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鳥見桐人の漫画断面図

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鳥見桐人(とりみきりと)が、漫画のワンシーンだけを切り取って、考察して紹介するシリーズです。
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2019年10月の記事一覧

「からん」の幕切れ ~鳥見桐人の漫画断面図10~

「からん」の幕切れ ~鳥見桐人の漫画断面図10~

1、幕切れ始めるのは容易だが、終わらせるのは難しい。

俺は一通の国際郵便の手紙を机に置いた。そこには、次なる任地を知らせる内容が、簡潔に記されていた。しばらく日本でぼけぼけと過ごしていたが、どうやら休暇は終わりを告げたようだ。

外に出る。ちょうど桜の季節。冬の寒さは鳴りを潜めて、少し生ぬるい春の夜の風が物憂さをかきたてる。長期休みの終わりにはふさわしい。ざっと一陣の風が通り過ぎた。春一番という

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「おおきく振りかぶって」の保護者 ~鳥見桐人の漫画断面図9~

「おおきく振りかぶって」の保護者 ~鳥見桐人の漫画断面図9~

1、保護者親にとって子どもは、いつまでも子どもである。

たとえ老人になろうとも、親にとっては子どもは子ども。子どもにとって親は親。これは動かせない事実だ。人間は、一人では大きくなれない。必ず保護されて育てられる。赤ちゃんの頃は、四六時中お世話をされる。食べること、排泄することすら、一人ではできない。みんな、そうだったんだ。ただ、成長の中でいつしか忘れるだけなんだ。

保育された記憶は薄れていく。

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「働きマン」の逃走 ~鳥見桐人の漫画断面図8~

「働きマン」の逃走 ~鳥見桐人の漫画断面図8~

1、逃走逃げるは恥だが役に立つ。

ドラマで有名な俳優たちがかわいく踊ったこともあり、一躍有名になったフレーズ。元はハンガリーのことわざだったものを、海野つなみさんが自分の漫画のタイトルにつけた。いわゆる「逃げ恥」である。

俺は、秋の好天の下、草野球の試合を眺めていた。自分でプレイするのはまっぴらごめんだが、観るのはそれなりに好きだ。

一塁と二塁の間に、ランナーが挟まれている。盗塁するぞするぞ

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「舞姫 テレプシコーラ」の水 ~鳥見桐人の漫画断面図7~

「舞姫 テレプシコーラ」の水 ~鳥見桐人の漫画断面図7~

1、水バレエダンサーはアスリートだ。

バレエのバの字も踊ったことがない俺だが、それくらいは分かる。小さい頃に、バレエを習っている友達がいた。男だ。野球やサッカーこそが王道だと信じて疑わない奴らが、囃し立てた。「男のくせにバレエかよ」。彼は黙っていた。黙って、体育の時間には、自称スラッガーやストライカーたちを圧倒していた。競走、体操、鉄棒。ダンス以外でもすべてにおいて、身体能力の差を見せつけていた

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「三国志」の一番乗り ~鳥見桐人の漫画断面図6~

「三国志」の一番乗り ~鳥見桐人の漫画断面図6~

1、一番乗りいったいいつから並んでいたのだろう。

空腹を抱えて、人気のラーメン屋を訪れた時のことである。行列のできるラーメン屋は珍しくも何ともないが、その日の行列は度が過ぎていた。ずらりと並んだ人、人、人。何人いるのかすぐにはわからない。11時半開店か。とすれば、列の一番前の人は、少なくとも朝早くにはこの店の前にいたのではないか。

有名な遊園地の入場や、ゲームの発売日には、徹夜して並ぶ人も多い

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「さんさん録」の缶コーヒー ~鳥見桐人の漫画断面図5~

「さんさん録」の缶コーヒー ~鳥見桐人の漫画断面図5~

1、缶コーヒーあえての缶コーヒー。

最近ではコンビニで挽きたてコーヒーが手軽に飲めるようになり、むろんそれはそれで良いのだが、缶コーヒーの奇妙な魅力は失われていないように思う。そもそも、「コーヒーを缶に入れる」という発想が斬新だ。コーヒーと言えばコーヒーカップに入れて飲むのが常識だった頃から考えると、今の時代はなんと選択肢が増えたのだろうと感じる。

俺は、近くの公園で、缶コーヒーをあおりながら

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「MASTERキートン」の書庫 ~鳥見桐人の漫画断面図4~

「MASTERキートン」の書庫 ~鳥見桐人の漫画断面図4~

1、書庫図書館は知の宝庫である。

漫画喫茶にばかり行く俺ではない。時には図書館にも行く。田中研之輔さんの「プロティアン」を読みつつ、まったりと人生について考える昼下がりの午後。図書館には、雑多な人間が集まる。定年退職したであろう高齢者、受験を控えているであろう中学生、子ども連れの主婦、よくわからない人種…。俺はその中でも、ダントツに「よくわからない人種」の代表例として見られているだろうな。

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