「風呂酒日和」第二話 お酒編:海鮮酒場らうす港 #創作大賞漫画原作部門
銭湯を出て駅とは逆の方へ歩く。
駅前はチェーン店が多かったので、個人店っぽい所に行ってみることに。
その名も「海鮮酒場らうす港」。
羅臼は北海道の地名である。
北海道出身なので、なんとなく親近感。しかも港が店の名前、これは絶対お魚おいしいやつ。
赤いのれんが見えた。
中を覗くとカウンターに前掛けをしたおじさんが座っている。彼が店主だろうか。もしやもう店じまい...?そっと扉を開ける。
「こんばんは...まだやってますか?」
「やってるよぅ〜暇で飲み始めちゃった」
なるほど。にこやかに迎え入れてくれ、カウンターに着席。
「初めてだよね〜?」
「はい」
「いやいや嬉しいね〜。何飲む?」
「瓶ビールありますか?」
「もちろん」
出てきたのはサッポロ黒ラベル。北海道だもんね。
「クラゲ食べる?野菜と和えたやつ」
「あ、いただきます」
「初めて作ったんだけどさ〜なかなかうまいよ。クラゲと水菜、ミニトマト。ごま油で塩こしょう〜」
おじさんは歌うようにレシピを言いながら小鉢を出してくれた。
カウンターの上には大皿料理。どうやらおじさんの裁量で適当に出してくれる感じっぽい。
クラゲを早速一口。
うむ、うまい。お酒のアテにちょうどいいおつまみサラダという感じ。
「手羽とじゃが芋は?」
「食べます!」
大皿からひょいひょいとよそってくれる。
可愛いサイズのじゃが芋がごろごろ。味が染み込んだ色の手羽先。うんうん、実家のおかずって感じで素敵。
「新じゃが美味しいよ〜」
おじさんの軽快な口調に誘われ一口。
うん、おいしーい。甘じょっぱい優しい味付け。
「で、あなたはどっから来たのさ〜?」
おじさんに聞かれて、銭湯帰りですと答える。
「あーあそこね。でもなんでこっちまで?駅の方にお店いっぱいあるでしょう」
「"らうす"っていう名前を見て...私北海道出身なので、それで来てみました」
「あそう〜!そう、おじさん羅臼出身なんだよ〜。へ〜それで来てくれたんだ」
おじさんは高校卒業後、上京して数十年前にここを始めたそうだ。昔築地で働いていたこともあり、美味しい海鮮を安いルートで仕入れられるとのこと。すごい。
「結構いいもの入れてるんだよ〜。あ〜そう、北海道なの〜。じゃあさ、ウニ食べたいでしょ。出したげる」
どへー!ウニ...大丈夫?
私のお財布で払えるだろうか。
「ウ、ウニって...今かなり高くなりましたよね...?」
察したおじさんが「だーいじょうぶ、そんなに取んないから」なんて言いながら笑う。ほんとに?信じるよ?おじさん...。
「はいウニ〜」
おぉぉぉ!
久しぶりのウニ。しかも結構いっぱい。お醤油につけて早速一口。
ほにゃぁぁウニや〜。なめらかな甘さと磯の香り。最高。
ビールを一口飲んで、わさびをつけてもう一口。
あぁ...至福。
「今日はもういっか〜。一緒に飲んでていい?」
そう言うと、おじさんはカウンターに戻ってきた。
「どうぞどうぞ!」
「よし今日は宴会だ。おじさんが一杯おごっちゃる」
そう言って席を立つと冷蔵庫から日本酒を出し、グラスをくれる。同郷って言ってよかったなんて思う現金な私。
「ありがとうございます」
「いいのいいの。おじさんいっつもここで飲んでるだけなんだから、そんなにお金も使わないし」
綺麗な水色の瓶に「ゆり」と書かれたお酒。
福島のものらしい。おじさんと乾杯して一口飲んでみる。
「あ〜ちょうどいいちょうどいい」
私より先に感想を述べるおじさん。
確かにどっしり濃い感じではなくとても飲みやすい。これがちょうどいいってことかぁ。
「こんばんは」
扉が開いて男の人が入店。
「おーう、いらっしゃい」
「あれ〇〇ちゃんは?」
「最近ぜーんぜん来ないねぇ」
「あ〜彼氏できたって言ってましたからね」
「なに〜?そうなの〜?なんだぁ、じゃあもうその話しない」
「え?どんな彼氏か聞きたくないんですか?」
「ヤキモチ妬くからいいよぉ」
おじさんはちょっとふてくされたように言いながら、常連さんにクラゲの和え物と渡し、手羽じゃがをよそう。
「じゃがいも多めで!」
「今日はウニもあるよ」
「いや〜ウニはいいかなぁ」
「あそう。じゃああとこれね、奈良漬け」
おじさんは常連さんと私に漬物を渡してくれた。
「あーこれ、あんま好きじゃないやつ」
「なにぃ、じゃおじさんが食うからいいよ」
「や、半分食べます」
「いいよいいよ俺が食う」
なんだかちょっと親子みたいなやり取り。
常連さんはだいぶここに通っているのだろう。2人の話し方で関係が長いことがわかる。
「そういや俺も彼女できたんすよ」
「え〜?この、ばかやろう。おじさんヤキモチ妬いちゃうよ」
ヤキモチ妬きがちなおじさん。可愛い。
みんなのこと、大好きなんだね。
私はおつまみを食べ終わり、いただいた日本酒も飲み終えお会計。
「また来てね〜仕事がんばんだよ〜」
おじさんは親戚のおじさんのように優しく見送ってくれた。
地元を味わえるとっても素敵なお店だった。
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