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ブレマー 国家資本主義の成長 Foreign Affairs, May/June 2009

Ian Bremmer, State Capitalism Comes of Age, Foreign Affairs, May/June 2009, Vol.88 Issue 3  抄訳
用語 国家資本主義 state capitalism: 国家主導型資本主義 
       政府系ファンド sovereign wealth funds
  デカプリング decoupling: 途上国経済が欧米に対し自立性を高めること  

自由市場の終焉
 合衆国、ヨーロッパ、そしてその他の先進国世界のほとんどに及ぶ、近年の国家介入主義の波は、当面の地球的な景気後退の痛みを和らげ、病める経済を通常状態に戻すことを意図している。ほとんどの部分について、先進諸国の政府は、その経済を厳密な制限なしに管理する意図はない。しかし途上国世界における同様の介入の背後には、逆の意図が横たわっている。その経済には国家の重い手があって、自由市場の教義への戦略的拒絶の信号を出し続けている。
 私的株式所有者ではない政府が、すでに世界最大の石油会社と、世界のエネルギ―準備の4分の3を支配している。国家により支配されているか、国家と歩調を合わせる会社が、世界でもっとも早く成長する経済において、主要な経済部門において成長する市場パワーを享受している。国家所有投資ポートフォリオのため近年作られた用語である「政府系ファンドsovereign wealth funds」は、世界投資の8分の1を占め、その数値は増えつつある。これらの傾向は、ますます大きくなる経済権力のテコを移動させることにより国際政治と世界経済の形を変えつつあり、国家の中心的権威に影響している
。それは国家資本主義の巨大で複雑な現象の更なる素材になっている。
 20年にも満たない前、多くの状況は異なっていた。ソビエト連邦がその多くの内的矛盾の加重で締め上げられたあと、新たなクレムリンの指導層は、西欧モデルを積極的に受け入れるために素早く動いた。かつてのソビエト共和国とその衛星国からなる若い諸政府は、西欧の政治的価値を支持してその連合に加わり始めた。一方、中国においては10年前に始まった自由主義的市場改革が、中国共産党に新たな命を吹き込み始めた。ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコのような生じつつある市場パワーは、その一時停止した(dormant)経済に規制緩和を始め国内自由企業に力を与えていた。西欧に広がった私有化の波は、多くの会社と部門で国家管理を洗い流した。貿易量が膨れ上がった。消費者の選択、サプライチェーン、資本フロー、外国直接投資、技術と革新、(これらの)地球化は、(以上の)傾向をさらに一層強めた。
 しかし今や自由市場は後退し、国家資本主義が到来している。国家資本主義の体制では、国家が指導的経済の俳優として機能し、市場は主に政治的利得のために用いられる。この傾向は、政治的イデオロギーの間ではなく、経済モデルの間での競い合いとなり、新たな地球戦争を激化させた。そして経済的意思決定に政治が注入されるとともに、勝者と敗者の全く異なった組み合わせが登場している。
 冷戦の間、ソビエトと中国の統制経済の管理者により取られた決定は、西欧の市場にほとんど影響がなかった。今日勃興しつつある市場はなおこれから生まれるものだった。しかし今では、Abu Dhabi, Ankara, Beijing, Brasilia, Mexico City, MoscowそしてNew Delhiにおいて、戦略的投資、国家所有、規制について国家役人が行う経済決定は、国際市場を通じて反響する。国家が管理する資本主義という潜在的ブランドにより起こされた挑戦は、国際金融危機とともに地球規模の経済後退により強化された。自由貿易と公開市場の勝利者たちは、今では、ますます懐疑的な国際的聴衆に対して彼らの体制の価値を証明せねばならない。
  この展開(development)は、単純に、勃興しつつある国家の勢力に比しての合衆国の勢力と影響力の減少がもたらしたものではない。これらの国家の政府が、自由市場資本主義に包摂されることを選択していたなら、合衆国の世界市場での比率の減少は、効率と生産性の国際的増加により相殺されていたであろう。しかし国家資本主義の勃興は、世界市場に巨大な不効率を持ち込み、経済(政策)決定形成に大衆追随的政治を注入したのである。
(中略)

