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右翼的暴力と左翼的暴力【連載】人を右と左に分ける3つの価値観 ―進化心理学からの視座―

※本記事は連載で、全体の目次はこちらになります。第1回から読む方はこちらです。

 ドイツの思想家、ヴァルター・ベンヤミンは、ノーマルな暴力の形を次の二つに分類しています。第一の暴力は、ある秩序を守ろうとする暴力です。これはすでに出来上がった権威や力関係を保つために振るわれる暴力で、警察や自衛隊が行使するタイプの暴力が該当します。他にも軍事政権や独裁政権が体制を維持するために行使する暴力(天安門事件など)もこのタイプでしょう。
 一方、第二の暴力は、ある秩序を壊し、新たな秩序を作り出そうとする暴力です。たとえば、国の転覆や改革を図る革命家が行使する暴力などはこのタイプだといえるでしょう。
 このような暴力分類論を紹介したのは、私が第一の暴力が旧来の既存の権力を守るという性質を持つことから「右翼的暴力」であり、第二の暴力は既存の権威や階級を壊し理想社会を作ろうとすることから「左翼的暴力」として捉えることができると考えているからです。第一の暴力には当然、警察や司法が行使する処罰だけでなく、教師や親の権威を守るために振るわれる暴力や体罰も該当します。第2章で、右派ほどこういった処罰を厳しくすることで、犯罪を減らそうとすることを見てきましたが、体罰を肯定するか否かについても第1章のRWAテストで見ていました。「今日、これほど多くのトラブルメーカーが社会に溢れているのは、親や他の権威が、旧式の体罰を忘れてしまったことが理由の一つであり、これは今だに人を適切に行動させるための最善の方法の一つである」という設問ですが、これを右派が肯定する傾向にあることはすでに述べたとおりです。

 この暴力に関する議論をヒーローに適用することで、世の中のヒーローを右翼と左翼に大きく分類することができるかもしれません。右翼的なヒーローとは、右翼的暴力を行使し、現状の社会体制、規範、社会秩序を保つために、秩序を乱す逸脱者を成敗します。これには、悪者や犯罪者をやっつける大抵のヒーローものが該当すると思います。また、哲学者のホッブスが提唱する、公権力が個人や集団から武装を取り上げ、暴力を独占し一元管理する事によって、秩序を維持しようとする国家論は、言い換えれば第二の暴力を無くし、第一の暴力に一元化することで秩序を維持しようとする考えだと解釈できるかもしれません。 
 これに対して、左翼的なヒーローとは、現状を改革することを目的として、帝国や大企業、政治家などの権力者の腐敗や悪政と戦うために左翼的暴力を行使します。これには、次のようなヒーローが該当するでしょう。

・エルサレム神殿を頂点とするユダヤ教体制を批判し、十字架に磔になって処刑されたナザレのイエス
・江戸幕府を倒すきっかけを作った坂本龍馬
・12世紀後半のイングランドで、ジョン王の悪政に抵抗したアウトロー集団のリーダー、ロビンフッド
・銀河帝国軍に反乱同盟軍とともに立ち向かうルーク・スカイウォーカー

 右翼的ヒーローか左翼的ヒーローかを見分けるためには、その人物がその時の権力者と同調しているか対立しているかを見れば一目瞭然だと思います。

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