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樹
2021年1月27日 22:31
『そんなはずないだろ』ってわかっているつもりなのに、『もしかするとそうなのかもしれない…』と思考が感情に引っ張られそうになる感覚は、実を言うと頻繁にあった。 あの頃の俺はと言えば、高校に入って付き合い始めた彼女と、電話してから寝るのがルーティンのようになっていた。その日もいつものように、ベットに寝転がりながら喋っていた。すると、姉がノックと同時に部屋のドアを開けた。『ノックの意味、知ってる
2021年1月23日 07:22
俺は、眠ることを諦めて起き上がると、ネットを立ち上げた。ネットでは、半年ほど前に、月で見つかったという人工の建造物の話題に溢れていた。人が月へ旅行することが現実になる時代が、もうすぐそこまで来ていることを、だれもがなんとなく感じ初めていたころだっただけに、この話題は、驚き信じる者とどうせガセだろうと相手にしない者とが、きれいに分かれていた。同じような話題、同じような報道を見聞きしているはず
2021年1月19日 20:09
隠語とは、ある一定の限られた者だけが理解できる言葉のことだ。限られた仲間内以外には通じなかったり、あるいは別の意味合いを持った言葉として受け取られたりする。『月がきれいですね』なんて、姉の夜の散歩に無理やりつきあわされた際、すれ違う近所の人に、姉がよく言っている挨拶くらいの認識しか無かった。その挨拶に、果たしてどんな意味があると言うのだろうか?その時の俺は、そんな風に思っていた。あの時、何
2021年1月10日 01:29
俺は、彼女をベランダに残したまま、部屋に戻った。気持ちを落ち着けようと、グラスにまだ残っていたアルコールを飲み干した。姉の時のように、決定的な何かを言われた訳じゃない。だけど、彼女の言ったセリフは、何度か姉から聞いたことのあるセリフと同じ内容だった。「月で暮らすと、人は小さくなっていく」そんな話は、知らない。聞いたこともない。姉以外からは…。姉から聞いた月での話は、それだけじゃない
2021年1月6日 10:35
「ねぇ、知ってる?」天体望遠鏡を覗きながら彼女が聞いてきた。「人類は、何度か、滅びと再生を繰り返しているって話…」急にどうしたのだろう?「……聞いたことはあるよ。それがどうかした?」彼女は、それに答えずに話し続ける。「人は滅びが近づくたびに、別の星へと移住してきたの」「うん…」「だって、そうしないと、人が生き延びる術はなかったから…」「うん…」「そうなった時、人が、最初に目
2021年1月3日 21:27
「人には引力があるのですよ」これは天文部の顧問の言葉だ。「宇宙に行くとよくわかるのですが、例えば、この石を、手から離すと、石はあなたの周りを回り始めるのです。これは、あなたにも引力があるからです」これは万有引力の話…。「ただ、この地球上には、重力というものが存在しています。普段、この地球上では、あなたの引力よりも大きな重力の方が働いています」夜の天体観測に集まった天文部のメンバーは
2021年1月1日 07:47
それでも離れようとしない彼女の頭の上に、軽くキスをすると、ようやく彼女が顔を上げた。もうすでにアルコールの入っている彼女の顔が赤く火照っている。目も少し潤んでいるように見える。その表情で俺の方を見上げてくるものだから、ぐっとこない男がいるだろうか?俺は彼女の唇にキスをした。彼女が照れくさそうに笑う。俺は、もう一度、今度は、顎を支えて、きちんとしたキスをした。ほどなくして彼女の手が、首の後ろ