孤独と幸せのカンケイ
「男が決めたことだ。仕方がない」
まだ着任して9ヶ月の新任の部長は
ため息をつきながら、
私が提出した退職願いを受け取った。
ちょうど半年前のことだ。
「40歳手前で転職なの?」
「このコロナ禍でよくやるねー」
「違う業界にいくなんてすごいね」
周囲からは、様々なリアクションがきた。
想定以上にネガティブなものが多かった。
新しい環境に身を置く時。
職場や学校といった時間の大半を使う
環境を変えるとき。
人は孤独感をひとえにまとう期間を
一時的に抱えることになる。
あくまで一時的なものだろう。
いずれ、慣れが訪れ、それが「日常」になる。
たとえば学生時代に、
新しい仲間とはじめて触れ合えたときに、
大きな安堵感を覚えた経験を
お持ちの方も多いのではないだろうか。
孤独という状態。
たまには一人の時間がほしいと言ったり、
誰かと群れていないと落ち着かなかったり、
人間はわがままな生き物だなと
思ったりもする。
一人でいることをポジティブに捉えるのか、
ネガティブなこととして捉えるのか。
孤独という言葉で、
自分の記憶を想起させるのは
大学受験に失敗して過ごした
浪人の時代である。
受験に失敗した敗北感、
親に予備校の学費を負担させている
後ろめたさ、
現役で第一志望に合格し、
楽しいキャンパスライフを
過ごしているであろう同級生への羨望。
様々な感情が入り混じりながらも
その感情のやり場もなく、
ただ予備校のテキストと向き合っていた。
何かに打ち込んだり、
強烈なアウトプットを出すとき、
孤独な時間というのが必要な場面というのは誰にでもあるだろう。
教室と自習室と自宅の往復のみの
生活で、ストイックな生活を送った。
ときどきファミレスで夜勤のバイトもした。
最低限のお小遣いも欲しかったし、
なにより完全に社会とのつながりが
絶たれるのが怖かった。
たまにバイト先の店長から
「悪いんだけど、この日シフト入れる?」
って聞かれたときは
「自分なんかでも必要とされている」と
感じられて嬉しかった。
飲食店は様々な人が訪れる。
当時の深夜帯のファミレスの
客層はバリエーションが豊富だった。
どこか怪しげなカップルだったり、
水商売のお姉さま達だったり
ダブルのスーツで決め込んだ
オジサンがいたり。
常連になっていろんな話をした方もいたし、
ときにはクレームという
お叱りを受け勉強させて頂いた。
とりあえずやりたいことはない。
とりあえず4年制大学に行って、
じっくり将来を考えればいい。
そんな漠然としたことしか考えていなかった自分にとって、ここでの出会いは、新鮮だった。
別にいま生き方を決めなくていい。
どうとでもなる。なんとかなる。
川下りのような生き方でもいい。
そう思えたのだ。
人は「つながりによる安心感」で
幸福を得ることができるらしい。
特定のコミュニティに所属していると
その帰属意識を持っていることや
交流できる楽しさといったものには
なかなか気づきにくいものだ。
浪人生のときはとにかく
自分と同じ境遇の人間が
ほとんどいなかった。
恋人がいない。
友達がいない。
相談できる相手がいない。
現役で合格できなかったという疎外感。
そして生意気にも中途半端に
予備校仲間を作って「傷のなめあい」
みたいなこともしたくはなかった。
いまとなっては「もっと素直になれよ」と
当時の自分に言ってやりたい気もするが。
実際に孤独を経験して、
はじめて「人とつながる幸せ」を
実感することができた。
それは、学校とかサークルとか
会社というでかいコミュニティ
に所属してつながることがすべてじゃない。
よく顔をあわせるスーパーの
レジのおばちゃんであったり、
近所の銭湯のサウナでよく一緒になり
会釈を交わすちょっと怖いお兄さんであったりしてもいい。
そんなレベルの交流でも
孤独は紛らわせられるし、
幸福感を得ることができるの
ではないだろうか。
歳を経れば経るほど、
このささやかなつながりの
コミュニケーションが
おっくうになっている人をよく見かける。
それこそバリバリの
エリートサラリーマンだった人が、
定年退職になって、趣味もなくやることもなく
急速に生きる活力を失っていく。
そんな老後を過ごしたいサラリーマンは
いないだろう。
将棋でもドライブでもゴルフでも
趣味があれば、
その中でのささやかなつながりが、
幸福感を助長してくれる。
一人でいる孤独な時間も大事にしたいが、
ささやかなつながりにも
感謝し続けていくこと。
「幸福は気づいたもん勝ち」
とはよく言ったもの。
歳をとると、「他者に開く」ということが
億劫になってくるのかもしれないが、
好奇心にしたがって飛び込めるように
飛び出す勇気を常に持っていたいと思う。
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