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まえがき【連載】人を右と左に分ける3つの価値観 ―進化心理学からの視座―

 ※本連載では敬称を略させていただきました。

 本連載は、憲法改正、安保法、原子力発電等をめぐり右派政党と左派政党による意見の対立が目立つ日本に対し、海外における政治研究の成果を照らし合わせてみることで日本の右派と左派の意見の相違が生まれる背景を深く理解し、それを乗り超えるための視座を提案することを目的としています。

 類書として、ジョナサン・ハイト(社会心理学者)による『社会はなぜ左と右にわかれるのか―対立を超えるための道徳心理学』(紀伊國屋書店)がありますが、本連載の内容は主に、タイラー・コーエン(経済学者)に「ジョナサン・ハイトの次のステップ」として推薦されている未邦訳の書籍『Our Political Nature: The Evolutionary Origins of What Divides Us』の大枠を参考にしています。

 『歴史の終わり』で有名なフランシス・フクヤマ(政治学者)にも絶賛されているこの書籍には、人々の政治的志向(右派か左派か)を分けているものとそれらの進化心理学的基盤に関する興味深い知見が豊富に含まれており、例えば人の持つ様々な価値観の中から政治的志向を決定するものを抽出すると、次の3つの価値観に集約できることを紹介しています。

1.部族主義(Tribalism)か否か
2.不平等に寛容か否か
3.人間の本性を競争的なものと捉えるか、協力的なものと捉えるか

 『Our Political Nature』ではこれらに基づいて右派と左派の価値観や行動原理の違いを快刀乱麻に説明していくとともに、これらの価値観に進化心理学的なルーツがあることを解き明かしています。しかし、この書籍が未邦訳であるためか、このような深い洞察が日本ではなかなか知られていません。
 『Our Political Nature』(2013年発行)の邦訳を待つということも考えましたが、何年待っても一向に出ないこと、また内容がやや専門的なうえに、日本に関する記載が少ないことから、日本の政党・人物・トピック・主張と絡め、わかりやすい説明を心がけた記事を書く意義があると考えるようになりました。

 また、『Our Political Nature』には含まれていませんが、次のようなトピックも関連付けることができると考えていますので、本連載ではこれらも合わせて統一的に右派と左派の違いについて論じています。

・エマニュエル・トッドによる家族構造と政治的志向の関係に関する議論
・速水健朗によるフード左翼とフード右翼の議論
・ヴァルター・ベンヤミンによる暴力に関する議論
・ウィリアムズ症候群と左派に関する議論
・小林哲夫によるシニア左翼の議論

 これらに加えて、私自身が関係すると判断したトピック(スポーツや芸術との関係、人を左寄りにする薬、右派と左派のそれぞれの難点、民族的多様性による社会資本の腐食、ベストミックスの提案など)も盛り込んでいますので、やや詰め込み気味ですが、お付き合いいただけると幸いです。


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