お父さんとお母さんがつくった おじいちゃんとおばあちゃんの家①
「息子夫婦に終の棲家を設計させたい」
義父の退職を機に
夫の両親が、私たちの住む京都に越してくることになった。
つくるのか、買うのか
つくるなら、どうつくるかを1年悩んで
土地を探し当てるまで、さらに2年の月日が流れた。
一人娘の産まれる、ずっと前のおはなし。
義両親がコミュニティを一新するハードルの高さを考えた結果
出した結論
「私たちの仕事場をくっつけて、仕事場が橋渡しをする」
二世帯住宅だと気疲れしそうだけど
生活時間にズレがない仕事場だったら
近いということは
ただそれだけでコミュニケーションのきっかけをつくることがあります
それも無理矢理ではなく
のぞめば必要なときに声をかけあえるような
そんな関係だったら長く続けられそう
ちょうど自宅での作業に行き詰まりを感じていた私
だから夫の実家に仕事場を作って、そこに私が通う
通勤は、生活の境目をつくるから
ついでに、嫁のあるある
「義実家で手持ち無沙汰」にもさよなら
だから
家や仕事場だけではないけれど
家でも仕事場でもあるような
グラデーションのある住まいをつくることにしました
そして今年、娘が小学校へ
時代の変化が、はっきりと目にみえる形になってきました
新しい時代にふさわしい豊かさとはなんだろう
家族のライフスタイルがアップデート
世界のライフスタイルもアップデート
だから、ここもアップデートする
- 建築は小さな子どもやお年寄り
身体をもつだれもが関わりあえる、オフラインのメディア
- 一旦立ち上がると更新が大変だけれど
使い方をリデザインすれば、アップデートも可能
- 自分の心地よさを、少しずつお裾分けし
2倍にも3倍にも広げて、未来へ返す
ものとしての見た目、素材感やスケールだけが
建築の居心地の良さを決める訳ではない
長く使い続けられる場に必要十分なデザインを探す
私たちの原点。
「義実家に私たちの仕事場」ができるまでと、これから
今日はそんなお話
初めての町家住まいで感じた
白黒つけない居心地のよさ
東京の女性建築家の設計事務所で3年修行の後
結婚と同時に独立した私
結婚して初めて住んだ家は
祇園のはずれにある、小さな町家でした。
結婚直後は、この小さな町家を
住まい兼職場としていました。
路地に面した入ってすぐところに
お商売の空間である「ミセの間」があり。
そこで日中仕事をしていると
格子越しにぼんやりと路地の気配が伝わって
街につながっている安心感が心地良い家でした。
私たちが引越しした晩
「新しく、若い人が越してきてくれはった。
は〜 ありがたい、ありがたい」と
向かいのおばあちゃんが
我が家に拝む声も漏れ聞こえ。
新参者が入りにくいイメージの京都コミュニティ
住民のほとんどが70才以上のその町は、該当せず。
即戦力として、町内会の役員や
地域のお祭りに参加させてもらいました。
町家暮らしで学んだことは まだまだあります。
小さいけれど合理的にプランニングされた台所
パリッと音がするほど完璧に乾く物干し
家中をくまなく いさぎよく駆け抜ける風の通り道
本や雑誌では知りえなかった
生活と仕事のどちらにも傾きすぎない
グラデーションある町家の居心地良さが
体にしみこむ体験でした。
逆転の発想で
デフォルト設定をひっくり返す
義両親の新居を設計するにあたって
まずは、お義父さんとお義母さんたちが
これまでの人間関係を一からやり直さなければいけないことが
気になりました
今日起こったできごとや友だちを日々住まいに運ぶ
「動く公共空間」的 子ども
小さな子どものいる家庭なら
新しい環境に飛び込んでもハードルは低いのかもしれませんが
もう一つ問題がありました
それは探しても探しても
ここ!と思える土地にめぐりあえなかったこと
うーん困った・・・というところで
よくよく不動産屋さんに話を聞いてみると
お義父さんとお義母さんの望む物件は
みんながほしいと思う人気の物件で
売り主さんの立場が買い手よりずっと強い
だからあらかじめ住まいのレールをがっちり敷いた建築条件が
買い手の自由を奪っていく
だったら
私たちもそろそろ事務所を外に出したいと思っていたところだし
事務所という商いのプログラムをくっつけて
土地の予算をあげてしまえば
買い手と売り主の力関係がバランスする価格帯に入るのでは?
