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ベストミックスの提案(後編)【連載】人を右と左に分ける3つの価値観 ―進化心理学からの視座―

※本記事は連載で、全体の目次はこちらになります。第1回から読む方はこちらです。

 日本では、領土問題などで敵対関係にあるチャイナや韓国に対しては右派の姿勢で、日本に友好的な国に対しては左派の姿勢で対応するのが最善だと考えます。現に、自民党は日本に友好的な国と「クアッド」などで連携し、敵対国に対処しようとしています。これに対して、2009年9月に誕生した日本の民主党政権は、親中・媚中の態度に終始していました。挙句の果てに、鳩山首相が「東アジア共同体」などと言い出し、沖縄から米軍基地を追い出そうとして、軍事同盟国である米国を大変苛立たせました。民主党政権がすり寄ったチャイナは敵対国であるだけでなく、左派が擁護する人権や文化的多様性、言論・出版・表現・思想・学問の自由、国際法を侵害する独裁国家です。このような国は本来、左派が最も立ち向かわなければならない相手でしょう。
 人権や文化的多様性の侵害として、チャイナは新疆ウイグル自治区、チベット自治区、内モンゴル自治区で、少数民族の弾圧や文化的ジェノサイドを行っています。具体的には、政府の意向によって2014年から新疆ウイグル自治区の学校でウイグル語の使用が禁止となり、ウイグル語の教育ができなくなりました。それだけでなく、男たちは強制労働に駆り出され、女性たちは組織的な性犯罪の被害に遭っていると、英国放送協会(BBC)は報告しています(注5)。
 内モンゴル自治区でも、2020年6月末に突然、9月から教育におけるモンゴル語を大幅に削減して漢語(中国語)に切り替えるとの政策が打ち出されました。これに対して、自治区のモンゴル人をはじめ、同胞の国であるモンゴル国と世界各国に住むモンゴル人も抗議活動を展開しましたが、これにより多数の教育関係者と幹部たちが当局に逮捕されたり、政治的思想教育(洗脳)を受けさせられるなど、弾圧は強まる一方です(注5)。
 チャイナは言論・出版・表現・思想の自由も認めません。ネットでの自由な言論・表現を検閲で規制していることは有名ですが、出版や思想の自由も認めていません。チャイナの国内では、中国共産党のスキャンダルを扱う本や、習近平国家主席の資金源に関する本、政治的な権力闘争に関する本などの発行が禁止されています。チャイナの特別行政区として高度な自治が認められていた香港でも、2015年に中国共産党に批判的な本を扱っていた銅鑼湾書店の関係者5人が相次いで失踪する事件があり、閉店を余儀なくされました。
 思想の自由についても同様です。民主化運動を始め広範な人権活動に参加し、2010年にノーベル平和賞を受賞することになった劉暁波は当局に度々投獄されてきました。2015年には、チャイナの人権派弁護士ら300人以上が当局に拘束され、睡眠を認められない、水や食事を少量しか与えられないといった拷問を受けています(注6)。海外でも、天然資源、特に石油を確保するために、第三世界の独裁政権を援助し、人権抑圧を進めています。
 学問の自由の妨害としては例えば、中国政府の意を受けたチャイナの外交官や留学生たちが米国の主要な大学で工作活動を行い、教育や研究の自由を侵害しています。米国議会が設立した半官半民のシンクタンク「ウッドロー・ウィルソン国際学術センター」が、2018年9月上旬に公表した「米国の高等教育への中国の政治的な影響と干渉の活動の研究」と題する報告書は調査結果の総括として、「これまでの20年間に、米国駐在の中国政府外交官らは、米国の多数の大学の学問の自由を次のような方法で侵害した」として、次のような諸点を指摘しています。

