鈴木健史(保育ファシリテーター実践研究会 主宰)

東京立正短期大学 幼児教育専攻 准教授。 保育ファシリテーション実践研究会主宰。 専門…

鈴木健史(保育ファシリテーター実践研究会 主宰)

東京立正短期大学 幼児教育専攻 准教授。 保育ファシリテーション実践研究会主宰。 専門は保育者論、子育て支援、ファシリテーションなど。 講演・研修・執筆依頼は「保育ファシリテーション実践研究会ホームページ」から https://hoiku-facili.work

マガジン

最近の記事

からだはとても正直

からだはとても正直です。心の中で起こっていることが、からだという媒体を通して様々な形で表に出てきます。 (略)しかし、心の中で起こっていることとを正直に表に現す時ばかりではありません。 例えば、「大丈夫」と言葉で発していても、からだは猫背になり疲れが表れていることなどがそうです。 つまり、からだのサインを見ることで相手の心の状態を理解するヒントにすることができるのです。 (星野欣生「 人間関係づくりトレーニング」.金子書房 より) 相手の心の状態だけではなく、自己のからだの

    • 【第39話】リーダーが変わると職員が変わる③

      さて、二人のリーダーとの話し合いでは、職員同士の対話の機会を増やそうということになった。 ただ、これまでも順子は対話の必要性は感じていて、その機会を確保しようとしてきたのだが、事務や雑務が多くそのような時間を確保できていなかったのである。 すると幼児リーダーの飛田が、園内で行っている会議の一覧を作ろうというアイデアを出してくれた。乳児リーダーの滝本とも相談し、一覧には、参加者、必要な時間を入れていった。 自分たちの取り組みにまだ自信がなかった順子は、電話で自分たちの取り

      • 【第38話】リーダーが変わると職員が変わる②

        それからしばらく順子は、栗田と話をした。栗田と話をしていると、不思議と自分が経験してきたことや気づいたことが、整理されていくように感じた。それはまるで、食べ物が消化され栄養になっていくようであった。 順子は一方的にとめどなく栗田に話をしつつ、どこかこの状況を客観的に眺めている自分がいることを感じていた。 (なぜ栗田は、私のことを私よりもよく理解しているのだろう?そして、まだ二回しか会っていないのに、なぜ栗田に対して自分は正直にありのままを伝えることができているのだろう?こ

        • 第4幕【第37話】リーダーが変わると職員が変わる①

          油井園長と栗田の面談は、順子が予想していた以上に長時間になった。何とか時間をやりくりして順子は栗田と話をする時間を確保できた。 先程栗田はいらないと言ったが、目は油井の前にあるどら焼きに釘付けだった。 「本当に遠慮なさらず。よかったらどうぞ」 順子が薦めると、「では遠慮なく」と言って栗田は美味しそうに食べた。どうやら本当に甘いものが好きなようだ。どら焼きを食べている栗田は終始笑顔で、食べるのにあまりにも夢中だったので、順子はとりあえず食べ終わるまで待つ事にした。 どら

        マガジン

        • コミュニケーション・人間関係
          27本
        • ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦
          42本
        • 保育ファシリテーション・リーダーシップ
          45本
        • ファシリテーションの素材・フレームワーク集
          23本

        記事

          第3幕【第25〜36話】 解説

          第30話から「幻想の中で生きる」というタイトルにしました。 主人公の順子は、乳児・幼児リーダーの二人に「リーダー会議」を行うことについて提案することを最初はためらっています。 その理由は、新たな会議の時間を設けることや、リーダーとしての役割を今以上に求めることで、二人に過剰な負担をかけてしまうのではないかということが心配だったためです。そしてその結果、二人が辞めてしまうことを恐れています。 ファシリテーターの栗田は、順子の気持ちを察しつつ、その心配が現実のものかどうかを順

          【第36話】油井園長の葛藤④

          「色々とお話いただきありがとうございます。もしお話できそうでしたら、保護者からの指摘があったときのことについて教えていただけますでしょうか?」 「ええ・・・。構いません」 「先ほど少しお話されていたのが、保護者から保育についてのご指摘をいただいたとのことでしたね?」 「そうです。私が園長になって1年目のことです。私はその頃、園長としての仕事に慣れるために必死でした。だからといって、保育に対して力を抜いていたわけではありません。毎日クラスに入って、子どもや保育の様子を知る

          相手の表情や仕草はフィードバック

          キャッチボールは、投げ続けることで精度が上がってきます。 なぜ精度が上がるのでしょうか。それは、投げたボールがどこに飛んでいくかを目で追っているからです。 つまり、ボールがどこに飛んで行ったのかを目で確認して、次に投げる時に修正を行っているということです。 たとえば、目隠しをしてボールを投げたとしたら、何度投げても精度は上がりません。 コミュニケーションも、キャッチボールのように精度を上げるには、相手の反応を確認しましょう。 相手が首を傾げていたり、腕組みをしていたら

