海外で学ぶ、働く:オーストラリア高等教育の現場から

キャンベラ大学(オーストラリア)准教授。専門は都市計画、交通計画、都市における災害リス…

海外で学ぶ、働く:オーストラリア高等教育の現場から

キャンベラ大学(オーストラリア)准教授。専門は都市計画、交通計画、都市における災害リスクマネジメント。2008年よりオーストラリア在住。noteでは、海外で勉強する、働くこと、キャリアアップ、オーストラリアの政治や経済、多文化共生社会について綴っていきます。

最近の記事

ChatGPT登場後のレポート課題

また更新までずいぶん時間が経ってしまいました。 私が更新をお休みしている間にも、読者の方々からお声がけ頂くこともありました。大変嬉しく御礼申し上げます。 さて、ChatGPTが登場してからしばらく経ちましたが、これによる教育・研究への影響ははかり知れないものがあります。私が同僚から聞くだけでも、5月に終わったセメスター1の課題で、明らかにChatGPTを使って書いたと思われる著しい数のレポートの提出が報告されました。これはもちろん世界中で見られた現象だと思います。私自身、

    • 先輩から学ぶ機会

      今週はまた学部1年生を連れて、各開発現場や建設現場に行っていました。キャンベラ(に限らずオーストラリアの主要都市)はまだまだ新しい住宅地が作られ、建設ブームが続いていますので、見学する現場はたくさんあります。 ランドスケープや建築の学生にフォーカスして引率したのがGinninderry という首都特別地区とNSW州を跨いで開発されている地区です。開発期間は30-40年という規模です。ここでは私の教え子(都市計画専門)が働いていて、彼女とも話ができました。 まずは、ランドス

      • Graduation ceremony 2023

        先週は、当大学では2022年末修了生の卒業式が執り行われました。 毎年、当大学では3月と9月に卒業式を行っています。 私にとって、今回の卒業式は特別なものになりました。 昨年末に博士課程を修了した学生が、博士号を授与されました。 彼は、5年前に、Australia Award というオーストラリアの国費奨学金(競争率は数百倍)を勝ち取り、インドネシアから私のところに来てくれました。 研究テーマは’Enhancing community tsunami evacuation

        • 科目のコンテンツ作り(シラバス承認後)

          前々回の記事「シラバス作り 承認編」では、新しい科目を作る際の、大学内での承認のプロセスについてご説明しました。 今回は、承認後の実際のコンテンツ作りについてお話します。 ここでも、大活躍してくださるのが、​​大学教育のプロフェッショナルスタッフです(当大学ではTeaching and Learning Teamといいます)。 今回の科目の場合は、特にオンラインの教材が多いので、オンラインが得意なプロフェッショナルスタッフにサポートしていただきました。そして、まず最初に

          オフィス見学は学びの宝庫

          私は学部一年生のProfessional Orientation (Built Environment)という科目を担当しています。この科目は、学問的な事を教えるのではなく、実践、それもキャリアや職業倫理を教え、早いうちからプロフェッショナルとして振る舞う基礎を作ってもらうことを目的としています。そのためには、同じ分野で活躍している方々がどういう風にキャリアを積んでいるか、日々仕事をしているかを知ることが大事です。また、建築や建設の現場で実際にどういう風にプロジェクトを進行し

          シラバス作り 承認編

          大学に入ると、学生にはカリキュラムやシラバスを配布されますね。当たり前のように配布されるので、私も自分が教員になるまで、こういったものがどうやって作られるのか、全く考えもしませんでした。教員になって自分が作る側になってその過程を知り、今の大学に移ってからは、その過程をリードする側になりました。 オーストラリアの大学のカリキュラムについては、学部編、Honours編、大学院編、研究過程編と、以前このnoteに書きました。 今回はシラバスを作る過程について、私が昨年から作って

          2023年新学期が始まりました

          2023年、今年のセメスター1がいよいよ今週から始まりました。私は早速今日から講義です。先週はオリエンテーションウィークとして、新入生たちはさまざまなガイダンスや新歓行事に出席していました。 初めてのことで、まだたくさん戸惑うこともあるけれど、大学生活に慣れたら、思いっきり楽しんでもらいたいです。大学時代って本当に人生における貴重な時間だと思います。 先週、昨年私の講義を履修していた、学部2年生の1人が私のオフィスを訪ねてきてくれました。少し大人っぽくなった彼女の成長を嬉

          番外編:Australian Open 2023を観に行ってきました

          オーストラリアの夏の風物詩の1つと言えば、Australian Open テニスでしょう。特に今年は、男子シングルス、西岡選手のベスト16進出や、女子ダブルス青山、柴原組の決勝進出で、日本でも大きく報じられたのではないかと思います。そして、コロナ規制がない今大会は、メルボルン全体でお祭り気分が高まっています。 先週末、メルボルンの会場に観戦しに行ってきました。 私が観戦したのは、男子シングルス3回戦及び女子シングルス大会3回戦、そして試合の前に選手が軽くウォームアップする

