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なぜ研究者は海外(日本国外)に行くのか?

明けましておめでとうございます。
今年もこの地味noteを読んでくださりありがとうございます。
このnoteを始めてから約1年半が経ちました。これまではテーマはありつつもできるだけマイルドなトーンで書いてきましたが、このトーンを続けると私自身の意見や思いなど、なかなか踏み込んだことも書きにくいということを感じてきました。また、時には読んだ本についての感想などマニアックな事も書きたいと思うようになりました。その部分は、今年からは有料とさせて頂きますので、ご容赦ください。もちろん無料部分だけでも、何かしらのお役に立てる情報を提供できればという思いで書いているのには変わりありません。

さて、研究者の海外流出がニュースやSNS上で話題になって久しいです。

クリスマス前にも、名古屋大学のこのようなニュースが飛び込んできました。 

この記事の内容に関して、私が思うことは後に述べますが、研究者の海外流出は最近はじまったことではなく、ノーベル賞受賞者からも分かるように、随分前から米国籍を取得している方も多いですね(2021年受賞の真鍋淑郎さんや、2014年授賞の中村修二さんなど)。ただ、最近になって海外流出が加速していることは事実だと思います。

なぜ、研究者の海外(日本国外)への流出は止まらないのか?そして海外からの研究者はなぜ日本に来ることに躊躇するのか?若手研究者の思考も考えた上で、私の視点から整理したいと思います。

ここで、まず、私がいう研究者とは「日頃研究成果を国内外のジャーナル等で発表し、当該分野の発展に貢献することとされている方々(学会活動を含む)、大学教員については研究に加えて毎年学部、修士、博士課程の学生を一定人数受け持ち、研究指導を行う、及び講義と学内運営にも貢献するというミッションがある教員」の事を言います。テレビやラジオのコメンテーターとして、レギュラー番組を持っているような方々に関しては、どちらかというと、もはや「タレント学者」の方も多いですので、ここでの「大学教員」の範囲外とさせて頂きます(中には教鞭をとり、研究されている方もいらっしゃいますが)。

海外進出の理由

まず、海外進出の理由として考えられるのは大きく分けて以下の3つです。

1.挑戦したい

私もこの理由でした。国際学会に出席すれば、当該分野でのトップレベルの方達に会います。そうすると、このような人たちがいる環境、あるいはすぐにアクセスできる環境で研究してみたいと思うものです。特にヨーロッパの研究者は、地理的に行き来がしやすいのでしょっちゅうワークショップやセミナーなどをやっていてとても羨ましいです。 知的好奇心が満たされる、或いは探究心を刺激し合う環境というのは研究者にとっては理想的なものです。自然に自分がそこでどの程度通用するか、試してみたいと思う気持ちも湧いてきます。もちろん日本だってトップレベルの方はたくさんいますし、交通も便利なので研究者同士の行き来も可能です。これだけが「挑戦したい」理由ではありません。海外で仕事をするには語学力も必要ですし、ある程度研究以外の生活力や許容範囲が広くないとできないことがあります。これも含めて「挑戦したい」という気持ちで海外を選ぶ研究者は少なからずいると思います。

2.待遇

先ほどの名古屋大学の年末の発表に関するものです。要は、給料ですね。確かに日本の大学と欧米の大学間で、教員の給与格差はどんどん広がってきています。 大学だけではなくて日本全体として給料が上がっていないという事実は、国際的に見て日本で働くことに関して大きなマイナス要因となっていることは否めません。 

大学教員の収入は、概ね1.大学からの給料、2.他大学での非常勤講師料、 3.講演料及び雑誌連載などの原稿料、4.行政の委員会の謝金、5.本の印税、6.メディア出演料、から構成されています。3は人によっては凄い額の方もいらっしゃいますが、常勤の研究者や大学教員が年に何回もできるものではありません。2と4は規定で一定額が決まっていますし、5はよほどのベストセラーがない限り、大きい額にはなりません。6に関しては、大抵のメディアの取材は基本無料ですし、私が冒頭に示した定義の研究者および大学教員に関しては、時間的な制約からそこまで多くのメディアには出られません。従って、収入の大部分は1.大学からの給料となります。大学からの給料が他の海外の大学と比べて低い水準の日本の大学は、それだけで競争力が低いのです。 優秀な研究者には博士課程の時からたくさんのオファーが来ますから、この時点で、魅力的な給料が出せる海外の大学には勝てません。 

