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居候の私と初めての生姜焼き


初めて一人暮らしをしてから一年後。
その家の不便さに私は早々に引っ越しをした。

引っ越しの際、退去する日と新しい家に入居する日の折り合いがどうしてもつかず、2週間ほど友人の家に居候をさせてもらったことがある。
一時預かりサービスのある引っ越し業者に家具などの荷物を頼み、私はキャリーバックに必要最低限の荷物を入れ、友人宅を訪ねた。

今思うと狙ってか偶然そうだったかはわからないが、家族と恋人を除き、私が今まで一緒に住んだことのある人にはある共通点があった。
それは「めちゃくちゃ仲の良い人ではない」ということだ。
そしてこれは、かなりいい点だったのではないかと思っている。


いくら仲が良くても四六時中一緒にいたり、生活を共にするとなると良くも悪くもお互いの小さな習慣の違いなどが気になってくる。
どれだけウマが合うと言っても、自分の「当たり前」がその人とぴったり一緒だということはほぼない。
それぞれの生きてきた当たり前の世界があるのだ。


その当時そこまで深く考えていたかはわからないが、私は一緒に暮らすことによって仲の良かった友人との関係がマイナスの方向に変わってしまうのを懸念し、親しい友人には新居に住むまで2週間家なし期間があることを相談していなかったように思う。

最悪そこで仲違いをしてもいいやと思えるくらいの関係性で、且つたいして仲良くもない私を迎え入れてくれるような気立ての良い「ちょうどいい人」はいないものかと、そんなずるいことを考えていた。

そして、たまたま大学のサークルが一緒だった違う学科の友人が、特に深く考えていないように言った「じゃあうちに来ればいいじゃん!」という言葉に、なんてぴったりなんだと思ったのである。

居候までさせてもらいながらそんなに仲良くないなんていうのは申し訳ないし失礼な話なのだが、正直言ってなぜ私をさらりと招いてくれたかわからないくらい彼女は絶妙な距離感の友人だった。
そして、この居候生活により私たちは本当の友達となる。


家に行った最初の日、彼女は「普段は全然作らないんだけど〜」と前置きをしながらも、自炊をしたと言って私を迎えるために料理を作ってくれた。

1Kの決して広いとは言えない一人暮らしの部屋だったが、私が寝られるよう来客用の寝具を出しておいてくれ、じゃあ今日からよろしくねなんて言って私たちは彼女の料理で乾杯した。
2人きりで食事をするのもこれが初めてだったかもしれない。


お互い忙しい学生生活を送っていたのですれ違う時間も多かったが、時間が合うときには一緒に食事をしてお酒を飲みながら、どんな食べ物が好きかなんて他愛もない話から、将来どんな仕事をしたいか、今までどこでどんな風に育ってきたかなど、様々な話を夜遅くまで語らった。

人懐っこいように見えた彼女が実は人見知りだということも初めて知った。日に日に彼女のことを知っていき、私も彼女に自分の話をした。
なんだか、お見合いで結婚してこれから夫婦になっていく二人のような、ただの他人だった人が、段々とお互いのことをよく知る存在になっていくような感じがすごくそわそわしてドキドキしたし、単純に楽しかった。
新しく知る彼女の話を聞くのが嬉しかった。
そうやって2週間はあっという間に過ぎていった。


居候最後の夜、私は「最初の日にご飯作ってくれたから今日は私が作る」と言って彼女のために生姜焼きを作った。
2週間前までは全く知らなかった、彼女の一番好きな食べ物である生姜焼き。

実はそれまで一度も作ったことがなかったため、私はネットでレシピを調べ、生まれて初めて生姜焼きを作った。
彼女の好みの味にできたかはわからなかったが、彼女は喜びながら私の作った生姜焼きを食べると「今度から生姜焼き食べたくなったらすぐ呼ぶ〜!っていうか、またいつでも遊びにきてね」と屈託のない笑顔で言ってくれた。


私は2週間家を失ったことにより、お互いのことをよく知る仲の良い友達ができ、生姜焼きの作り方を知ることができた。
あの生姜焼きには、2人で過ごした2週間の楽しい時間という最高の隠し味が含まれていたはずだ。

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