鰐洲ひつじ

ライター・校正校閲者。 (元ひつじわに)

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マガジン

  • わたしが結婚していたのは夫という名の安定企業

    離婚(予定)小説。終わりがどうなるかは知らない

最近の記事

画面の向こうにいるあなたと

「カンパーイ」と打てば必ず誰かから「カンパーイ」と返ってくる。それが、ほんの1年前までの、私の日常だった。 わたしはビールが大好きだ。 夕食時にはビールを飲むのが習慣で、子どもたちを寝かせた後にチーズやポテトをつまみながらビールを飲むのも大好きだった。育児、在宅での仕事、そして夫の父との同居、夫への機嫌取り、何かと干渉してくる親の相手……友人らが口を揃えて「ストレスフル」だと言う環境にいたわたしにとって、それは一種の慰めだった。 一日に何十回と「ねぇママ」と話しかけてき

    • かくも女はシタタカなるものか

       日傘を差しても影に入らない脚を日差しがじりじりと焦がしていく。いつもならさほど気にならない、重なり合うセミの鳴き声がやたらと耳に障る。  ストッキング穿いてるから日焼けは大丈夫かな。UV加工されてたっけ。一度日に焼けると元の肌色に戻るまで時間を要する由香にとって真夏の日差しは大敵だ。そんなことを考えられるくらいにはまだ余裕があるのかな、と深く息を吐き、ひとまず涼める場所に落ち着こうと手頃なカフェを探す。  社用メールアドレスに届いたメッセージが発端だった。 「雅則の妻です

      • 弟と初めて腹を割って話した話

        ※弟にはnoteで晒すと言ってある 先日弟から連絡が入った。​ 姉弟で親の愚痴大会でもしない? わたしは今離婚前提の別居中。約3ヶ月前に家を出たが色々と事情があって元いた家(夫と子らが暮らす家)から徒歩2分のところに引っ越したばかりだ。夫がわたしの親を頼って生活していたこともあり、元から過干渉な母親からのLINEや電話攻撃などでわたしが疲弊していたことも弟は知っている。引越しから2週間足らず、心身ともに参っていてまともに固形物を口にすることもできない状態だったが、何より

        • 唇に歌を、指先に鍵盤(ロールアップピアノ)を

          わたしこの度、ロールアップピアノなるものを購入しました! ロールアップピアノってご存じですか? わたしもぼんやりとしか説明できないのですが、「ロール」と名に付く通りくるくると巻ける鍵盤のこと。鍵盤はシリコン製で弾いた感触もとてもピアノとは言えないものですが、61鍵盤に留まらず本物のピアノと同じく88鍵盤のものも販売されています。音色の変更ができたりメトロノーム機能が付いていたりペダルも付いていたりする優れものです。 できるならグランドピアノが弾きたいものですが金銭的にはも

        画面の向こうにいるあなたと

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        • わたしが結婚していたのは夫という名の安定企業
          2本

        記事

          雨の日が、好きだった、好きだった

          雨の日が好きだった。 そう、雨の日が好き「だった」。 雨が嫌いな人はたくさんいる。わたしだってずぶぬれになるのは決して好きではないし、あまり舗装のよろしくない道路で某テーマパークのアトラクションよろしくバッシャーンと遠慮なく全身に浴びせられる泥水は大っ嫌い。それは悲劇だ。 でも、いくつもの店をまわってやっと見つけたお気に入りの傘を差せるのはやはり雨の日だけだし、少しかび臭いような土臭いようなあのにおいだって雨の日にしか嗅げない。雨に濡れて帰宅して、急いで熱いシャワーを浴