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          多様な時代の学生のメンタルのケア

          今日は、非常に辛い話題ですが、「学生のメンタルヘルス及び自殺」について取り上げます。大学の教員をしていて、指導していた、あるいは一緒に活動していた学生の自殺ほど辛いことはありません。近年、特にコロナ禍でまた深刻さを増している問題です。 私自身の経験では、日本の大学で勤務していた時に、部活動を通じてよく一緒に活動していた学生が、自らの命を断ちました。その時は、私は既にオーストラリアにいたのですが、自殺の1ヶ月前にもメールでやりとりをしていました。知らせを聞いて、「あの時のあの

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          夏がきた

          オーストラリアは昨年はラニーニャ現象で雨の多い年となりました。11月に入っても、まだ気温が上がらず、12月は歴史上1番気温の低い12月となりました。 それでも季節は巡ってくるもので、クリスマスを過ぎてからは、「ようやく夏がきた!」と感じる日々が続いています。 キャンベラも、ご覧の通り、ここのところ連日30度を超える予報です。 それでも、かつてのような40度近くにはなりません。ただ、日本と違って湿気が少ないので、かなり乾燥しています。今年は雨が多かったので、水の使用に制限

          なぜ研究者は海外(日本国外)に行くのか?

          明けましておめでとうございます。 今年もこの地味noteを読んでくださりありがとうございます。 このnoteを始めてから約1年半が経ちました。これまではテーマはありつつもできるだけマイルドなトーンで書いてきましたが、このトーンを続けると私自身の意見や思いなど、なかなか踏み込んだことも書きにくいということを感じてきました。また、時には読んだ本についての感想などマニアックな事も書きたいと思うようになりました。その部分は、今年からは有料とさせて頂きますので、ご容赦ください。もちろん

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          なぜ研究者は海外(日本国外)に行くのか?

          番外編:今年読んだお勧めの3冊

          今年もあと残りわずかとなりました。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、私はシドニーの日本の古本屋さん、Hondarake full of books さんとコラボして、月1回のブックトークや文学賞の開催をしています。毎年12月のブックトークのテーマは「今年読んだ中からお勧めの3冊」です。今日は番外編として、今年の12月トークで私が選んだ3冊をご紹介したいと思います。学生さんにも興味を持って読んでいただける3冊だと思います。 ブックトークの映像はこちら↓ 私は日本の本3

          研究アウトプット(論文)の書き方

          12月初めに少し日本に行っており、そしてその後コロナに罹ってしまって、2週間ほどお休みしておりました。 今日は研究アウトプットの書き方、すなわち論文の書き方について。これに関しては様々な書籍がありますが、私は上野千鶴子先生の「情報生産者になる」が最も参考になると思っています。この本では、主に社会学分野の例が出されていますが、基本のお作法などは、理系の学生及び研究者にも共通のものです。私は理系の分野に属しますが、定性的な研究もやりますし、数式を全く使わない論文も書きます。この

          海外で日本の研究を続ける理由

          今年の8月、日本の災害レジリエンスに関する本を出版しました。 オーストラリアに移住してから今年で15周年を迎えましたが、ずっと日本に関する研究を続けています。去年、日本の大学で非常勤講師をしたときに、学生さんから「オーストラリアにいても、日本の研究をしているのはなぜですか?」という質問をいただきました。この質問をした理由は「​​​​日本人で、日本に関する研究をするなら、日本で研究を行った方が、実際のフィールドワークも容易にできるし、結果を実際に地域に反映するのにも有効だと思

          コミュニケーション力を鍛える

          日本ではよく「コミュ力」と言われる、コミュニケーション能力。学術研究の場では、口頭、記述に関わらず、とても大事な能力です。自分が理解・発見したことを相手に伝え、納得してもらう事ができなければ、研究に貢献したとはみなされませんし、単位取得に必要なレベルの理解度に達した事を、教員に伝えて評価してもらうことだってできませんね。 以前、このnoteに投稿した「異文化社会でのコミュニケーション」という記事で、英語圏でのコミュニケーションは「ローコンテクスト文化」が基盤にあるという事を

          Graduate Exhibition 2022

          オーストラリアは2月に新学期(第一セメスター)が始まり、11月に第二セメスターの終了と共に学年が終わります(それから翌年の2月までは学生たちは夏休みです)。 毎年この時期(11月)は、最終学年の学生は、卒業制作や卒業論文(小論文だったり、honoursの学生は論文等を作成します)に忙しく、それらを提出するために、毎日遅くまで図書館や、製図室に残っています。 今週は、わが学部のGraduate Exhibition (卒業論文、卒業制作発表会)がありました。普段、大学の食堂