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本当の冷戦の勝利者は縁故主義だ Karam, Foreign Affairs, July 19, 2017

Sami Karam, Capitalism Did not Win the Cold War. Why Cronyism Was Real Victor, Foreign Affairs, July 19, 2017
用語 縁故資本主義 縁故主義 レントシーキング
   資本主義 社会主義 共産主義 冷戦

(解題)この論稿は冷戦で勝利したのは資本主義ではなく、縁故主義cronyismだと主張する。この著者は縁故資本主義という言葉は使わないが、一般に縁故資本主義で言われていることと同じ問題を指摘している。中国が縁故資本主義crony capitalismだという議論を読んだとき、この言葉の使い方は、アメリカでアメリカ資本主義が縁故資本主義になっているとの批判があることを無視できないと感じた。そこには縁故資本主義が、本当の資本主義ではないという意味が含めれていたことはもちろんである。ただアメリカの資本主義にも問題があって、それが縁故資本主義だとすると、そしてアメリカと中国がともに縁故資本主義だとすると、両者の縁故資本主義に違いはないのだろうか。あるいはそもそもこの言葉の用法に問題はないのだろうか(福光)

(本文)
   ソビエト連邦が26年前に崩壊した時に、一般的には西欧が冷戦に勝利したと受け止められていた。このことは、共産主義諸国で経験された政治的経済的停滞に比して、西欧諸国の市民が期待する繁栄と可能性(補語 の大きさにより)確証された。当時何度も繰り返された自然な結論は、資本主義が共産主義を遂に打ち負かしたということであった。
 この一方的な(sweeping)言い方は、ただ部分的に正しかった。もしも資本主義と共産主義が第二次大戦後争った唯一二人の主役だとすれば、共産主義が死の一撃を受けたと見ることは容易だ。しかし彼らの間には、今日縁故主義としてもっともよく認識されているシステムという、隠れた主役が存在した。資本主義が他の二人の競争相手に勝ったが、その勝利は短かった。続く数年、経済活動のますます大きな割合をつかまえたのは、縁故主義だった。世界の権力とお金の配分の調査が、明確にした。資本主義ではなく縁故主義が究極的に広がったのである。

縁故主義を定義する
 縁故主義とは何か? 私は以前の論稿で縁故資本主義(crony capitalism)という用語に反対した。縁故主義は資本主義の原理の正反対(antithetical)であり、資本主義の派生物とみるべきではないという理由で。縁故主義は資本主義と国家が統制する社会主義との間に落ちた分離されたシステムである。国が資本主義と社会主義に揺れ動く時、縁故者が支配する転換期がある。
 転換期にある縁故主義は資本主義的だと主張し、社会主義は平等主義的だと主張する。しかしこの二つ(縁故主義と社会主義)は、トップにいる縁故集団の規模を除くととてもよく似ている。
 ハーバード大学のMalcolm S.Salterは、資本主義と社会主義の間の中間にあるもの(transition)として縁故主義の有用な定義を提供している。もっとも彼は縁故資本主義という用語(法)に従っているが。2014年のWorking Paper「縁故資本主義 アメリカ風:ここで何を我々は話しているのか?」で彼は書いている。
 縁故主義社会では、大きな集団が、社会の富の大きな割合を、自身と関係者のために引き出している。社会主義制度においては、ずっと小さな集団が富と権力を乱暴に争っている。というのは、仮想的平等主義の経済は通常、富を生み出す上でより効率が低く、出回るものはより少ない。(そこで)社会主義の指導者間の争いはずっと激しくなるからである。
 簡単に言えば、縁故主義は、政府の官僚とビジネスエリートが、距離を保った取引に制限していればできないやり方で、自身の利益のために共謀することで生ずる。共謀は、政府の民主主義とビジネスの競争の双方を弱め、短期そして長期の効果に損失を与える。
    第一に、公正な代表と等しい接近という民主的原則は、より大きな政治的影響力により危険にさらされる。十分コネの個人と利害関係者による、暗黙あるいは明示的な約束、選挙運動での寄付、あるいは私的部門での将来の魅力的な仕事と言った方法で。
 第二に、自由競争と自由放任原則とは、弱くて立ち遅れた資本家たちが自分たちに都合の良い規制で市場のポジションを高めたり、破産が不可避なときに政府による救済を確保しようと努めるとき、不名誉な状態にある。縁故主義のもとでは、これらの妥協が当たり前になる。それはただ深いポケットをもつ大きなプレーヤ―だけが入手でき、小さな事業者や私的市民には損失になる。
 Salterは縁故資本主義の道具箱の3つの主要要素を認めている。(すなわち)選出される役人への選挙運動での貢献、議会と規則制定機関での活発なロビー活動、そして政府部門と私的部門の間の回転ドア。多くの産業が、抜き取り(訳注 中間利益の抜き取りの意味か)、あるいはレントシーキングrent seeking(訳注 自分に有利な法や規則を求める活動、超過利潤を求める活動)から利益を得てきた。いくつかは歴史的に、ほかのものより下位にある。エコノミスト誌が注記しているように、金融、エネルギー、インフラ、そして不動産部門はすべて、縁故を引き付け生み出してきた、困難に満ちた歴史をもっている。
 (以下略)

 


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