東方博

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東方博

小説・ボイスドラマ脚本・ゲームシナリオ等を書いております。 アイコンは508(https://twitter.com/508_kooya)様

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『全知無能の神に代わって』第一話「黄泉にくだる」

【あらすじ】 邪教徒によって聖女リリエルは燔祭の生贄にされた。双子の姉であるルルニアは妹を陥れた者達への復讐を誓い、至聖神殿に帰還する。 しかし、リリエルの後継者を選出する儀式で三人の教徒が「自分こそが聖女」と主張しだした。 神が定める聖女はたった一人。本物の聖女は誰か。そしてリリエルを陥れた裏切り者は誰なのか――  嘲笑う声を聞いて目覚めた。  一面の暗闇にルルニアは立っていた。意識を失う前のことは思い出せないが、何かとても恐ろしいことがあった気がする。全てが粉々に砕か

    • 『白雪姫と七人の継母』第三十一話「千歳と七人の継母」

       拉致されるのは、これで五回目だった。  今回は部活帰り。練習を終えて校門を出てすぐのことだった。過去四回の被害経験から抵抗の無意味さを学んだ千歳は、背後に不穏な気配を感じるなり「久しぶりー今度はどこ?」と訊ねてみた。 「イイ心掛ケダ」  お決まりのエアガンを突き付けた菫は尊大に言った。 「ソコノ店ニ入レ」  菫が示したのはファミレスだった。新しいパターンだ。今度はどの継母に何を言われるのやら。 「やっぱりここにいた!」 「抜けがけとはいい度胸じゃない」  どこからともなく現

      • 『白雪姫と七人の継母』第三十話「雪見が描いた千歳の絵」

         千歳に頼み込んで不足分は今月末で支払うことでなんとか納得させた後、雪見は帰宅した。真弓に文化祭がつつがなく終わったことを告げて、自室に引っ込む。  ひどく疲れた。制服を着替えるのも億劫でそのままベッドに突っ伏した。何もしていないのに身体がだるくて、そのくせ眠れそうな気もしなかった。  視界の端に、立て掛けたキャンバスが入り込む。雪見は深いため息を吐いた。  終わったことだ。  誰にでも好かれることは土台無理な話。彩子の言い分にも一理ある。今まで自分は恵まれ過ぎただけ。少しく

        • 『白雪姫と七人の継母』第二十九話「続・千歳の秘密」

           文化祭には参加した。  彩子は体調不良とのことで欠席。部長を欠いた創作文芸部ではあったが、元々ゆるい部活なので特に支障はない。店番で彩子が入るはずのシフトは雪見が引き受けた。有紗や他の部員達からも全員で時間を分けることを勧められたが、雪見は譲らなかった。せめてもの意地だった。  コピーとはいえ、絵を展示することはできた。悪者である彩子をやっつけることができた。それでもどこか精彩を欠いているように見えてしまうのは、きっと自分がワガママになったからだと、雪見は思った。  クラス

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        『全知無能の神に代わって』第一話「黄泉にくだる」

        • 『白雪姫と七人の継母』第三十一話「千歳と七人の継母」

        • 『白雪姫と七人の継母』第三十話「雪見が描いた千歳の絵」

        • 『白雪姫と七人の継母』第二十九話「続・千歳の秘密」

          『白雪姫と七人の継母』第二十八話「雪見と七人の継母」

           帰宅の道すがら、雪見は継母達のことを考えた。  椿を模した飾りのついたかんざし。真珠のネックレス。片方だけのピアス。ルビーの指輪。金のブレスレット。糸のついたままのボタン。白い鳩のブローチ。継母達との思い出は雑然とした装飾品で始まる。椿を始めに成政の奥様達の挨拶に回った際に、一人一人から贈られたものだ。成政の後継者として認められた証でもあるそれらは、雪見の宝石箱にしまっている。  それから十年近くが経とうとしている。今でも雪見は自分が何故後継者に認められたのかわからなかった