先にある道
 ますます多くのアメリカ人が、グローバル化はグローバル化は彼の仕事をほかの国に移すことで、彼の賃金を押し下げ、合衆国の消費者を粗悪な外国製品にさらすことだと信ずるようになった。2012年までに少なくとも一人の合衆国大統領候補者は、「アメリカ製品を買え」という政治綱領の上に立つ、新たな孤立主義者になることが、現実になりそうである。もし合衆国の立法者たちがこの保護主義のワナを避けようとするなら、20000の輸入財の関税を記録的水準に引き上げ、一種の報復を促し大不況を深化長期化した1930年スム―ト=ホートレー関税法の教訓を良く学ぶことになるだろう。
 地球規模の金融危機は、沈みつつある同じ船に全員が乗っているとの混乱の中での恐れに基づき、国際的一体化の幻影を生み出した。1年前、政治サークル内の会話はー途上国経済が合衆国とヨーロッパにおける消費者需要に依存することから十分自由に成長するまで国内の基礎を発展させるプロセスであるー「デカプリング」についてであった。デカプリングの予測は未だ機が熟していないことが証明された。主として合衆国において生ずる経済問題が、多数の途上国にその輸出需要の破壊により強行着陸(hard landing)を強いたのである。
 しかし表面下では、デカプリングは、ブラジル、中国、インド、ロシアの成長しつつある国内市場で依然顕著である。これらの国の政府は、投資において海外を目指している。資本フローの地域化において(海外を目指している)。そして長期的可能性としては、Gulf Corporation Council, Association of Southeast Asian Nationsの構成国、South American政府の幾つかは活発な地域通貨を始めるだろうし、より自足的になるだろう。
 合衆国はもはやかつて1980年代のようにその戦略的パートナーである日本や西ドイツに対しその債務を買い取ってもらうことを期待できない。合衆国は今では戦略的競合者である中国に依存せねばならないが、その中国は合衆国が世界経済のアンカーとしてのその役割を無限に保持できるとは信じていない。(また)ドル準備の蓄蔵は、北京をして中国の通貨価値低く保つことを助け、中国の輸出を押し上げ、貿易差額の記録を生み出した。しかし今や中国の優先度は、経済成長の新たなモデルーそれはより少なく合衆国やヨーロッパに依存し、より多く中国の消費者からの需要に依存するーを生み出すためにその国内市場の形成にある。もし中国が成功するなら、「デカプリング」はより意味のある言葉になるだろう。そして中国は合衆国債務を購入するより少ない誘因をもつことになるだろう。もしより少ない国が合衆国財務省証券を欲しがるなら、利子率はそれらが買い手に魅力的になるまで引き上げられるべきだろう。そしてこれは長期的な合衆国の債務性を意味するだろう。始まっている合衆国経済の回復は、よりゆっくりしたものになるだろう。そして世界準備通貨としてのドルの立場の弱体化は加速するだろう。
(中略)
 長期的には国家資本主義の将来に限界があることが、とくにそれがその2つの指導的実践者にすら持続的成長のための機能するモデルを提供できない場合には、おそらく証明されよう。中国の社会環境への挑戦の管理は、究極的には官僚制の容量を超えることが証明されるだろう。彼らは遂に自由市場が中国の14億の人々を食べさせ住まわせ、1000-1200万の新たな仕事を毎年生み出す上でずっと役に立ちそうだと気付くだろう。ロシアでは、人口の減少と経済があまりにも石油とガスの輸出に依存していることに直面して、政策作成者が、将来経済の繁栄は自由市場改革の更新を必要としていると結論するかもしれない。(以下略)


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