見出し画像

現代にもガチの魔女がいるらしい

 アメリカには実際に魔術の儀式を行うような「魔女」的な人々が100万人単位で存在しているらしい。そして近年めちゃくちゃ増えているらしい。

 というわけで、最近魔女になろうとしている直凪は、魔女についての本を読んで自分が理解した範囲のことを記事にしてみようと思い立った。紹介するのは鏡リュウジ著『鏡リュウジの魔女と魔法学 (鏡リュウジの占い入門3)』(説話社、2015年)。魔女の本を読んだのはこれが初めてのにわか仕込みであり、間違った解釈をしているかもしれないので、ちゃんと知りたい方は原典を読んでください。

 「魔女」とは、キリスト教の成立以前からヨーロッパに存在していた土着の宗教を信じる人々のこと。大地の女神や狩猟の神を崇め、季節ごとの儀式を行い、自然を重視するエコロジカルな思想を持っていた。彼らは石器時代から存在し、苛烈な魔女狩りの時代を生き延び、1951年の魔女禁止令廃止を機に歴史の影から再び姿を現したのだ。

 ——というのが、現代の魔女が登場するまでの大まかな流れだということになっていた。

 しかし、本書を読み進めていくと、その歴史のうさんくささが見えてくる。

 「魔女たちは古代宗教の信仰を守る存在」とした学説は後の歴史家に否定されているし、現代魔女の実質的な生みの親である「魔女の父」ジェラルド・ガードナーの主張は大部分が捏造とされている(ちなみに「魔女」には男性も含まれ、ガードナーは男性の魔女である)。つまり現代の魔女は、古代の女神の宗教とはほぼ関係がない。

 では「魔女」たちはでたらめを信じているただのオカルト集団なのかというと、必ずしもそうではない。

 現代を代表する魔女スターホークは、現代の魔女術は古い宗教の「復活」ではなく「再・創造」だと述べている。魔女の信仰は新しいものではあるが、現代社会が抱える問題に対する1つの姿勢を提示するという面で意味のあるものだった。

 キーワードは「身体性の回復」「女性原理」「エコロジー」「意識変容」という、近代が置き去りにしたと考えられたものだと著者は言う。実際、現代の魔女運動は、フェミニズム運動や環境保護活動とも結びついて拡大している。

 その根底にあるのは、大地そのものである「女神」とのつながりを感じること。リアルで意味のある世界の中で「生きる」感覚を取り戻すこと。そのために「魔法」や儀式がある。

 現代の魔女の魔術では、超常現象は起こらない。魔術とは「意識に変化を引き起こす術」のこと。時には瞑想状態やトランス状態に入り、「もうひとつの世界」(イマジネーションの世界)に遊ぶ。深層心理学やトランスパーソナル心理学とも共通点の多いものだ。

 魔女は女神を信仰するが、この女神は特定の人格を持った一人の神ではない。女神が物質的に実在するかどうか、「古き宗教」としての伝説が事実かどうかは問題ではない。女神が想像の産物だったとしても、女神とつながる感覚を体験することはできる。神話は内的な真実を伝えるための寓話として捉えることができる。聖書の記載が文字通りの事実ではなくても、キリスト教徒にとって神や聖書が無意味にはならないように。

 ——この辺りは正直あまり理解できていない。頭で理解する理論よりも、実践によって体感する部分が重視されているのだと思う。ヨガや瞑想でもイメージを使うことはあるが、女神を経験するというのはそういうことだろうか?

 日常の中でも、例えば背筋を伸ばす感覚を伝えるために「頭のてっぺんを糸で吊られてるイメージで」と言った場合、言った本人も「人はみな天空から垂らされた糸で吊るされているのだ」とは現実としては信じていないだろう。しかし、吊るされている「つもり」になることで、現実世界で姿勢が綺麗に保たれるという効果が実際に現れる。「女神」というのはこの「天空の糸」のようなものだろうか?

 自分で「魔法」を体感してみればわかるのかもしれない。本書には瞑想や「もうひとつの世界」に入る方法も載っている。しかし精神が不安定な時や治療中の実践はタブーらしい。自分はさほど精神が安定している自信がなくてちょっと怖いのでやめておく。

 また、様々な魔女の道具や象徴についても本書で解説されているが、それについてもあまりピンと来なかった。これは文化的バックグラウンドの違いで、キリスト教的な精神性やヨーロッパの風習に馴染みがないせいだと思う。

 魔女の世界ではオークが聖木だと言われても、自分などは「オークってどんなんだっけ」と思ってしまうが、これが松や杉だったら印象は違うだろう。象徴や儀式の持つ本質的な「意味」を保ったまま、日本でも身近に感じられるようにローカライズできれば、日本でももっと大勢の「魔女」が誕生するかもしれない。日本は元々自然崇拝の強い国なので、魔女運動が盛んになる素地はあるはずだ。

 最後に26条の「魔女の信条」のうち気に入っているものを紹介して結びの言葉に代えようと思う。

2.生きよ、そして生かせ。
  正しく受け取り、正しく与えよ。

26.誰も傷つけぬ限り、汝の意思することをなせ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?