と思いつき
そうして具体的に新しい青図を描いて、土地を探し始めたら
郊外の住宅地なのか、はたまた街中なのかすらぼんやりしていた
土地のイメージが明らかになってきたのでした
そしてここは住み慣れた住宅地と
便利でにぎやかな街の雰囲気が
せめぎあう場所
そうこうするうち
突然すべてのピースがピタッとパズルに合う物件にめぐりあい
設計がスタート
学生向けのお店が立ち並ぶ通りから一本入った
静かな住宅地
道路側に2〜3階建ての集合住宅の駐車場がならんだ
ゆったりと大らかな雰囲気
交通量は多くないけど
東山手に美大、西側に公園や畑があるので
大学生と親子連れが行き交います
方位的には
全面道路が南の、南入り敷地
だから、日当たりが必要な庭が
道路側に来るのが順当
駐車場もそう
そして、義両親が気にしていた
住宅のプライバシーを考えると
事務所も道路側に並ぶのが自然
大きな目当てがついたところで
周辺の公園や駐車場などの空地の配置を考えあわせながら
道路側の庭・駐車場・事務所の3つとおもやの
大きさと組み合わせ方を検討します
そうして可能性をいろいろ検討するうち
駐車場の上に軽く事務所を浮かべるのが
この場に一番ふさわしいと思いました
ふと顔をあげると目に入る
庭の一部でも
お向かいの集合住宅の一部でもあるような
軽やかな私たちの仕事場
それは、近頃よく思い出すという
古い蔵とつながり、にぎやかで明るい家だった
お義母さんの実家のイメージとも重なり
そこで風通しの良いお義母さん実家に思いをはせて
町家的に、北側にもう一つ小さな坪庭をつくることに
敷地の良い「気」を
三次元的に循環させるイメージが、一気に膨らんできました
せっかくだったら
みんなが気持ちよく
遠隔ゆえ、敷地探しは私の担当
だから運命の敷地に巡りあったころには
すでに、家族全員の間で新しい生活のイメージが共有されて
設計の進行はスムーズでした。
設計期間は約6ヶ月
手順としては
基本設計で建築の3次元の骨格をつくった後
実施設計で詳細をつめます。
「うなぎの寝床」ほど奥に深くはないものの
「ダックスフントのベッド」くらいの奥行きはあった今回の敷地。
義父は学者で蔵書が多い。
ともすれば暗くなりがち家を、
どうしても、明るくしたいというお義母さんの意志を尊重し
間口が大きくとれる、鉄骨造とすることに。
そこで私が修行時代にお世話になった
イギリス人構造家アラン・バーデンさん(SE)に構造設計を依頼しました。
道路側に張り出した事務所は
東から差すお隣の朝日を奪わないよう、東側に配置
それぞれの部材やジョイントを反映した、最終的な構造はこんな風↓
模型は手先の器用な夫が担当
駐車場の上に「ふわっと」事務所を浮かべる
「ふわっと」感を、アランさんはこんな風にデザイン
鉄骨のブレース(斜めの部材)で上から吊る感じ
三角錐上の鉄筋コンクリート基礎の真ん中の穴は
雨樋からの雨を受けるため
ここから更に、素材感を入れた最終模型はこちら↓
仕事場はカコっとL型に
普段作業する机は公園向きで、おもやとは目がささない
でも打ち合わせスペースは見えるので、来客の気配は分かります
この模型で、一日の大半を書斎で過ごすお義父さんが
ちょっと顔をあげれば、南と北の2つの庭がのぞけることを確認
この後、工務店に見積もりを出し(約1ヶ月)
予算オーバーした部分の減額調整と設計変更(約1ヶ月)
建築確認申請を出し、申請がおりたところで(約1ヶ月)
いよいよ、工事スタートです!
