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妙な夢の話【掌編小説】
【妙な夢を見たので掌編小説に書き起こしてみただけの雑文】
先日、妙な夢を見た。
もともとあまり頻繁に夢を見るほうではないし、ついでに言えば夢見も決して良いほうではない。
しかしせっかく湧いて出た奇妙な出来事なのだから、物語のかたちで記録しておこうと思った次第である。
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「わたし、手ぬぐいになりたいんだよねえ」
私は顔を上げた。あっけらかんと言ってのけた先輩は、いつもの朗らかさでにこにことこちらを向いていた。
意図をはかりかねる。カウンタ越しの距離が遠い。
「手ぬぐいになりたいんだ」
底の見えない、貼りつけたような笑顔だった。
そうですか、と、私は言った。
視線を落とすと、抽斗がある。開けると手ぬぐいがたくさん詰まっていた。私は手ぬぐいが好きだ。旅先で綺麗な柄に出会うとついつい買ってしまう。かさばらないからと気軽に増やし続けていたら、遂に抽斗のひとつが埋まろうとしていた。
お気に入りのお店の、地域限定柄だとか。旅のお土産だとか。日本酒の蔵元名が書かれたものもある。日本酒は飲めないが、手ぬぐいなら使えるからと買ったのだ。その日本酒柄を出そうとしたが、やめた。色が濃いので、色移りしたら困る。白地に鮮やかなコーヒーカップが染め抜かれたお気に入りが目に留まり、取り出した。神戸で選んだものだ。
これにしよう。
キャビネットを閉めると、隣に洗濯機がある。ここは、洗面所だ。
私はコップを取り出した。水を入れて、白い粉を入れた。洗濯用の、重曹。たぶん、そうだ。恐らく、きっと。
掻き混ぜると、白濁した。
これを入れれば願いが叶うのだと、私はたぶん知っていた。
洗濯機に、手ぬぐいを一枚と、コップの中身を全部入れる。蓋を閉めて、スイッチを入れる。ざあと水音がする。洗濯槽がごおおと回る。
私は機械の前に立って、待っている。
やがて洗濯機は回転を止めた。終了の電子音。
私はふと、振り返った。
誰もいない。居たはずの先輩は、忽然と消えている。
どく、どく、どく。
心臓の音。
私は洗濯機を開けた。
手を入れる。手ぬぐいを取り出す。広げると、白地に鮮やかな模様。なにも変わっていない。私の、お気に入りの柄。ただ心なしか、色が濃い。
手ぬぐいは、当たり前のように沈黙している。
私は。なにを入れたのだろう。
満足そうに沈黙している。
嗚呼。
成ってしまったのだな、と、思った。
私はそれをベランダに干した。
鮮やかな図柄が、満足そうに揺れている。よく晴れていて、乾きも良さそうだ。
ただそれだけのことである。
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