英社、P38)

 上記の文章には、「たしかに……」と唸らされた。
 我が家の本棚を見ても、笑えるほど隙間がない。特に文庫棚が顕著で、多少指に力を入れないと、本が取り出せない棚がある。
 こうなると、棚に流動性が無くなって、一冊一冊の位置が固定化されていく。埃が溜まるだけのアンティークになってしまう。
 最近私が、あまり本棚を購入しないようになってしまったのも、ここに原因があると言っていい。本棚を買うと、どうしても頭の中で何かが分泌されて、「棚が埋まるまで、本が買える!」となってしまう。その結果、床の上にも本が積まれた状況は改善されず、ただ本棚が一つ増えただけになる。

 沢野のアドバイスに倣い、とりあえずよく手に取る本の先鋭だけを集めて、棚にゆとりのある一画を作ってみた。この空間が自分の読書ライフにどのような影響を与えていくのか。今後が楽しみである。



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