          『白雪姫と七人の継母』第二十八話「雪見と七人の継母」

          『白雪姫と七人の継母』第二十七話「雪見の復讐」

           邪が出るか蛇が出るか。文化祭を三日後に控えた日の放課後、雪見は彩子と共に展示教室へと向かった。  スプリンクラーが誤作動した教室は今も立ち入り禁止になっている。移動先は一つ上の階。隅に位置し、日があまり当たらない、絵画を展示するにはうってつけの教室だった。  鍵を開けて展示教室に入る。左手側には腰の高さほどのロッカーが並んでいる。その内の一つを開けて、雪見は中を覗き込んだ。  祈るような気持ちだった。どうか何も起きていませんようにと、仕掛けた後もずっと思っていた。 「伊藤さ

          『白雪姫と七人の継母』第二十七話「雪見の復讐」

          『白雪姫と七人の継母』第二十六話「特別な子」

          「それだけで帰っちゃったの!?」 「吉森さん、声が」  教室の隅で弁当をつついていた吉森有紗は周囲を見渡し、気持ち程度に頭を下げた。 「ごめん。で、二週間振りのミューズ先輩との逢瀬にもかかわらず、世間話で別れたと」  千歳にモデルを頼んで以来、有紗は「ミューズ先輩」と勝手に呼び続けている。本人が聞いたら間違いなく怒る呼称だ。 「他に何を話せと? それどころじゃないんだから」 「大変な時だからこそ頼るチャンスじゃない。モデルをもう一回頼むとか」 「お金がありません」  天下の白

          『白雪姫と七人の継母』第二十六話「特別な子」

          『白雪姫と七人の継母』第二十五話「継母は迷探偵」

           危うく焼身自殺騒ぎになるところではあったが、実際の被害は教室が水浸しになったことと、一生徒の絵が駄目になったことの二点。学校側からすれば大した被害ではないーー被害を受けた生徒が伊藤雪見でなければ。  事件発覚から一時間後には学長が教頭を伴って白羽家の邸宅に訪れ、警備体制及びスプリンクラーの不具合を陳謝。原因調査結果と再発防止策を追って報告することを約束した。 「それで雪見の評価はどうなるのでしょうか」  椿は冷静に訊ねた。 「文化祭とはいえ、課題を提出できなくなりました。し

          『白雪姫と七人の継母』第二十五話「継母は迷探偵」

          『白雪姫と七人の継母』第二十四話「なれの果て」

           管弦楽部への御礼参りを終えてすぐ、新学期が始まった。部長の彩子に絵が完成したことを伝えると、彼女は笑顔で「さすが伊藤さん」と褒めてくれた。すぐにでも持ってきてほしいと言われたが、そこそこ大きい絵なので保管場所に困ることから、直前まで自宅に置いておいた。無論、継母に見られないよう箱に入れて、だ。  あっという間に文化祭一週間前を迎えた日、雪見は意気揚々と完成した絵を学校に持っていった。  展示教室に運んだところで、有紗と彩子にだけ絵を見せた。二人とも目を丸くして、惚けたように

          『白雪姫と七人の継母』第二十四話「なれの果て」

          『白雪姫と七人の継母』第二十三話「謝罪とお礼のパウンドケーキ」

           制作期間は一ヶ月半。かつてない速さで完成したのは、ひとえに千歳と管弦楽部の皆が協力してくれたからだろう。ほぼ毎日のように描画のために入り浸る雪見を邪険にするわけでもなく、むしろ歓迎してくれた。  継母をはじめたくさんの人の協力で完成した絵は、宣言通りモデルである千歳にだけ見せた。その時の千歳の反応はーー雪見だけの秘密だ。  三日後に、雪見は完成した絵を額装した。表面のほこりをブラシで払い、最終チェック。保護用ワニスを塗って乾くのを待つ。 「絵って、描いて終わりじゃねェんだな

          『白雪姫と七人の継母』第二十三話「謝罪とお礼のパウンドケーキ」

          『白雪姫と七人の継母』第二十二話「重ねた美しさ」

           お盆休み明けには絵の全体像が出来上がり、指先や装飾品などの細部の描き込み作業に入った。継母達の様子が変わってきたのもちょうどその頃、雪見がしばらく自室に誰も入らないようお願いしてからだ。  普段は雪見の部屋のクローゼット内で寝泊りしている菫でさえもこの期間は追い出される。掃除という大義名分で毎日のように部屋に入る椎奈も入室禁止。柚子が室内に仕掛けていた監視カメラと盗聴器も外した。  文句は誰も言わない。そのかわり、物言いたげに雪見を見ることが多くなる。一番最初にしびれを切ら

