見出し画像

砂の女(安部公房) を読んでブラック会社に居る理由を知った

「砂の女」の読書感想文です。6点に分けて書きます。

1.人がブラック会社に居続ける主な理由とは何か(答えは5にあります)
 この作品を読む前は、退職を決める情報とか言い出す勇気、の不足と思っていました。

2.この作品を読んでバイトしていた頃を思い出します。
 連日、創業祭の準備でタイムカードに退勤の打刻をしてから残業している店長が妙に生き生きしていると感じた時、とか「社員が白を『黒だ』と言えばそれは黒なんだよ」と訳知り顔で話すバイトリーダーを見た経験、を思い出しています。

3.この作品を読み終えた時、最後の一文で息が止まりました!
 何年か前の衣料販売店でのアルバイトの思い出の話(上記)に戻りますが、人間関係でそういう「順応性」は必要と思いますし、その順応性を利用され過ぎないように、会社と自分の利益が一致しているピンポイントを自覚していれば問題ないと思う反面、誰かがその順応性、適応能力を使う理由は個人的な事が多いと思われますので、第三者的にそういう場面に出会いますと、ハッとします。息を飲みます。「この人、会社に飲み込まれているけど、『まんじゅうこわい』なんだよね?放っといていいんだよね??」を勝手に脳内で繰り返してしまいます。右脳と左脳が白と黒で色分けされていたとしたら、白・黒、と交互に色違いに明滅しっ放し。

 そういう体験をこの作品の最後の一文で体験しました。最後の一文だけ読んでも再現できない体験かも知れませんが、この一文は考え抜かれている!読んだときは息していないのを忘れて、気付いたら苦しかった。

4.砂粒や流砂の質感描写の例えから気付くこと。まんじゅうこわい。
 砂には飲み込まれる、流される、もがく、沈む、吸い込まれる。不毛とか死のイメージもあります。作中で水を溜める装置を作ります。砂の穴に居る主人公が砂から水分を抜き出して集める装置です。これが成功したら水の配給を受けずに済む。作中では掻き出した砂と交換に支給されていたと言えるぐらい水は貴重でした。そしてこの村では誰もが砂を掻かないと埋もれる村です。国から棄民扱いされている感があるため、砂掻きは村人自身でしなくてはならなかった。不毛や死の暗示がする「砂」の中で水を作ることが出来ればそれは希望になります。ただ、水にも「飲み込まれる、流される、もがく、沈む、吸い込まれる」という動詞が文によっては合いますね。似てる。「不毛」から「希望」を抜き出す、取り出す。そう考えると悪環境に遭えて身を置く、事に客観的ではない主観的な理由があるなら傍目にも「まんじゅうこわい」になると思います。


5.「砂の女」が出した答え(私の主観による引用)

逃げるてだては、またその翌日にでも考えればいいことである。 (砂の女 安部公房 2013年5月5日七十刷 新潮文庫)

私はこの一文が一番こわい


6.備考
 あらすじはwikipediaさんのが参考になりました。

この記事が参加している募集

読書感想文

新刊の購入費用のサポートして頂けるとありがたいです! ちなみに小説はこちらで公開しています(無料)。 https://kakuyomu.jp/users/nishimura-hir0yukl/works