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心筋梗塞闘病記

 この歳になって初めて救急車に乗った。急性心筋梗塞だった。
 今回の体験を書くことには少なからず躊躇いがあったが、健康の大切さと体験者にしか語りえない言葉もあるだろうという思いから、この闘病記を公開することにした。
 心筋梗塞というと、運動時に発症するイメージがあるが、私の場合は少し違っていた。2023年5月18日の夜、テレビで阪神タイガースの7連勝を見終えて、気分良く早々にベッドに入った。暫くすると胸に圧迫感を感じた。その圧迫感は次第に強くなり、胸の中心が周りから万力で締め付けられるようだった。寝ていられないほどの痛みで立ち上がった。時計を見ると午後10時少し前。手で胸を押さえ苦しみに耐えながら寝室内をぐるぐる歩く。激しい動悸も息苦しさはなく、ただただ胸を締め付けられる感覚。この時、救急車を呼ぶべきだったのだが、救急車を呼ぶなんて、普通の人には中々ハードルが高いもの。我慢してしまった。やがて痛みは弱くなり、再びベッドに入り安静にしていると、うつらうつらしてきた。
 再び強烈な痛みに襲われた。恐怖で立ち上がり、時計を見た。針は12時を少し回っていたようだ。そう認識すると眩暈を感じて身体がふらついた。こんな状態で立っていてはいけない。本能的にそう思った。ゆっくりベッドに戻り横になる。明日の朝一にお医者さんに診てもらおう。安静にしていると、眩暈も胸の痛みも次第に弱まっていった。
 翌朝、胸の痛みは完全には無くなっていなかったが、痛みのレベルとしては、百分の一くらいに思えた。あくまでも感覚的印象なので、全く正確ではないが。
 近所の医院は九時から開業で、その十五分前に車を運転してその医院に行った。受付の看護師さんに症状を伝えると、すぐに診察室に案内され、血液検査、心電図測定、心臓エコー検査が次々に行われた。トイレに行こうと思ってベッドから起き上がった時、お医者さんから大切な話があると言われる。
「トイレに行きたいんですが」
「じゃあ、その後で」
 お医者さんがそう言うと、私は早足でトイレに向かった。
「ああっ、走らないで!」
 お医者さんが大声で叫び、私はびっくりした。ゆっくり私が用を済ませて戻ってくると、心筋梗塞の疑いがあり今から救急車で病院に搬送します、とのこと。にわかには信じられなかった。やがて救急車が到着し、ストレッチャーに身体を縛られて救急車に乗せられた時は現実であることを思い知らされた。寝かされたまま胸に電極が装着され、ディスプレイにバイタルデータが表示される。サイレンの音を聞きながら、心臓に悪いだろうとは思いながらも搬送中、チラチラとその波形を見ていた。だって見えてしまうんだから。

2023年5月19日 救急車で搬送

 病院に着き、救急車からER(緊急処置室)に運び込まれる。多数の医師と看護師が私の周りを取り囲んでいる様子だった。早口で症状の質問を受ける。緊迫感いっぱいの中、自分でも早口になるのがわかる。ERでは各種検査が凄い手際で進められた。危険な状態であり、大至急手術が必要であることが告げられ、速攻で手術室に搬送される。
 心臓カテーテル手術では、右手首の動脈からカテーテルを挿入して血管を広げ、その後、ステントと呼ばれる金属のメッシュを心臓の血管内に埋め込まれた。手首から局部麻酔を注入して、しっかり意識がある状態で行われた。痛みが酷い場合は局部麻酔の量を増やすらしいが、私の場合は増やす必要はなかった。手術途中で一時間経過のアラームを聞いた。手術自体は全く痛みを感じなかったが、一時間以上も動かないでじっとしていることは中々辛い修行だった。終わってから「よく頑張りましたね」と褒められた。
 手術室から同じ階にあるHCU(高度治療室)に移された。ICU(集中治療室)よりもやや重篤度が低い患者を受け入れる治療施設である。天井には監視カメラが設置されていた。胸の痛みは殆ど無くなったが、絶対安静にしているようにと強く言われた。私がベッドで少し上体を起こそうとしただけで、看護師さんから強く叱られるくらいだった。
 自分としては普通に歩けそうなくらい元気だったが、血管内にステントという異物が入っているので、そこに血栓ができると、運び込まれた時以上に危険な状態になる可能性があることを聞かされ、改めて安静にしていることを肝に銘じた。

2023年5月20日 点滴2本、HCUにて


2023年5月21日 HCU
2023年5月21日 HCU

 HCUに入ってから「心臓リハビリテーションプログラム」と書かれた紙をもらった。それによると退院までは9段階あり、一日ずつ進むのかと思った。主治医の先生と話をする中で「土日くらいで退院できそう」と聞いたと思ったので、私はそれが今週の土日と思い込んで喜んでいた。しかしながら、数日後、私の勘違いで、今週の土日でなく、来週の土日だと知った時は、相当落ち込んだが、しっかり養生しようと覚悟を決めた。
 HCUには4日間過ごし、4日目からは一般病棟に移った。一般病棟は広々した個室で快適だった。特に嬉しかったのは、わが阪神タイガースの快進撃をテレビ観戦できたことだ。手術から6日目にはベッドから起き上がり病棟内を歩ける許可がおりた。11日目には院内を自由に歩けるようになり、部屋のシャワーも自由に使えるようになった。あたりまえの生活ができるありがたさをつくづく感じた。

2023年5月24日 一般病棟
2023年5月27日 自撮りできるまで回復
2023年5月30日 ヘルシーな病院食でダイエットに成功(笑)

 心電図検査、血液検査、心臓エコー検査、アイソトープ検査を経て、6月3日(土)に退院できた。入院生活は16日間だった。

2023年6月3日 病院を出たところ、タクシーを待つ時間にパチリ

 最後に、今回の経験をして、私が伝えるべき一番大事なことは唯一つ。救急車を呼ぶことを躊躇ってはいけない。これくらいの痛みで救急車を呼ぶなんて大袈裟だ。そう思うのは一番危険なこと。お医者さんと看護師さんからも、そのことは強く言われた。

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