          【第35話】油井園長の葛藤③

          それから油井は、これまで順子とともに取り組んできた様々な取り組みを話した。とにかく職員が辞めないように、人間関係を考慮して人員配置を工夫したこと。仕事に負担を感じないように、極力職員に新しい仕事を振らないようにしたこと・・・。 「そうですか。お二人とも色々と職員に配慮されてきたのですね」 栗田の傾聴の姿勢が、徐々に油井を饒舌にした。 「そうなんです。どの先生もとても優しいので、子どもたちは安心して生活できていると思います。ただ・・・」 「ただ?」 「・・・先生たちは

          相手を傷つけたら「ごめん」と言えば良いだけ

          コミュニケーションはキャッチボールと同じです。相手がいないと成立しません。 そして、練習すれば必ず上達します。 コミュニケーションも練習しないと上達しません。 自分の思いや考えの伝え方や、聴き方など、対話のやり方も練習しないとうまくなりません。 練習するということは、失敗から学ぶということです。 ところが、コミュニケーションを失敗することを人は過度に恐れます。失敗を恐れて練習できなくなるのです。 キャッチボールで失敗しても、ボールを落とした相手を責めたり、自信を失ったり

          相手を傷つけたら「ごめん」と言えば良いだけ

          【第34話】油井園長の葛藤②

          さて、初回の研修後、ファシリテーター協会の栗田から電話があった。 どうやら栗田は大学で授業も担当しているようで、大学の都合で授業日が変更になったようだ。変更後の授業日はちょうど次回の園内研修が予定されている日であった。大学から園までは電車で2時間弱かかるため、授業後に移動すると、どうしても園内研修の時間に間に合わないようなのだ。 しかし運良く、栗田の変更希望日と、園の都合の良い日が一日だけ一致したため、その日に研修の日程を変更することにした。 「それでは失礼いたします・

          【第33話】油井園長の葛藤①

          油井益代(あぶらいますよ)は、長年保育現場で多くの子どもと関わってきた。そのため、管理職である園長という立場でありながら、常日頃から各クラスに入って子どもたちと関わっていた。 やはり自分は子どもと関わっている時が一番楽しい、と油井は感じていた。 保育者を志したのがいつだったのか、あまり明確ではない。 益代の実家は農家で、繁忙期には地域の子どもたちを集めた季節保育所に預けられていた。益代は一人っ子だったので、保育所で友達と遊んだり、自分より幼い子どもの面倒を見るのが好きだっ

          【第32話】幻想の中で生きる③

          子どもの理解において順子が大切にしていることは、複数の推測をすることだ。つまり、「ああかもしれない」「こうかもしれない」と、決めつけをせず色々な可能性を考えることだ。そうすることで、保育者の関わりも多様になる。保育には「こうすれば必ずこうなる」という正解がないからこそ、そのような保育者の姿勢が大切だと考えていた。 しかし職員に対してはどうだ。なぜか対象が大人に変わっただけなのに、いつも決めつけてしまう自分がいる。飛田が記録を書けないのも、努力や熱意が足りないせいだと決めつけ

          人材育成で欠けているもの「試させる」

          人材育成でよく欠けてしまうものが「試させる」です。 人は体験から多くを学びます。体験から学ぶには、「何が起こったのか」「なぜ起こったのか」など体験をふりかえり、「次にどうするか」を考えるという体験学習の循環過程を繰り返す必要があります。 体験から学ぶということは、失敗から学ぶということです。 人材育成において、失敗を恐れさせるような関わり(失敗を咎める、必要以上の責任を負わせるなど)をしてしまうと、新たな一歩を試そうとしなくなります。 すると、昨日のやり方を今日も繰り返す

          【第31話】幻想の中で生きる②

          自分が感じていることと現実には乖離があるのかもしれない、と順子は考えるようになっていた。 最近、順子が保育において気になっていたのは、保育者の子どもの理解が浅いということだ。 たとえば保育者の保育記録を読むと、「〜して遊んだ」「〜を楽しんでいた」という記述が多い。 しかしこれでは、子どもが何を楽しんでいたのか、記録を日々チェックしている順子には理解できない。 もう少し丁寧に子どもの興味関心や育ちを読み取って欲しいという思いが順子にはあった。 そんな思いから順子は、つい保育

          人材育成で欠けているもの「動機づける」

          「研修を企画する時に大切なこと」でも書きましたが、人材育成でよく欠けてしまうのが「動機づける」です。 保育では、子どもの興味関心を理解することや、「面白そう」「やってみたい」という思いをとても大切にしますが、大人を対象とした人材育成ではそれが欠けてしまうことが多いと感じています。 基本的に、人は自分で「変わりたい」とか、「成長したい」と思わないと、変化・成長しようとしません。 外側から他者が「変わりなさい」「成長しなさい」というプレッシャーを与えることは、ありのままの自分

          人材育成で欠けているもの「動機づける」

          【第30話】幻想の中で生きる①

          二人のリーダーから、「リーダー会議」への提案に対してあまりにもあっけなく同意が得られ、順子は拍子抜けしてしまった。 自分が恐れていたことは何だったのだろうか、と順子はぼんやり考えていた。 リーダー会議を実施することについては、二人から反対されるだろうと思っていた。また、もし同意が得られたとしても、それは主任の順子の機嫌を損ねることを恐れ、妥協するだけだろうと予測していた。 ところが実際には、リーダーの二人からはリーダー会議に対する前向きな姿勢と意欲を感じられた。実際に本