マガジンのカバー画像

エッセイ他

119
長めの詩と、物語と、ポエムの延長線上にあるエッセイと。
運営しているクリエイター

2022年9月の記事一覧

物語詩「月に満ちる金木犀」

物語詩「月に満ちる金木犀」

たわわな金木犀の枝を手折り
鏡映しの僕が言う

「夜空の月の洞の中には
金木犀が咲くんだよ
月光の流れのせせらぎと 空からこぼれる花の甘さで
天使を魅入らせ閉じ込めるんだって」

沈む望月にかざす朝焼け色の香り
同じ香を持つ月へとつながり
僕らを天使に会わせてくれると
君が抱く儚い希望
僕の胸と通じ合う
そっくりの兄弟
互いのことは何だって知ってる

神様は僕らに試練を与える
神様の愛を知らしめる

もっとみる
短編小説「憧憬の姉妹」【2000字のホラー】

短編小説「憧憬の姉妹」【2000字のホラー】

アパートの錆びた階段に立っていた。
どうやって帰ってきたのか記憶にない。延々と夢を見ている気がする。母が死んでから。

いつまでも子供みたいな母だった。
わがままで天真爛漫で。俺のほうが親なんじゃないかと思うくらい。
幼子が犬の子を欲しがるみたいにまだかまだかとせがんでいた孫を抱かせてやることは結局できなかった。

終電後の住宅街は底無しの海みたいで、寄る辺なさを嫌でも自覚させられる。

世界が縦

もっとみる
物語詩「裏庭の少女」

物語詩「裏庭の少女」

裏庭の老木が
いつか見たクリスマスツリーみたいに燃えた
女は鬼の顔をして
「一族の仇を討ちなさい」と
娘に告げて事切れた
死を許されなかった少女は
裸足で焼けた土を蹴る

一人きりの少女
持ち物は腹の空しさだけ
焼き立てのパンに伸ばした手
捕らえたのは膨らんだ生地みたいな店主
「隣村の生き残りかい」
白い顔が同情に塗られて
少女の硬い腕に押し込まれたバゲット

仇討ち少女は風に知れ
次々村人に招か

もっとみる
物語詩「丘の上のビスクドール」

物語詩「丘の上のビスクドール」

おもちゃの街の丘の上
孤独な男と 歪な顔のビスクドールが
仲睦まじく暮らしていた

「あなたに何でもしてあげたいわ
でも赤ちゃんを産むのは嫌なの
お腹が割れて死んでしまうから」

ドールは男の腕の中で
ガムシロップみたいに囁いて
男は微笑み頷いた

満月代わりの電球の下
男が取り寄せた絹のドレスで
ドールは男のために踊った
捻れた爪先でばたばた踊った
男はつまらなそうに笑った

ドールの眠る昼下が

もっとみる
物語詩「彼女の身体」

物語詩「彼女の身体」

公園の砂場が海だった頃から
僕は何となく知っていた
この身体は僕のものじゃない

ずっとそこにいたような顔で
確信が居座っていた
僕への笑顔の宛先は身体の真の持ち主で
僕は真性の詐欺師だって
そいつのにやけた粘着質の言葉が
耳にもわもわと網を張った

誰も、誰も気付かない
僕が間違ってここにいること
その子はここにはいないってこと

その子の名前
その子の好きな色
その子の着たい服
その子の憧れの

もっとみる