見出し画像

割れた茶碗は元に戻らないけど金接ぎすると別の美しさをもつ

金接ぎあるいは金継ぎ(読みはいずれも「きんつぎ」)という技法をご存じですか。欠けたり割れたりした食器を天然の漆と純金粉で修理する日本の伝統技法です。破損した部分を漆で接着した後に、金で装飾します。食器は破片を繋ぎ合わせることによって、きわめて美しい芸術作品へと変貌を遂げます。トラウマからの回復は、金継ぎと似たところがあります。

「自分には力がある」と感じられる状態をまず作ってから、トラウマを受けた時点での記憶を「振り返る」と、元々のトラウマが起こった時点で、あたかもすでにこの力をふるうことができ、完全に機能していたかのように記憶が上書きされる。この新たに再強化された体験が、過去の記憶を大幅に変更するのである。この、新たに表出してきたリソースは、過去と現在を結ぶ懸け橋、つまり「記憶されている現在」になる。

こうした方法を遣えば、トラウマを引き起こすような出来事が起こり、激しく傷ついたという真実は保たれたままで、悲嘆と激しい怒りを通して、事故の尊厳と確固とした自尊心を取り戻すことができる。この「現在に基盤をおく自己への慈しみ」という土台から、記憶は徐々に軟化され、再形成され、個人のアイデンティティの織物へと再び織り込まれていく。

「トラウマと記憶 脳・身体に刻まれた過去からの回復」(ピーター・A・ラヴィーン著/花丘ちぐさ訳)

養育者に受け入れられて育った人を、欠けたところのない食器だとすると、長期的で複雑なトラウマを抱える人は、ひびが入った、あるいは割れた食器であり、回復の手立てを尽くしても、欠けていない食器にはなれないのだと思います。念のため、引用元の意見ではなく私の意見です。

素直に伸び伸び育った人を見ると眩しくてくらくらします。私があんな風に育ったらどんな人生だったかと思うと、本当に辛い気持ちになります。

きっと、私はあちらの世界にはいけないけど、こちらの世界で何かの存在になることができます。割れた食器が、破片を繋ぎ合わせることによってきわめて美しい芸術作品へと変貌を遂げるように。それは慰めになります。ただし、この傷を理解しない人に安易に言われたくはありませんが!

この方法論によるトラウマの傷の癒しを行うと、海の水が寄せては返すように、次第に力が満ちていき、調和、自己への慈しみ、尊厳が徐々に戻ってくる。これほど美しく価値のあることはないのではないだろうか?

「トラウマと記憶 脳・身体に刻まれた過去からの回復」(ピーター・A・ラヴィーン著/花丘ちぐさ訳)

きっとこれが私の行きつく先なのでしょう。欠けたことのない食器を見て過去の傷が疼くのは止められないけれど、それでも私は生きていきます。割れた破片のまま転がっていた頃に比べれば、だいぶ機能するようになりました。

**********************************
自己紹介

脳の火災報知器が“誤作動”しなくなってきた
https://note.com/homoludens3839/n/nf4b02f181c00

月一セラピーの日でした 恐怖また恐怖 動けないのは訳がある
https://note.com/homoludens3839/n/n20512360fecd

身体が安心を感じるとお仕事の依頼がやってきた
https://note.com/homoludens3839/n/n79bcf7b3bc67

「親といるとなぜか苦しい」ドンピシャ やっぱりうちの親は話しても無駄な人
https://note.com/homoludens3839/n/n5f92ccc4f084



いただいたサポートは、教養を深めるために使わせていただきます。ありがとうございます。