ぬいぐるみと悪夢
ぬいぐるみを抱いて眠るようになってから、頻繁に悪夢を見る。ただ不快なだけの夢ではなく、抑え込んでいた感情に気付かせるような、示唆的な悪夢を。
どうしても嫌なことをやらされそうになって、必死の訴えも聞いてもらえなくて、どうしてわかってくれないのと泣きながら追っ手から逃げ回ったりとか。
パニック症のことを母親に打ち明けたら心無い言葉をかけられ、怒りと悲しみを爆発させたりとか。
心の痛みと共に目覚め、ぬいぐるみを胸に抱き直す。子供のままの小さな自分に語りかけるように、優しく背中を叩いてあげる。
嫌だったね。
怖かったね。
悲しかったね。
もう大丈夫だよ。
そうすると温かく湿った感情で胸が満たされて、傷の疼きが過去になっていく、気がする。
そうできることがわかっているから、悪夢を見るようになったのだと思う。向き合っても圧倒されずに受け入れられる準備ができたから、痛みを感じないように蓋をしておく必要がなくなった。なかったことにされただけでずっと胸の底に溜まっていた感情が、浄化の時を感じて、一つずつ浮き上がってきている。
ぬいぐるみが寄り添ってくれる安心感が、感情を受け止める土台を作ってくれた。
人形は生き物のようでもあり、無生物のようでもある。他者のようでもあり、自己の延長のようでもある。境界線上の存在だからこそ、様々な想いを投影できる。決して裏切らない、去っていくこともない、この上なく安全な友になってもらうことができる。
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