現場クロニクル
現場大好きな私。
現場8ヶ月間のヒストリーを時系列でご紹介します!
11月25日
大蛇のような基礎の鉄筋
12月14日
基礎の配筋が終わったところで
できあがりの大きさをイメージしています
12月20日
これぞ丘猿
ポーチになる場所
鉄骨建方の定点観測 これがすごいスピードなのです
すべてのパーツをこんな風にクレーンで運んで
鉄骨が組み上がった段階で見てもらいました
手摺がついていない吹き抜けを飄々と歩くお義父さん
1月11日
庭のコンクリート擁壁の鉄筋
駐車場からの入り口の風景はこんな感じ
1月17日
ウサギのマークがかわいい
コンクリートミキサー車
「大きなかぶ」を思い出さずにはいられない
建築はチームワーク
1月20日
ポーチに土を投入
この日は構造家のアランさんも現場入り
1月27日
屋根はないけど壁があるから
外だけど部屋みたいな玄関ポーチ
現場で職人さんに玄関が分かりにくいと言われ
ヘンゼルとグレーテル作戦
韓国のお箸チョッカラを埋めることに
屋根の防水をして板金
すみっこの水切り
サッシュが入って寒さがしのげるように
2月8日
フローリング下の
根太と断熱材を兼ねる「ネダフォーム」
鉄骨には仕上げが貼れないので
胴縁という木の部材を組んでいきます
2月22日
お風呂は二階なので
防水のリスクとお手入れを考えて
ハーフユニットバスに
3月3日
吹き抜けまわりの腰壁ができてきました
コーナーごとに大工さんの居場所が
1階から見るとこんな感じ
船長さんのような大工さん
3月6日
一番いい場所を知っている現場の人達
駐車場から見た道路を横切る人
3月10日
浴室の「フェルメールの天窓」
珪藻土塗りでよりフェルメールに
3月15日
お義母さんの希望で「蓄熱式暖房機」という
電気式の暖炉を入れることに
3月17日
2階のバルコニー
バリッと洗濯物が乾きますように
鉄骨階段が
冬の素足でヒヤッとしないように
テラスをつくる大工さん
本で隠れる二階の壁はペンキ
虹のような庭の園路
3月20日
できたてほやほやのテラスで
お昼寝の左官屋さん
リビングのある一階の壁は珪藻土に
4月8日
愛媛の菊地さんが漉いた泉貨紙で
吹き抜けの腰壁に和紙を貼っているところ
吹き抜けを通る光をやわらかく拡散させるため
和紙を貼りました
4月11日
宇宙人ミツマタ着陸
庭らしくなってきた北の坪庭
庭が小さな森に
この日を境目に道行く人の視線が庭に
5月4日
仕事場はコストを考えて天井と壁に和紙DIY
背筋にくる「マトリックス」
思わぬダイエット効果
天井と壁をすべて貼り終えるのに
丸一週間かかりました
足場がばれ、庭ができたら
はなれに夕焼けが映るように
5月20日
10畳そこそこの事務所が
せまぜましくならない椅子が
見つからなかったので
寺社で使われる「床几」を脚に
一点豪華主義で
ソファー?スツール?な座をつくることに
アウトドア利用可能な
変幻自在の相棒的なイメージ
長くなったので、竣工以降の後半部は次回
おつきあいいただき、ありがとうございました!
の前にこちらに続きます👇
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「ミラボと実家」ができるまでと
これから始める試み「窓18ギャラリー」については
こちらのマガジンに格納予定。
また、時々お問い合わせがあったものの
長い間、まかない飯状態だった「まる床几」を
思い立ってプロダクト化
重力に負けないで
一瞬で固定できるディテールや
看板娘にお小遣いを握らせ
路上で撮影したこのシャワーキャップのように
洗い替え可能な椅子張りを試行錯誤中
noteは週一ペースで更新しているため
instagramやtwitterが先行しています
Instagram:@3__lab.architects
twitter:@hiroey_3__lab
最後まで読んでいただきありがとうございます。心から感謝します!