その上、、、
私は今回の名古屋大学の取り組みは歓迎しますが、問題は給料だけではないのです。 日本の大学は、「会議が長い」、「各種事務手続きが煩雑」、「裁量制だからといって毎日夜中まで、土日も働く事がなんとなく当たり前とされているカルチャー」などがあり、研究者は概ね長時間労働です。特に大量のアウトプットを出している研究室などでは徹夜や泊まり込みもあります。家族や友人との時間は、大きなお休みの時でないとほとんどありません。国際的に活躍している研究者だと、海外の研究者とのやり取りから自分の労働環境がいかに良くないかは実感すると思います(少なくとも私が知っている欧米のトップレベルの先生方は9−17時勤務が基本です)。ワークライフバランスとよく言いますが、仕事だけではなくて自分のプライベートも充実する、十分な睡眠を撮る、十分な運動するという基本的なことをするのが、日本の研究機関に勤めていると本当に難しいのです。 増してや、これから子育てをするであろう若手研究者にとっては全く魅力的な労働環境ではありません (この件に関しては後で詳しく書きます)。 仮に、私が今の職場で毎日夜中まで仕事をしていたら、同僚が「どうしたの?何か問題があったの?」と訊いてきます。そして「今日は早く帰って休んで明日にしなよ。」と言われます。そしてそれが続けば学部長クラスの人たちから本気で心配の声が上がりますし、もしそれが学内の何かの締め切りが原因だとわかれば、その締め切りを伸ばすとかそういった措置が取られます。健全な労働環境とはそういうものです。職員がワークライフバランスを確保できるかどうかは組織の責任なのです。人材(Human Resources)とは、まさにリソースで、人材が労働環境が原因で病気(メンタルヘルスを含む)になれば、その損失はそのまま組織にかえってきます。

3.大学組織構運営に対する不満・疑問

日本の大学組織はいわゆるmale-dominated(男性中心)です。未だに女性の学長は少ないですし、管理職についている女性もかなり少数だと思います。これが欧米の大学だと、ほとんど半々の割合で、女性の管理職がいたりします。 男性中心だと、組織運営も自然と男性目線になってしまいます。 前述した、「夜中まで仕事をする」といったカルチャーは、ほとんど「男性の研究者が家に専業主婦のパートナーがいる」ということを前提にしたものです。 子育て中の研究者は夜中までは働けません。これは日本的なカルチャーの問題でもありますので、変えるのは大変です。「抜本的改革をしない文部科学省が悪い」のでもありません(私は文科省の方々と交流がありますが 、本気で変えたいと思っている有能な若い職員はたくさんいます)。そもそも 、 日本社会全体において 女性の労働者の地位が未だに低いという根本的な問題があります。それが解決されない限り、特に男性中心になりがちな理系の研究機関では今後改革が進むとは思えません。また、日本の研究組織には、いまだに年功序列、トップダウン型の考えで運営されているところがたくさんあります。これが全て悪だとは言いませんが、理不尽な思いを何回か経験すれば、若い優秀な人ほど他を探そうと思います。

日本の研究組織にとって、取り組まなければいけない事は、これからどうやって優秀な人材(特に若手)を確保して、研究だけではなく国全体の発展に役立ってもらえるか?でしょう。 日本からの流出を止めるだけではなく、少子化がどんどん進んでいますから、海外からも優秀な研究者を集めることも考えなければいけません。 今の状況で「海外から優秀な研究者を呼ぶ」のはとても難しいです。 

何故か?

ここまで読んで下さってありがとうございます。この先の有料部分ではこの問いに対する私なりの答え、そして今週読んで面白かった本をご紹介します。

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