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緊急事態宣言の車窓から

 このご時世、県境をまたぐ移動は自粛せよとの風潮ですが、新幹線に乗って実家に帰省してしまいました。すみません。
 このすみません、もウイルス対策の意識が甘くてすみませんというより、逃げてしまい申し訳ございません、という意識です。なんだか重ねてすみません。
 対象の相手もわからぬまま、じゃぶじゃぶ湧き出る申し訳ないという気持ち。


2020/5/11(月)
 先週の月曜、2週間の休みを経て会社の上司と今後の仕事の進め方を相談するつもりでした。
 でもどうにも朝から呼吸が浅い。会社のパソコンを接続してメールチェックする間にどんどん息がしづらくなり気づけば過呼吸、ベッドに寄りかかるもずり落ちて、ゴロンとしびれる手先をすがるように見つめていました。

 会社のメールシステムの映像がすでに、「つらい仕事」「絶望的な未来」というイメージにひもづいてしまっており、短絡的に不安のスイッチが押されてしまったのだと、今振り返ると思います。

 なんとか落ち着けてもう一度パソコンに向かうも、また過呼吸になってしまう。
 その波を落ち着けたあとに上司へと電話して、三度めの過呼吸に突入しながら「今週も無理そうです、休ませてください」という旨を伝えて、少し横になりました。

 結局その日のうちに実家の母に伝え、「実家に帰る」という選択に行きつきました。
 心療内科の薬を飲み二週間、仕事も休んで落ち着いていたかと思っていましたが、やはり仕事そのものに向き合おうとすると不安が増幅してしまうようでした。

 ノロノロと実家に帰る用意をしながら、もう東京に帰って来られなくなるかもしれない、という悲観的な方向へと思考のアクセルが踏まれる。スーツケースに何を詰めればいいのか、呆然とし、途方もない気持ちになりました。


2020/5/12(火)
 久しぶりに乗る中央線で東京駅に向かう。吉祥寺、西荻窪、荻窪、阿佐ヶ谷、高円寺。過ぎ去っていく街並みを見て、やはりもう戻って来られないのではないかと胸が締め付けられます。また呼吸が浅くなってくるような気がして、少ないとはいえ確かに存在する他の乗客の目がある手前、必死に心を落ち着けようとしました。

 東京駅。在来線から新幹線へと乗り換えるための大通路を抜けます。平日・休日問わず普段なら床も見えないほどの人混みで埋め尽くされているイメージの場所が閑散としており、あらためて非常時だと実感します。
 まばらな人影もほとんどがビジネスパーソンらしき出で立ちで、大きなスーツケースをゴロゴロ転がしているカジュアルファッショニスタは自分くらいなもの。自粛をものとものしないスタイルが非常識だと他人から思われやしないかと、恥ずかしさもありましたが、なにより未来への絶望に頭は占められている状態でした。


 ガラガラののぞみ号。一つの車両に十人もいませんでした。密です、ならぬ、疎です。
 車窓から、有楽町、新橋の街並みが遠ざかっていく。
 東京を離れるスピードが、どんどん加速していく。


 事情を伝えてある友人グループLINEの、優しい着信。
 自分が今、実家へと敗走しているのだという返信を、書いては消し、書いては消し、緩慢に打つ。
 送信ボタンを押せぬまま、窓の向こうで過ぎ去っていく景色をじっと、見つめていました。


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