見出し画像

シラバス作り 承認編

大学に入ると、学生にはカリキュラムやシラバスを配布されますね。当たり前のように配布されるので、私も自分が教員になるまで、こういったものがどうやって作られるのか、全く考えもしませんでした。教員になって自分が作る側になってその過程を知り、今の大学に移ってからは、その過程をリードする側になりました。

オーストラリアの大学のカリキュラムについては、学部編Honours編大学院編研究過程編と、以前このnoteに書きました。

今回はシラバスを作る過程について、私が昨年から作ってきたある新しい科目を例にシェアしたいと思います。この科目は、Honours と修士課程に所属する学生が、研究論文を書くスキルを向上させることを目的として作った科目です。ですので、通常の科目とは少し異なりますが、毎週講義があって、課題があるのは変わりありません。

まず、新しい科目を作るには、当然ですが学部及び大学の許可が必要です。この過程は、まずこの科目を作ることによって影響を受ける可能性がある関連分野の課程を担当している先生方との協議から始まります。「今度修士レベルでこういう科目を作りたいんだけど」と持ちかけるわけですが、この議論で特に重要なのは、1.既にある科目との重複があるかないかを確かめる、2.重複があった場合はそれがどの程度のものかを把握し対応を練る、3.重複がない場合は、新しい科目が今のカリキュラムに欠けているどんな部分を補うことができるか、と4.その重要性の4つです。この議論のあと、「この新しい科目を作るのは今欠けているところを補填できるし、より効率的および効果的な指導ができ、学生のスキルや知識の向上に繋がる」という評価がシェアされれば、次の段階に進みます。


(オーストラリアの大学ではアボリジニの歴史や文化もカリキュラムに含めることが必要とされていて、大学内にも関連の場所があります。Photo: Hitomi Nakanishi)

1.学部内での承認

上記のプロセスを経たあと、担当の教員はさらに資料を作り進めて(長すぎても短すぎてもいけない、丁度良い分量がポイント!)、これまでの議論の記録も記し、学部内での承認を得る手続きを始めます。この手続きは、当大学・学部では、Faculty Boardといって、直訳すると学部委員会というものです。Faculty Boardがこうした件については、学部内での意思決定の最高位のものとなっています。Faculty Boardはその年の最初に、今年は全何回、何月何日何時に開催するというのが決められて、委員会メンバーのスケジュールにあらかじめ入れられています。

新しい科目の担当教員は、「何月何日の会」での承認を目指して、書類を作成し、担当の事務スタッフに提出します。担当の事務スタッフがその委員会で承認の是非を議論する案件の全ての書類を一つにまとめて、あらかじめ委員会メンバーにメール送信し、当日は委員会メンバーは書類に目を通した上で会議に出席します。会議では、質問のある委員は質問をして、回答に納得が得られ、議長が大きな問題なく、委員全員が賛成と認めたら、そこで承認となります。もし、この段階でまだ詰める事があれば、承認は保留となり、担当者が会議中で挙げられた懸念事項に対応して、次の会議にかけるか、小さな訂正事項などの場合はメールでアップデートされた書類が配布されて、承認となります。

2.大学での承認

学部で承認された後は、大学レベルの会議Academic Boardで最終的な承認が判定されます。しかし、この前に大事なプロセスがあります。それは学部レベルで承認された科目について、大学内でレビューを受けます。これをAdvisory Panelといって、5人程度の、他の学部の教員(ある程度の経験がある)がレビューをして、ここはこうした方がいいんじゃないかとか、意見をもらい、それを科目の内容に反映させます。そして、この内容を大学の承認委員会(Academic Board)に提出します。

このAcademic Board は各学部の代表と大学本部の教育担当部局の幹部が出席します。ここでは、各学部で既に承認された案件が出されますので、余程の事を除いて、大きな議論や、学部に戻すということは滅多にありませんが、それでもここで承認されないと、新しい科目は作られませんので、重要なプロセスです。

3.大学での承認後

この新しい科目にコードが付き、大学のマーケティングチーム(ウェブサイトなどを作るため)などに通達されます。この時点から、いよいよ新しい科目の具体的なコンテンツを作り始めることができます。この一連の期間ですが、私が昨年新しく作った科目は、最初の学部内での協議が3−4月、Faculty Boardの承認が7月、そしてAdvisory Panelとの協議がすぐあって、9月のAcademic Boardで承認となりました。ですので、科目の基本コンテンツ作成と承認だけで、約半年かかりました。本格的な中身の作成については、このあと10月から始動して、2023年2月の今も続いています。

私が非常に助かったのは、この全ての工程において、教育担当の事務スタッフ(事務スタッフと言っても、教員ではないというだけの意味で、大学教育のプロフェッショナルです)が2−3人常時一緒に科目のデザインや基本コンテンツの作成などをサポートしてくれた事です。非常に助かりました。日本の大学でも似たような職員の方がいらっしゃるのかは分かりませんが、こういった大学教育のプロフェッショナルがいることで、今の大学教育のトレンドや必要なコンテンツもカバーできるし、色々なツールを使ったデザインも可能となります。オーストラリアの大学ではこうした職員と一緒にカリキュラムを作るのが普通のようです。


(当大学の重要なアボリジニ関連の象徴的な木 Photo: Hitomi Nakanishi)

長くなってきましたので、この続き、いよいよ科目の具体的なコンテンツのデザインと作成は、次回にしたいと思います。ここまで読んで下さりありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?