・中国側が触れてほしくないテーマ(チベット抑圧、新疆ウイグル自治区でのウイグル⺠族弾圧、中国国内での人権抑圧、無法な領土拡張など)についての教育を止めさせるよう圧力をかけたり懐柔を図ったりした。
・大学が招く講演者や、催す行事について苦情を述べた。
・ジョージ・ワシントン大学がダライ・ラマの講演を計画し、ウィスコンシン大学が台湾政府代表の招待を計画した際に、中国人外交官が両大学に激しい抗議を繰り返した。
・中国側の要求を受け入れない場合、その大学が中国側と交わしている学生交換などの計画を中止すると威嚇した。
・中国側の要求に応じない米国側の学者や研究者に対して、私生活にまで踏み込んでいやがらせ行為や威嚇行為を行った。
・米国の大学などで中国関連の学術テーマを専攻する教職員のなかには、中国政府が嫌がることを表明するとさまざまな形で報復や非難を浴びる危険性を恐れて、本来の意見を自分の判断で抑えてしまう人たちも少なくない。

 35万人に達する中国人留学生の一部も、中国政府の意向を受けた形で米国の大学の教育や研究の内容に圧力をかけています。その具体的な事例を見ていきましょう。

・中国当局の嫌う研究や講義の中止を求めた。
・中国についての特定の展示や行事の撤去や中止を求めた。
・中国政府が嫌う人物を外部から招くことを中止させようとした。
・中国政府にとって好ましくない主張をする特定の教職員を非難した。
・大学の講義で一般の中国人留学生が中国に関する政治問題でどんな意見を述べるかを中国の大使館や領事館に定期的に通報した。

 チャイナは外交官や留学生を通じた工作だけでなく、国家としても米国の大学の教育や研究の自由に不当な圧力をかけてきました。

・メリーランド大学がダライ・ラマを招いたことに対して、中国側は同大学への中国人留学生派遣を停止した。
・カリフォルニア大学サンディエゴ校がチベット関係者との交流を進めたことに対して、同校への中国政府系の学者の公式派遣を停止した。
・中国側は米国の学者たちに対する脅しの手法として、中国への入国ビザの発給を拒否することを示唆する。
・ウィスコンシン大学のエドワード・フリードマン教授が、中国政府が望むような内容の本を2万5000ドルの報酬で書くことを中国側から勧められた。

 日本がチャイナと敵対関係にあることは、言うまでもないことですが、それをよく表していたのが、2011年3月の東日本大震災が発生した4日後の「東方日報」の記事です。

 釣魚島(尖閣諸島)を奪還するには、コストとリスクを最小限にしなければならない。日本が強いときには手出しができない。日本が弱っても手を出せないならば、釣魚島はいつ奪還できるのか。日本が大災害で混乱しているこの機会が絶好のチャンスである。

 このように災害時に援助どころか、隙に便乗して侵略しようとする主張は看過できるものではありません。第2章にて鳩山元首相が中国脅威論を否定していましたが、彼らを始めとする日本の左派は、このような脅威に鈍感で然るべき対応が取れていません(たとえば、尖閣沖の中国漁船衝突事件など)。リベラルを自負する日本の左派は、このような目に余るチャイナの所業を批判するどころか、この国に毅然とした態度を取る自民党に非難の矛先を向けます。このような倒錯によって、軍事的にも経済的にも急速に膨張を続ける左派の価値観に反した独裁国家の覇権に加担することになるという皮肉な状況に陥っていることに気づいているのでしょうか。

