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『全知無能の神に代わって』第一話「黄泉にくだる」
【あらすじ】
邪教徒によって聖女リリエルは燔祭の生贄にされた。双子の姉であるルルニアは妹を陥れた者達への復讐を誓い、至聖神殿に帰還する。 しかし、リリエルの後継者を選出する儀式で三人の教徒が「自分こそが聖女」と主張しだした。 神が定める聖女はたった一人。本物の聖女は誰か。そしてリリエルを陥れた裏切り者は誰なのか――
嘲笑う声を聞いて目覚めた。
一面の暗闇にルルニアは立っていた。意識を失う前
『白雪姫と七人の継母』第二話「不祥事」
七人のざんねんな継母と暮らすこと十年。
今年の春にめでたく都内の私立女子高校に進学した雪見は今ーー会議室で担任教師と共に保護者が迎えに来るのを待っていた。
「あくまでも形式的なことだから」
隣に座る担任教師が慰めとも諭しともつかない言葉をかける。が、雪見の頭は継母七人の内の誰が来るのかでいっぱいだった。
(真弓さんはコンサートだから来ない)
帰宅は夜になると言っていた。仮に学校から連絡が来
『全知無能の神に代わって』第八話「深淵より」
どうしてこんなことになったのか。
いくら考えてもセシルにはわからなかった。つい数刻前までは、輝かしい未来にセシルは胸を躍らせていた。創世の女神ミアの代理人、ミア教の頂点に立つ聖女。由緒ある名門貴族クライン侯爵家の令嬢である自分にこそ相応しい役だ。
一国の王でさえも聖女の発言は無視できない。他の貴族達もこぞって新たな聖女の祝福を求めるだろう。神殿への寄進、聖女個人への贈呈。誰もが自分にかしずき
『全知無能の神に代わって』第七話「末路」
何者かが盛った毒によって、現聖女リリエルが倒れた。命こそ辛うじて保ってはいるが、いつ尽きてもおかしくない――深刻な状態だった。
生死の境をさまようリリエルを除いた関係者全員をシャーロット大司教は執務室に呼び集めた。
「一体誰がこのようなことを」
額に手を当てるシャーロット大司教に、マルクト大司祭が厳然と告げた。
「給仕の者の話によると、毒が入っていた野イチゴはセシルが運ばせたものだとか」
『全知無能の神に代わって』第六話「画策」
「あーいいなあ」
目の前に広がる粗末な朝食に、シャオはため息を吐いた。
「この野菜クズがちょっと入っただけの薄味スープとか、歯ごたえのありすぎるパンとか……なんというか、つつましいというか、質素倹約な感じ?」
「食べられるだけありがたいと思いなさい」
向かいに座るリリエルは冷然と言い放った。その前にはシャオと全く同じ献立が広げられていた。
「にしたって、もうちょっとあるだろ。魚とか肉とか」
「
『全知無能の神に代わって』第五話「疑惑」
人払いをした執務室は、重苦しい沈黙に包まれていた。
三人の聖女候補の聴取をした教徒達からの報告は端的だった。聖痕と神託に相違なし。三人とも自分こそが次代の聖女だと主張している——報告を受けたシャーロット大司教は額に皺を寄せ、窓の外の景色を眺めた。雲一つない青天は、本来ならば「次代の聖女誕生を祝福している」と解釈されただろう。が、今の状況では皮肉のように思えた。
「三百年の歴史を誇る至聖神殿でも
『全知無能の神に代わって』第四話「三人の聖女」
シャオは欠伸を噛み殺した。礼拝堂の隅とはいえ祭儀の最中に盛大な欠伸をしようものなら、後で何を言われるかわかったものではない。
大聖堂には劣るものの、礼拝堂はそれなりの広さがあった。ざっと五十を超える祭司や神官、使徒達が規則正しく並べられた長椅子に座り、礼拝を行っていた。
窓から差し込む朝日が、最奥にある女神ミアの像を照らす。希代の彫刻家が丹精込めて造り出したとされる女神像は、遠目から見てもそ
『全知無能の神に代わって』第三話「選ばれし者」
至聖神殿は聖なる山の中腹に建てられている。
女神ミアが降り立ったとされる山の頂きは禁断の聖域と呼ばれ、何人たりとも立ち入りを許さない。聖域を守るために神殿が建てられたのが始まり。やがて参拝者が増え、交易が盛んになり、山の麓に町が出来て発展した――ということらしい。詳しいことは無学の身でわかるはずもない。
シャルドネリオンにとって重要なのは、帝国中のミア教徒達の寄進が至聖神殿に集められていると
『全知無能の神に代わって』第二話「聖女の帰還」
創世の女神ミアの聖女、リリエルが神殿に戻った。
配下から報告を受けた時、セシルは手にしていた聖書を床に落とした。司教や司祭がその場にいたら間違いなく叱責を受けたであろう失態。だが、今のセシルにそんなことを気にする余裕などなかった。
「……それは、本当なの?」
「はい。今は大司教様の元に」
神官兵が皆まで言い終わる前に、セシルは正装用の外套を手に部屋を出た。走り出そうと急く心を抑えて、早足で向
「全知無能の神に代わって」モノローグ
リリエルはよく泣いた。
要領が悪い、要するに鈍臭いから余計に泣く機会は多かった。転んでは泣き、いじめられては泣き、母に怒られては泣いた。
その母が死んだ時は特に酷かった。一日中涙を流して嗚咽するものだから、リリエルのそばから離れることができなかった。おかげでルルニアは母の死を悲しむ間も、自分達の先行きに不安を覚える間もなかった。
至聖神殿の下働きになってからも、賎民はいじめの対象だ。厳しい