          雨の日が、好きだった、好きだった

          わたしが結婚していたのは夫という名の安定企業:第二話

          「芽久実ちゃん? 大丈夫?」 店員に頼んだのであろう氷水の入ったグラスを顔の前にゆっくりと差し出しながら裕美が掛けた声に、芽久実はけだるげに顔を上げた。寝ていたつもりはなかったが、半ば意識を飛ばしてしまっていたようだった。 「うん、飲みすぎちゃったみたい。あんまり強くないけどお酒は好きだからついつい飲んじゃうんだよね。あはははは」 「光士郎も寺島さんも、芽久実ちゃんにばっかり強いお酒飲ませるんだもん。ひどいよねぇ」 思い過ごしかもしれないが、口を尖らせながら発せられたそ

          わたしが結婚していたのは夫という名の安定企業:第二話

          わたしが結婚していたのは夫という名の安定企業:第一話

          どうして、わたしあんな男と結婚してしまったんだろう。 何度目になるのかわからない、少なくとも50回は越えているであろうその心の声にまたうんざりする。 考えたくもないことだが告白は芽久実のほうからだった。あの頃は若かったからだとか、あの時はお酒をたらふく飲んでいたからだとか、そんなくだらない言い訳ならいくらでも出てくる。しかし、今更いくつ並べたって何の慰めにもならならず、何の糧にもならない。 ただ、伸行さんを紹介してもらう前情報で、わたしは完全に舞い上がっていたんだよねぇ

          わたしが結婚していたのは夫という名の安定企業:第一話

          何故日本人というものは桜を見るとしきりに詩人になりたがるのか

          にわかに強くなった風に肩をすくめながら団地を通り抜けつつ、真奈美は桜を見上げていた。 八分咲きになろうかという桜に、素直に美しいと溜息を吐きながら、真奈美はひとりの男を思い浮かべていた。 あの人、何処にいるんだろうな。そもそも生きているのかしら。 1年の交際を経たプロポーズに首を縦に振ったものの、本当にそのまま話を進めていいのだろうかと迷っていた時に出会ったのがその男だった。真奈美がなんとも形容しがたい未来への不安を抱えたまま、女友達とふらふら飲み歩いているときに声を掛

          何故日本人というものは桜を見るとしきりに詩人になりたがるのか

          ADHDとアスペルガー、4年越しのほんとのところ

          本日ADHDと診断され、さらにはアスペルガーの傾向もあることがわかりました。ADHDは確信に近い域でずっと疑っていたけれど、まさかアスペルガー傾向もあるとは。そんな気がしなかったわけじゃない。だけどそれ以上にADHDと思われる特徴が目立っていたから若干の想定外ではありましたね。人間関係とかツイッタとかでの浮き加減考えたら納得しかありませんが。 そもそも、自分がADHDなのではと思い始めたのは4年以上前だった。でもその時意を決して受診した心療内科がちょいとアレで(おい)してね

          ADHDとアスペルガー、4年越しのほんとのところ

          扶養抜けのたたかい

          ありがたいことにお仕事をお任せくださる方がいるおかげで、先日とうとう夫の扶養を抜けた。夫の勤務先を巻き込んだ手続きの煩雑さ云々に関しても言いたいことはたくさんあるが、それは置いておいても、ここに至るまではまさに「紆余曲折あった」。 そもそもわたしはいわゆる「職歴」というものがほぼない。大学を卒業して一瞬だけ就職はしたが(そう、早々に内定を得ていたので一応入社式とオリエンテーションには出た)、すぐに退職・結婚・出産・育児で「社会人」にはなれなかった人間なのだ。 元々学生時代

          扶養抜けのたたかい

          ライターという仕事

          わたしがライターという仕事を始めたのは5年以上前。ライターといえば何だかたいそうな仕事な気もするし、おしゃれな気もするが、残念ながらわたしは何かを成し遂げたい、何かを伝えたいなんていうしっかりとした目標があったわけではない。 きっかけはとあるソーシャルサイトでのゲームだった。当時育児に家事に、そして夫との関係、義父との同居に疲れ果てたわたしはソーシャルゲームにどハマりしていた。何なら廃課金に足を突っ込みかけていただろう。そんな時、ゲーム内の仮想貨幣として使えるポイントが貯ま

          ライターという仕事