          『白雪姫と七人の継母』第二十二話「重ねた美しさ」

          『白雪姫と七人の継母』第二十一話「継母の秘密」

           タイミング悪く、口論した翌週は盆休みで一週間部活はない。アルバイト先である文具店に行けば会えるかもしれないが、盆休みに働いているとは考えづらかった。残るは交換した連絡先ーー直接連絡することなのだが、なんと言えばいいのか、決めかねる。  たしかに千歳の言うことは正しい。雪見の家庭は普通のそれとは全然違う。継母も実の父も褒められる保護者ではないかもしれない。しかし、他人である千歳に非難される謂れはなかった。  そもそも、白羽家の養子になることは雪見が自分で望んだことだった。文句

          『白雪姫と七人の継母』第二十一話「継母の秘密」

          『白雪姫と七人の継母』第二十話「たまごドーナツ」

           構図、下絵、完成までに制作スケジューリング、その他文化祭準備、モデル捻出のためのアルバイト、そして忘れてはいけない学生の本分である勉強。一つ一つの課題を解決し、夏休みを迎える前にはほぼ全て完遂の目処が立った。  制作にあたってF型十五号のキャンバスを用意した。市販のものではなく、雪見が木枠を組み立てて麻の画布を張った手作りのキャンバスだ。手間がかかるが好みの張り具合に調節できるので、もっぱら自分で張るようにしている。  満を辞して制作開始。まずは大きくあたりを作って輪郭を描

          『白雪姫と七人の継母』第二十話「たまごドーナツ」

          『白雪姫と七人の継母』第十九話「千歳の秘密」

           人物画の構図は大きく分けて全身、腰から上、胸から上の三種類ある。  雪見が千歳に惹かれたきっかけは彼の手なので、必然的に手を描かなくなる『胸から上』のみの構図はなくなる。残るは『全身』か『腰から上』か、だ。  腰から上だけにして、手に焦点を当てた絵にしようと当初の雪見は思っていた。アンリ=レーマン作、かの超絶技巧のピアニスト、フランツ=リストの肖像画も腰から上を描いている。細身を強調する黒服。組んでいる腕にかかった左手の大きさと指の長さが印象的だった。やはり腰から上だ、とほ

          『白雪姫と七人の継母』第十九話「千歳の秘密」

          『白雪姫と七人の継母』第十八話「継母の地雷」

           そして迎えた放課後、雪見は自宅のマンション前で千歳を待った。エントランスのオートロックは指紋認証で解除されるようになっている。登録されている雪見と一緒に入った方が手間が省けると判断してのことだった。  千歳には数分前に約束の場所に待機しているとメッセージを送っておいた。返事はないが既読はついているので、読んではいるのだろう。  果たして約束していた時間通りに千歳は現れた。制服姿で険しい顔をしている。ともすれば不機嫌に見えるが彼の場合は目つきが鋭いのでこれが平常なのだと雪見は

          『白雪姫と七人の継母』第十八話「継母の地雷」

          『白雪姫と七人の継母』第十七話「モデルはじめ」

           善は急げ。月曜日の朝、ホームルームが始まる前に、雪見は三年二組の教室に赴いた。散々心配を掛けた創作文芸部部長の宮野彩子を呼び出してもらう。モデルを引き受けてもらえることになった、と報告したら彩子は満面に喜色を湛えた。 「でかした!」  教室前の廊下で、人目もはばからず彩子は雪見を抱きしめた。 「これでイラストが揃うわ。企画が通る!」 「ご心配をおかけしました」 「いいのよいいのよー」  彩子は上機嫌でばしばし雪見の肩を叩いた。そこそこ痛いが喜んでくれて悪い気はしない。雪見は

          『白雪姫と七人の継母』第十七話「モデルはじめ」