見出し画像

「限りある時間の使い方」はタイトル以上に面白い・・もっと売れて欲しい本


原題


少し前の本、でもここ数年で自分にとって最もインパクトのあった本は、この「限りある時間の使い方」(オリバー・バークマン)だろう。ある程度評判にはなったが、日本でどの位売れたんだろう?いろんな年齢層の人に読んでほしい本。
でも、この日本語のタイトルはいただけない(と思う)。日本の読者に判りやすいように、よく売れるようにと出版社の方があれこれ考えた上なのであろうが、これだと、どうしても「時間管理」の本と誤解する人も多かったのではと思う。まぁ帯にはいろいろ説明書いてあるんだけど。
やはり、この本のコアは、原題 ”Four Thousand Weeks”(結局人は4000週間しか生きられない)であり、”Time Management for Immortals”(限られた命しかない我々がどう時間を使うべきか)だと思う。そこがよくあるビジネス書の時間管理術と根本的に違う本で、むしろ生き方・哲学的な本なんだと思う。

多くの人、そして実社会で”成功”している人はなおさら、このたった4000週間しか生きられないんだということを、頭ではわかっていてもつい忘れてしまう、おそらく本当に死が目の前に近づいてくるまでは。そして何故か万能感を抱き、知らず知らずのうちに、著者の言う「自己中心性バイアス」(自分のことを宇宙の中心的存在と思ってしまう)に囚われてしまい、あくせくとするのかな。真面目な人ほどそうかも、仕事の一線を退いても、何か自分にもっとできることはないかと、自己実現や社会貢献にひた走るシニアも周りに多い。
でもね、著者曰く。「時間を無駄にしたくないという気持の中には、あらゆる時間を努力で満たしていれば、いつか幸せな未来がやってくるという信心みたいなもの。」「世界はもう壊れている、今ではなく、実はずいぶん前から壊れている。」「どんなに努力しても完全な未来などできない、人生は永遠の救済への準備期間ではない、僕たちは4000週間しか生きられないのだから。」「本当の話、あなたが人生で何をするかは、そんなに重要なことではない。」
そして、いつまでもパフォーマンス志向に縛られいることの馬鹿馬鹿しさに気づいた方がいい、なるべく早くに。曰く、「今を生きるための最善のアプローチは、今に集中しようと努力することではない。むしろ、自分は今ここにいるという事実に気づくことだ。」そして、「目標志向の僕たちには、いわゆる趣味に生きるのは何だが居心地が悪い。でも純粋な趣味は生産性や業績志向への挑戦状。」さらに「個人の自由時間もいいが、価値のある共同作業へ参加する自由には深い意味がある。」

シニカルで悲観的な話ではない。「限られた時間と能力のなかでやれることをやる。」「今を味わう。」現実的なアドバイスもいくつか書いてある。でも、気づきが必要なんだ。著者のまとめ、「時間を支配しようとする態度こそ、僕たちが時間に苦しめられる原因なのだ。」
自己実現や長寿社会に関する言説が多い昨今、とにかくなるべく長く働いて、社会に”貢献”するのが良い生き方という風潮があるけど、時々息苦しい。そんな中、ふと頑張りすぎる人の肩の力を抜いてくれるような本。



この記事が参加している募集

#人生を変えた一冊

7,933件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?