 敵対関係にあるもう一つの国、韓国についても最後に触れておきましょう。「韓国内にも日本に好意的な人がいる」と個々の例を挙げ出すと水掛け論になってしまいますので、統計を見ながら話を進めていきたいと思います。2019年11~12月に新聞通信調査会が実施した「諸外国における対日メディア世論調査」で、韓国やチャイナがどれだけ日本に好感を持っているのか、信頼しているのかを見てみましょう。調査では、アメリカ、イギリス、フランス、チャイナ、韓国、タイの6カ国において、各国約1000人の回答を得ています。日本に対する好感度を見てみると、タイで95.7%、アメリカで82.8%、フランスで74.9%、イギリスで68.1%と軒並み高い数字になっていますが、チャイナでは33.5%、韓国では22.7%と過半数にも満たない状態です。続いて、日本について「信頼できる」と答えた人はタイで95.6%、アメリカで79.5%、フランスで76.6%、イギリスで63.0%だったのに対して、チャイナでは25.7%、韓国は13.0%と低い数値にとどまっています。
 もっとダイレクトに、韓国に「敵国として認識している国」を尋ねた質問では、日本がダントツの1位となりました(注7)。韓国の求人情報サイト「アルバモン」が大学生718人を対象に、韓国の友好国と非友好国に関するアンケート調査を実施したところ、「韓国に非友好的な敵国」として半数以上の54.3%が日本を挙げたのです。このアンケートで2位だったのは、軍事的停戦状態にある北朝鮮で21.4%でしたが、日本はその2倍以上の数字です。
 こうしたメンタリティーは韓国社会全体を覆っており、日本を扱う韓国映画は、ことごとく反日的なものです。韓国における映画歴代観客動員数で、1位をキープし続ける『バトル・オーシャン 海上決戦』が、豊臣秀吉の朝鮮出兵における「鳴梁海戦」を朝鮮水軍サイドから描いた抗日映画なのはその象徴でしょう。最近でも、2018年12月に韓国海軍の駆逐艦が、日本の海上自衛隊のP―1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射したうえに、謝罪など誠意ある対応を見せなかったことも記憶に新しいと思います。
 韓国の釜山国立大学で准教授を務める米国人政治学者ロバート・ケリーが2015年6月にアジア外交雑誌「ディプロマット」に発表した論文では、はじめに近年の韓国での暮らしの体験が綴られています。

韓国で少しでも生活すれば、韓国全体が日本に対して異様なほど否定的な態度に執着していることが誰の目にも明白となる。そうした異様な反日の実例としては、韓国の子供たちの旧日本兵を狙撃する遊びや、日本の軍国主義復活論、米国内での慰安婦像建設ロビー工作などが挙げられる。旭日旗を連想させる赤と白の縞のシャツを着た青年が謝罪をさせられるという、これ以上にないほどくだらない事例も目撃した。

 これほど官民一体となって日本を叩くのは70年前までの歴史や植民地支配だけが原因だとは思えないとして、続けて次のような分析を述べています。

・韓国の反日は単なる感情や政治を超えて、民族や国家の支えの探求に近い。つまり、自分たちのアイデンティティを規定するために反日が必要だとしている。
・同時に韓国の反日は、朝鮮民族としての正統性の主張の変形でもある。自民族の伝統や誇り、そして純粋性を主張するための道具や武器として反日があるのだと言ってよい。

 これまでの韓国の歴代大統領がみな反日なのも、彼らの国民性を如実に表しています。韓国では、大統領の支持率が下がると反日行動や反日的な言動をすることで、支持率を回復しようとすることがよくありますが、このような「反日カード」が存在するということ自体が、韓国に「日本に対する敵対感情」が世代を問わず蔓延していることの証左でしょう。
 日本が同盟国との相互協力を強化するために安保関連法を成立させようとした際にも、諸外国のほとんど(米国、英国、ドイツ、イタリア、フランス、オランダ、欧州連合、オーストラリア、インド、フィリピン、シンガポール、モンゴル、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、ミャンマー、マレーシア等)が賛同や歓迎の意向を表明しているにも関わらず、チャイナと韓国だけが政府として公式に反対を表明しました。やはり、敵国として日本の防衛力強化につながる動きは封じ込めたいのでしょう。日本の左派はこのときも敵国側に立って安保法案に反対しましたが、第2章で述べたように平和を維持するためには、日本が軍事力を高めたり、軍事同盟を強化・拡大することに反対すべきではありません。地政学的な脅威や敵意を正確に把握し、左派のオープンで寛容な態度を相手によって柔軟に切り替える必要があるのではないでしょうか。


5. モンゴル人に対する文化的ジェノサイドの首謀者は習近平、楊海英ニューズウィーク日本版、2021年3月20日。
6. 中国、拘束の人権派弁護士に拷問 飲食や睡眠を制限、産経ニュース、2021年1月22日。
7. 週刊ポスト2018年3月2日号、小学館。

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