#20 感情のコントロール ~人間関係のゲームとマジシャンの智慧
唐突ですが私はマジック大好き人間で、マジック界のオリンピックと言われるFISMの国内予選会に演者として参加したという経歴があるほどです。
お陰さまで、色々な場でマジックを演じさせていただくという経験をしてきました。
マジックは人とのコミュニケーションであり、相手によってさまざまな反応をいただきます。
演じながら私がよく感じていたのは、「感情のコントロールって、いい演技をするのに必要だけど、難しい」ということでした。
今回はその時の学びをキャリア形成に役立つ形に言語化してみようと思います。
マジックの現場で起きていること
マジシャンの信条
マジックって、相手から必ずしも肯定的に受け止められるものではないのです。
中には騙されるのがイヤ!という人もいるし、必死になってタネを暴こうとする人、どうにかして演者をへこまそうとする人もいます。
そんな方も含めて、お客様には楽しい気分になってもらいたいので、マジシャンの世界にはこんな教えがあります。
「マジシャンは、お客様に対して、けっして感情的になってはならない」「マジシャンは、お客様に対して、挑戦的になってはならない」
マジシャンはこれを実践するためにいろんな工夫をしているのですが、意外と奥深いので、ちょっと分析してみましょう。
不愉快な「ゲーム」
ここでちょっと心理学のお話。エリック・バーンが提唱する「交流分析」でに出てくる「ゲーム」という考え方です。
ここで言う「ゲーム」とは、「ある一定の不快感を得るための一連のコミュニケーション」で、こんな式で表されます。
仕掛人 + カモ = 反応 → 役割の変化 → 混乱 → 結末
何を言っているかというと、例えばパーティーのテーブルでマジックを演じて、観客にタネをばらされてしまってマジシャンが困っているという場面を想像してみてください。
この場合、
仕掛人:マウントを取りたがる観客
カモ:あわれなマジシャン
反応:「マジックをやってもいいですか?」「どうぞどうぞ」(と友好的な反応)
役割の変化:「あ、そのマジック知ってる。こうやるんだよ」(「友好的な観客」から「暴く人」に変化)
混乱:「えっ…」となるマジシャン
結末:いやーな気持ちになるマジシャン、しらけた雰囲気
…という構図になっているわけですね。
その結末を得て仕掛人は「よしよし」と満足したり、「ほら、こんな雰囲気になるから嫌なんだよ」とますますネガティブな見方を確信したりするのです。
さて、交流分析では、「この手のゲームを仕掛けられていると察知したら、ゲームから距離を取るべし」と説いています。
想像に難くないことと思いますが、一般的にマジシャンがそのゲームに乗って感情的になることは悪手の中の悪手。
「マジックのせいで面白くない経験をした」と、観客全員にトラウマを残すことになるでしょう。
対処に高い経験値やセンスが求められるこの状況、マジシャンはどうやってくぐり抜けているのでしょうか。
マジシャン自身の「感情コントロール」
多くのマジシャンは、各自、この「距離の取り方」を考えています。
私が先輩諸兄から教わって、たどたどしながらも実践していた教えは次のようなものでした。
①ゴール意識
マジシャンとしてのゴールは、「このマジック、凄いだろ!」と思いしらせることではなく、お客様に楽しんでもらうことです。
お客様の気分を害さないよう、相手を立てながらその場を去るといった技を魅せ、更に別のテーブルできちんと楽しい雰囲気を演じ、先ほど楽しめなかった人を仲間に入れる態度を示すのです。
②予防線
しかし、そもそもそんな状況に陥らないように手を打ちたいですよね。
その方法のひとつが「予防線」。
「予防線」は、相手のゲームが発動するのを防ぐ方法で、例えば
最初の10秒で心をつかむ導入を行う
短時間での「不思議」の連続で思考停止状態にさせる
あえて最初に「やってほしくないこと」「禁止事項」(「それ知っている、は禁句です」とか)を言っておく
といったことが挙げられます。
特に3番目はむしろ誘導的で、それでも相手が禁止事項を破った場合は逆にそれをユーモラスにいじるといったルートに入るようにすることもあります。
③はずす
もうひとつは「はずす」と呼んでいるもので、私の場合は「見る人の緊張を解く」といった意味で使っています。
例としては、以下のようなものが挙げられます。
種バレバレの演技や種明かしをギャグとして行う
途中で簡単な会話を挟んで、お互いに心を開くように働きかける
「マジシャンの望む形で、1回は相手のゲームを満足させる」といったところでしょうか。
ちなみに「予防線」も「はずす」も私が勝手にそう呼んでいるだけなので、ググってもマジック用語としては出てきません。
自問:なぜ心が乱れるのか?
