【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 中編 9
翌朝、黒万呂の祈りが効いたのか、海は昨夜の荒波が嘘のように穏やかで、空はまるで海の色を映したように真っ青だった。
東の空から上ってきた日は燦々と輝き、船上に出てきた人たちは、疲れ切ってはいたが、日に向かって手を合わせていた。
黒万呂も目をつむり、手を合わせた。
すると瞼の裏に、いつか斑鳩寺で見た神々しい仏の姿が浮かび上がってきた。
目からは、わけも分からず涙が零れた。
止めようと思っても、次から次へと溢れてくる ―― 別に悲しいわけではないのに………………
「お前、泣いてるのか?」
大津に言われて、初めて涙を拭った。
「いえ、お日様が眩しいだけです」
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