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ファストファッションとルブタン。現代版「カルメン」_2021年7月19日

先日、大好きなマエストロ、大野和士さん指揮の、大好きなオペラ「カルメン」を見に行きました。

カルメン役のステファニー・ドゥストラックさんは、キャラクターが立っていて、抗えない強烈な魅力を持つ悪女、カルメンにピッタリだった。そして、今回もビゼーの音楽が本当に美しかった。

手錠に繋がれたまま、ホセを懐柔すべくカルメンが歌う【セビリャの城壁の近くに・セギディーリャ】などは、すっかり魅了されました。

写真は新国立劇場ウェブサイトよりお借りしました
写真は新国立劇場ウェブサイトよりお借りしました

一方で、今回の演出は、好みが大きく分かれると思いました。
 
ありがたいことにこの所とても忙しく、事前に演出家の意図などのインタビューを読まずに行きました。そのため、舞台設定を現代の日本に移していたり、カルメンがロックバンドのヴォーカルであったり、ホセが警察官であったりする斬新な演出や、舞台装置、カジュアルな衣装の全てに、慣れるまで時間を要しました。

舞台上は、格子状に組み上げられた鉄骨と剥き出しのライト、出演者たちは、私が普段見慣れている、カジュアルや、ビジネススーツなどの衣装を着ていました。
確かに私もSNSにアップされている写真を数枚見たけれど、誤解を恐れずに言えば、どれも出演者が私服で行っているリハーサルの模様かと思っていました。でも、どれも本番の衣装でした。

主役のカルメンこそ1.2幕でルブタンを履いていましたが、そこに目が行く時点で、幕が開く直前まで全身を浸していた日常生活から、私が意識を切り離せていないことを意味しました。

個人的に、これまで好んで見てきたオペラのような、天井の隅々まで美しく装飾された舞台美術や、丁寧にデザインされた衣装といった「眼福」も、私がオペラに求めているものだ。今回はそれをあらためて痛感しました。

写真は新国立劇場ウェブサイトよりお借りしました

さらに誤解を恐れずに言えば、数万円のチケット代を払って、目に写るものがその辺を歩けばいつでも目に入る服装では心が癒されませんでした。

それでも音楽と歌声は、圧倒的に美しい。しかしそれとともに、目の前には普段着の群衆がいて、市場の売り物を宣伝している。

「安いよ! 安いよ!」
いつもは活気に溢れて大好きな場面なのに、今日は妙にこの歌詞が耳に残りました。
  
最も好きなアリアで、どうしても音楽に集中したいところは、申し訳ないけれど、比喩ではなく目を瞑らせてもらいました。

かつて見てきた「カルメン」の舞台美術を意識的に思い出しながら、今まさに耳に届く音を当てていました。

襟など正さず、舞台上に溢れている衣装と同じような、何度も着たようなありふれたパーカーやスニーカーで聴きに来たとて、たとえジーパンであっても、ドレスコートに外れなかったのではないかとさえ一瞬、思いました。

でも、オペラに造詣の深い先輩方によると、この演出も良いそうです。

目に写るものはどの時代のどんな風景であっても、ビゼーの作曲した「カルメン」の曲たちは美しく、楽しく、エキサイティング。普遍的なストーリーも合う。
そのことが分かる良い体験をしたのだと、教えられました。

何度も見てきた、大好きな「カルメン」。1回くらいはこういった演出で見るのも悪くないかもしれません。

ありえないけれど、「トスカ」や「薔薇の騎士」でこの演出をされたら、控えめに言っても、嫌だな。
まだまだ耳と目の肥えていない私などは、そんな感想を持ってしまいました。

これからも、違和感のある表現さえも体験していきたい。心と耳を育てたいのです。

長文にお付き合いいただきまして、心より感謝申し上げます。

※舞台の写真は全て、新国立劇場オフィシャルからお借りしました。

ききみみ日記】というマガジンに、ここ数年のオペラ・クラシック演奏会の感想を毎日UPしています。
直近の演奏会はもちろん、ここ数年のSNSへの投稿を遡りながら、微調整しています。 是非お越しいただけますとうれしいです。
(2022年10月10日開始)


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