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「糸」 中島みゆき

衣食住の「衣」を構成する「糸」

衣食住を構成する「衣」の歴史を人類史的に振り返ってみる。この作業に欠かせない機織り機は先史時代に、その存在の痕跡が確認できるのだそうだ。これにより人類は防寒具を得、身を守る術も手に入れることになった。

機織り機がその役割を果たすには。それはわずか1本の糸を紡ぎ出すところが始まり。綿や蚕などを集めて捩って1本の糸に仕上げていく。それが重なり合って大きな布・生地となり、その糸が「衣類」に加工されていく。

発掘される遺跡の中では「衣類」は風化して歴史の彼方に消え去ってしまっている。しかし、この衣服が見続けた「出来上がる過程」からの「着用した誰かが歩んだ人生」には、今も変わらない普遍的な人の営みがあったのではないだろうか。

人と人の出会い

人類は出会い、集い、共同生活を続けてきた。狩猟民族でも農耕民族でも同じ。集団生活を営む地域が村となり、村を構成する家に家族が暮らし子孫を残してきた。家族の最小単位は2人。

出会いの最小単位も2人。この出会いから親交が始まり、やがて恋に変わり、恋人から家族へとかわっていく。

「衣服」を構成する糸が数多の糸から選ばれたように、まるで、運命の糸に導かれたかのように2人は出会い、結び合い、重なり合い、一つになっていく。

これもまた、人類の普遍的な営み。

中島みゆきの「糸」

これは1992年発表の曲。「悪女」「わかれうた」「ひとり上手」といった楽曲群とは別に「時代」「ファイト」そして「糸」は、いまでも街を歩いているとどこかから聞こえてくる、、まさに時代を超えた普遍的な楽曲の仲間入りをしている。

それは、おそらくこれらの楽曲が普遍的なテーマを持っているからだろう。(もちろん、楽曲のメロディの素晴らしさもある。)いつ、なんどき、誰が聞いたとしても。たとえ自分の孫の世代になったとしても、歌い継がれていることと思う。

この曲の普遍性は、「衣食住」の一つ、「衣」の製作過程とそれに付随する人の営みと、最小の家族単位である恋人同士の営みを掛け合わせたことにある。そしてより具体的に縦の糸はあなた、横の糸はわたしと歌う。

出会いのもたらすもの

誰かと出会うことで、会話が生まれる。会話、コミュニケーションは喜怒哀楽を生む。ただ、

ひとりきりでは泣くことはできても笑うことはできない(中島みゆき「WITH」歌詞一部引用)。

出会うことで生まれる喜びは、迷いを克服し、周囲へポジティブなメッセージを伝え、皆を温め、さらに輪を広げていく力になる。

糸偏の漢字の意味

幸せとは、土の下に羊と書く。羊は古来は財産。それから転じてこの漢字になっている。

仕合わせとは、仕を合わせるということで、偶然のような必然で、出逢った(合わさった)2本の糸のことを暗に指している。

1本の「糸」が、もう1本との必然的な出会いをはたした。これは「縁」と呼ぶべきもの。そして結ばれて一つに納まる(「結納」)、そしてそれは「絆」になる。2人でひとつ。1人では半分であるが糸が繋いで「絆」となる。

糸がつないだ人々の思い、あなたとわたしの思い。それが「絆」と呼べるものではないだろうか。そしてそれはいつの世も人類に営まれてきた、まさに普遍的なものを呼ぶ言葉なのだろう。

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