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「この決定は公平か、それとも平等か」この問いが浸透している組織は強い。

皆さん、お久しぶりです。実に5ヶ月振りの投稿になってしまいました。

今回のテーマは「平等」と「公平」。あまりこの違いを意識することは無いかもしれませんが、このバランスが崩れると、組織は瞬く間に崩壊していきます。

そして、そのバランスを崩すのは、皮肉なことに人間が元来持つ「弱さ」。つまり、「意識しなければ、必ずこのバランスは崩壊する」と私は考えます。

是非「自分の組織は公平か、平等化。そしてそのバランスはどうか」、イメージしながらご一読いただけたら幸いです。

「平等」と「公平」とは

まず、それぞれの言葉の意味を辞書で引いてみましょう。

平等:かたよることなくひとしいこと。ひろく行きわたって差別がないこと。
公平:判断や行動が公正でかたよっていないこと。特定の人のえこひいきをしないこと。

(出典:日本大国語辞典)

パッと見ると、「同じような意味」に見えますよね。でも、よく読んでみると違います。

平等は「その"状態"が偏っておらず、等しいこと」であり、公平は「"判断"が偏っていないこと、その結果としての"状態"が"不当に"偏っていないこと」を表しています。

これは英語に直すとより分かりやすいのですが、「平等=Equality=イコールであること」、「公平=Fairness=フェアであること」となります。

「どちらも良い意味だし、どっちでも良くね?」と思ってしまいますが、組織を運用していくにあたって「平等」は時に(多くの場合)悪さをします。

悪しき「平等」の事例

以下に私が経験した、若しくは見聞きした「悪平等」を例示します。

例1)【ヒト】入社年次や年齢に縛られた評価・報酬体系

これは多くの大企業所属の方が経験されていることだと思いますが、その人個人の実力よりも「入社何年目」や「何歳」という定量情報を前提とした報酬体系があり、そして評価もそれに即する。

そのため、若くして入社直後にどれだけの成果を残そうとも、全く違う基準による「平等さ」が優先され、高い評価・高い報酬を受け取ることが出来ません。

例2)【カネ】所属する組織数で分配される予算

今思い返しても意味が分からないのですが、例えば、Aという部門に投資枠が1,000億円与えられたとします。そして、そのA部門には4つの組織がぶら下がっています。

当然ながら其々の組織は収益力も規模も市場も異なるのですが、投資枠は「4」で割られて、250億円ずつ割り振られます。

理由を直接聞きに行ったら、「“数“で割るのが一番平等だから」という回答が返ってきました。

例3)【キカイ】番号順の出向・駐在機会

これは今話題の「入閣待機組問題」と同じ話ですが、各ポジションや機会には行列が出来ていて、並ぶ人が誰であろうと、必ず順番待ちの最後に並ばされます。

仮に「そのポジションに完璧にフィットする人材」がいたとしても、「番号順」という客観情報が優先され、その人は「次の次の次まで待ってね」となります。

「平等」の共通点

簡単な3つの例を挙げましたが、みなさんの会社・組織を見渡していただくと、必ず最低でも「1つ」はあると思いますし、多い会社では何十とあるでしょう。

では、この例1〜3の共通点は「客観的な基準のみが用いられ、主観的な要素="判断"が完全に排除されている」ことです。(入社年次、年齢、所属組織数、申込順序)

まさに定義で言う「かたよりがない・差別が無い状態であるか」を判断する物差しは客観情報でしかありえないので、その対極にある主観情報を排除しています。

ですが、組織を運営するにあたって「判断を排除した決定」が求められるシーンは極めて少ないと考えます。

「平等」がはびこると、どうなるのか

平等が生み出す「不公平」

かのイーロン・マスクの言葉が、「平等の悪」を端的に指摘しています。

「そこ(パフォーマンスの低い組織)の従業員に優しくするのは、自分の仕事をきちんとこなしている何十人もの作業員に対して優しくしないことに等しいんですよ。問題箇所を修正しなければ、ちゃんとしている人々を傷つけることになるんです」

(出典:「イーロン・マスク」)

意思決定権者が「リスクと責任」から逃げ、平等に走ると、「公平な判断をされた時に受益者だった人間が損をする」ことになります。

その結果、以下のような事態が発生します。
・優秀な人材が辞める
・優れた組織が成長せず、ダメな組織が金を使い果たす 
・リーダーの存在価値が無くなる
・やってもやらなくても同じであり、リーダーへのエンゲージメントも無いので、組織と人が緩み、怠ける

