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禁域の山で起こる謎と恐怖のエンタメ体験:バイオ・ホラー小説「ヨモツイクサ」レビュー

 バイオ・ホラー小説「ヨモツイクサ」(知念実希人 著)を読んだ。
 フタを開けてみると、これはホラー、ミステリー、サスペンスの要素が融合した一冊だ。それぞれの要素が興奮と好奇心を刺激し続け、読めば読むほどこの物語の世界に引きずりこまれる。ホラーのエンタメ本を探している方にはぴったりの一冊だと思う。

 今日はネタバレを避けて、「この小説のここが面白かった!」と感じた五つをご紹介。

📜📌あらすじ
「黄泉の森には絶対に入ってはならない」
人なのか、ヒグマなのか、禁域の森には未知なる生物がいる。究極の遺伝子を持ち、生命を喰い尽くすその名は――ヨモツイクサ。
北海道旭川に《黄泉の森》と呼ばれ、アイヌの人々が怖れてきた禁域があった。その禁域を大手ホテル会社が開発しようとするのだが、作業員が行方不明になってしまう。現場には《何か》に蹂躙された痕跡だけが残されていた。そして、作業員は死ぬ前に神秘的な蒼い光を見たという。
地元の道央大病院に勤める外科医・佐原茜の実家は黄泉の森のそばにあり、7年前に家族が忽然と消える神隠し事件に遭っていて、今も家族を捜していた。この2つの事件は繋がっているのか。もしかして、ヨモツイクサの仕業なのか……。
本屋大賞ノミネート『ムゲンのi』『硝子の塔の殺人』を超える衝撃医療ミステリーのトップランナーが初めて挑むバイオ・ホラー!

双葉社 商品説明より引用

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①怪奇現象の鍵を握る人物は誰かの謎

 物語の前半はホラー要素が強めだが、後半はミステリーやサスペンス要素がかなり出てくる。怪奇現象の鍵を握る人物は誰なのか。この謎が物語の後半を読みすすめていく上で私たちをどんどんリードしてくれる。単にバイオ・ホラーとして怖がらせるだけでなく、ミステリーとしても私たちを物語の中へとぐいぐい引きずり込む。後半はページをめくる手を止められない。
 謎が明らかになった物語の読了後は、この謎の人物を中心にして物語を振り返って余韻にひたれる。

②読んでいる間中、ずっとジェットコースターに乗っているような感覚が続く

 緊張とほどよい緩和が連続する。緊張のシーンを読み、「もう、しんどい」「疲れた」と思う。今日はこの辺にしようかと思う。しかしその辺りで緊張が緩和されたシーンがやってくる。しかもそういう時に限って、謎が提示されたり、謎が明らかになる。「うぅ、もうちょっと読んでみよう」とページをめくってしまう。すると気が付くとまた緊張シーンに突入しているので、読むのをやめられなくなってしまう。

③物語の中心となる怪奇現象を不思議な現象のままで終わらせない

 怪奇現象自体の謎を、不思議な力などとして置きざりにしない。分子生物学や医学などの生命科学の分野で明らかにされている事実を基にして、論理的に説明しているところが面白い。
 とにかく人を怖がらせればそれでおしまい、というわけではなく、現実世界で明らかにされている事実を基に説明している。それにより、怪奇現象でさえミステリーの謎解き要素として楽しめる。

④全く繋がりがない複数の要素が、物語が進むにつれて、どんどん絡まっていく

 ・昔話(地元の言い伝え)
 ・人身事故を起こすヒグマと熊狩り
 ・主人公たちの目の前で起こる怪奇現象
 ・生命科学の力で明らかにされている事実
 この物語はこれら四つの要素が繰り返し出てくる。はじめはそれぞれが独立していて関係を持たないのだが、読み進めるれば進めるほど、一つの物語として絡まっていく。しかも、分かりやすいというのがすごい。

⑤読者は作品の世界を、最後の最後のページまで楽しみつくせる

 作者はミステリー作家なので、どんでん返しがちゃんと物語のラストに用意されている。

 

 読了後に振り返ってみると、ものすごいエンタメ小説だった。読者を楽しませるために、ものすごく知念先生が考え尽くして書かれていることが伝わってくる。
 苦手だと思ったことはひとつだけ。私は感受性が強い方なので、残酷な描写がつらかった。何度も読むのをやめようかと考えてしまった。それでも、物語に引きずり込む力の方が強くて、最後まで読み切れた。今は満足感がすごい。これが映像だったら、最後まで見ていたか自信がない……。恐ろしいエンタメ小説でした。

総合レビュー 4/5
★★★★☆


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