なんて、うまい事やってきたように書いていますが、私もお客様の反応に対し道具をたたきつけたくなるような場面に何度も遭遇しています。
そもそもなぜこのゲームを通じて不快感・心の動揺・怒りが生まれるのか。
マジックはもともと「演技」であるという性質から、「演技を見破られると恥ずかしい」という感情がどうしても生まれてしまうのだと思います。
他にも、やっぱりどこか「すごいね!」と言ってもらいたいと思っている自分がいたり、きちんと拍手がもらえないと仕事がもらえないという不安があったりしました。
そういう「期待・望みが壊される反応」に対し、怒りが込み上げてきたように思います。
感情のコントロール
さて、これらを一般化してみると、感情(特に怒り)のコントロール方法が下図のように見えてくるのではないかと思います。
自分の価値観の認知
まず、感情の乱れは、自分の価値観(こうしたらこんな反応してほしい、という期待)から外れる反応があった時に起こりがちです。
しかし、世の中には自分の価値観とは違うものを良しとする人、そういったことを「やってしまう人」もいるのです。
自分の価値観が分かれば、相手との違いも理解できます。この認知があるだけで、感情は乱れにくくなるように思います。
ゴール意識
自分の根底にある価値観・欲・願望を超越するには、「ゴールは何か?」という理性的な問いが必要だと思います。
マジシャンの場合は、自分に「凄いと言われたい!」という欲求の枠組みがあったとしても、「お客様が楽しむ」というゴールを認識することでそれを飛び越えることができるわけです。
仕事の場面だと、自分の意見が通らなくて憤りを感じることがあります。
しかし、今、自分の意見を通すことがゴールなのか、チーム全体が目標を達成することがゴーでなのか、そういった問答を自分に課すことで、冷静になることができるのではないかと思います。
ゲームへの対処
そして、人には「ゲーム」を仕掛けたくなる心理があるのだと知っておくことも、感情のコントールに役立つと考えられます。
言い換えると、
「自分はどんなゲームに巻き込まれがちか」(どんな時にカモになる行動をとってしまうのか)
逆に「自分はどんなゲームを仕掛けてしまっているのか」(自分が仕掛人になっている可能性)
について自己理解を深めるということです。
知っていれば、逃げることも、抑えることもできます。
「予防線」や「はずす」といった技も思いつくかもしれません。
そして、相手に対して適度な距離感を取りやすくなるでしょう。
俯瞰する「もうひとりの自分」
こうして言語化してみると、感情のコントロールをするには、自分の枠組み、置かれた状況で見据えるべきゴール、誰かが仕掛けているかもしれないゲームの存在…そういったものを、欲求に忠実な自分とは別モノとして俯瞰する「もうひとりの自分」が必要だと思えました。
まとめ
私は、この「もうひとりの自分」って、一朝一夕に生まれるものではないと思うのです。
様々な試行錯誤を経て、ようやく形成されていくものだと。
感情のコントロールは、多様性の中で自分を活かすうえでとても重要な要素と考えられます。
だからこそ、「たくさんの試行錯誤」と「振り返り(内省)」がキャリア形成に必要なのだというのが、今回の結論でした。
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