「客観情報」は当然のことながら不変なので、努力する意味も無くなるのですね。結果、企業が成長せず、そして衰退していきます。

「平等」に競争力は宿らない

他者と違うことをやること、そしてそこから生み出されるものが「差別化」であり、競争力やコアコンピタンスに繋がっていきます。

「客観情報だけを用いた判断なき決定」など、コモディティの極みであり、絶対に差別化に繋がることはありません。

このように、平等が蔓延ると「努力と差別化無き組織」が爆誕し、「平等によって一時的にメリットを享受した人」も巻き込んで、全員が不幸になっていきます。

では、なぜ「判断」から逃げてしまうケースが発生するのでしょうか。

人はリスクを恐れる生き物。だから「平等」に逃げる。

「判断」は人間がするものである以上、必ず主観が入ります。主観が入るということは、その決定責任がその人に紐付きます。

その人はその判断についての「未来の責任」を負うと共に、なぜその判断をしたのか、という問いに対して回答する「今日の責任」も負います。

この「未来の責任」と「今日の責任」から逃げる方法は2つだけ。①判断しないで、決定する、②判断も決定もしない。

決定したくない人からすると、理想は②でしょうが、それを続けているとそもそも存在意義を疑われるので、止む無く①を選ぶ、という流れです。

つまり、「リスクを最小化しつつ、決定を行おう」とすると、行きつく先が「100%平等・0%公平」の世界線になる、ということですね。

なお、この論点になると、良く「日本人は決めるのが苦手」というような「国籍」という属性を持ち出す人がいます。

ですが、そもそも人間というのはリスク回避的な生き物だと思っています。私は30カ国以上の人たちと働いたことがありますが、「責任を負う」ことに対して消極的な方はどの国にもおられました。

なので、「日本人がどうこう」とかではなく、「そもそも人間は平等に逃げやすい動物である」という前提に立ち、教育や仕組みを整えていく必要があるのです。

では、どういう手を打つと「平等」の発生頻度を下げられるのでしょうか。

平等を極力遠ざけるための処方箋

1️⃣「公平な判断が前提の組織である」ことを強く打ち出し、共通言語化する

まずは仕組みの前に「共通言語化する」ことが全ての始まりです。本件に限らず、言語化されていないことが現実世界に落とし込まれることはありませ。

例えば、セルソースでは「フェアに行こうよ」が社長の口癖で、空気のように浸透しています。また、少し言葉は違いますが、Valuesの一つである「Simple and Clear」にも同じような思いを込めています。

周囲のイケてる、伸びてる組織は大企業・ベンチャー問わず、この「フェア」という言葉がどこかに登場しているケースが多いように感じます。

2️⃣社内のガイドラインやルールなどに言葉として入れていく

みなさんの会社にも「採用ガイドライン」や「評価ルール」など、それぞれのプロセスや考え方を言語化したものがあると思います。

こういった資料に「フェア」「公平」という言葉を入れていくととても良いと思います。つまり、1⃣の大上段の話だけではなく、採用するとき、評価するとき、アンケートに答えるとき、、、組織内で普通に活動しているだけで「フェア」という言葉に触れると、よりメンバーの深層に落ちていきます。

3️⃣企業文化は全員で作るもの。「公平じゃない」と思ったら、まず自分が声を上げる。

しかし、どれだけ遠ざけたとしても、「平等」は必ず発生します。そして、「平等」には常に被害者が伴います。つまり、被害者は必ずいつか発生します。

もしそれが貴方だった場合、「いや、それおかしいだろ」と感じ、そして声を上げてください。

往々にして、「上が決めたことだから仕方ない」とか「面倒くさい」という理由で、その謎決定を受け入れてしまうことが多いですが、そうすると意思決定側は「あ、これでいいんだ」と勘違いし、次回も同じことを繰り返します。

良く組織風土や文化をリーダーの責任と考える人が多いですが、そんなことはありません。組織は人が作るもの。つまり、人が変われば組織は変わります。

これを読んでおられる方の肩書や位置づけは存じ上げませんが、それに関わらず、違和感を感じたら「即」行動を起こしてみてください。意外と組織は変わります。

おわりに

復帰初稿にこのテーマを取り上げようと思ったのは、「上場スタートアップ企業の執行役員」とかいう肩書で一期を全うしてみて、「フェアであり続けることの難しさ」を痛感したためでした。

あれだけ住友商事時代は「悪平等」に立ち向かっていったくせに、自分の心が弱い時には、「"公平さを装った平等な判断"を下そうとしている自分」がニョキニョキと出てきて、何度も愕然としました。

そこで改めて「公平・平等とは何か」から考えてみたときに、もしかすると関心を持っていただける方がいるのでは、と思い、書いてみました。

今後も「組織」・「人事」のようなテーマを中心に執筆していきますので、引き続きよろしくお願いします!


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