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ジェンダー炎上の影で

あなたの赤ちゃんが突然連れ去られたら、あなたはどうしますか?

あなたの赤ちゃんはまだ1歳。可愛くてかわいくて溺愛していたんです。

といっても、誘拐されたわけではありません。

あなたの伴侶が連れて出ていってしまったのです…

きっかけはケンカです。
売り言葉に買い言葉。ついカッとなって言い過ぎてしまい、
実家に帰る!
とこういうわけです。

子どものある夫婦で、これを経験したことがない人の方がむしろ少ないくらいかもしれません。

そう、ここまではよくある話。

しかし、もう絶対に戻ってこないとしたらいかがでしょう?

あのときは言い過ぎたかも…
しばらくしても戻ってこないことに不安になったあなたは、場合によっては謝ろうと思って伴侶に電話しました。
 
そこで切り出されたのは…

実家じゃないと子育てできないから、もうそっちには帰らない。あなたがもしこちらに来られないなら別れる。

想像もしていなかったあなたは唖然とし、絶句しました…

伴侶の実家は都区外西東京。夫婦の住まいは東京寄りではあっても千葉県。

簡単に行き来できる距離ではなく、すなわちそれは今の住居を解約して、引っ越して来い、さもなくば別れると、そういう意味になるわけですが、そもそも結婚する際の条件として、あなたは、あなたの実家近くの今の住まいで暮らすことを伴侶に誓わせ、さらに念を入れて、本当に問題ないか繰り返し確認していたのです。

たしかに言い過ぎたところはあったのは認めるけれど、突然帰らないなんて…約束を反故にして自分の言い分を押し付け、さもなくば別れる!?

しかも子どもを勝手に連れて出ていって、電話で一方的に通知してくるなんて…

あなたは正気を失い、謝るどころか激昂し、言い争ったうえ、電話を切りました。

興奮収まらぬあなたのところに、伴侶の母親から電話が。

伴侶とあなたの言い争いを聞き及んだ伴侶の母親が、突然介入してきたんです。

その言辞は高圧的で、もうあなたの元には子どもと孫は行かせられないという、一方的なものでした。

なぜ夫婦間の問題に口を挟まれなければならないのか…それにそんな主張は当然受け入れられません。あなたはまたしても冷静さを失ってしまい、激しい口論となり、話はもの別れに終わりました。

そもそもの夫婦関係に、たとえば、DVだとか、不倫だとかがあったんじゃないかですって?

いや、まったくないんです。
今回みたいに派手ではないにしても、ときどきケンカはありましたけど…しかしそれは先に言ったとおり、あなたにとっては夫婦によくあることという認識を超えないものでした。

しかし、しぱらくすると、あなたは自分が間違えているのではないかと考えはじめます。何より愛しい娘のために、自分は父親であり続けたい…娘にとっても父親は必要なはずだ…

そう考えたあなたは、伴侶に電話し、また言葉が過ぎたと謝り、伴侶の主張に歩み寄って、伴侶の実家近くに移住してもかまわない、よりを戻して子どもを一緒に育てたいと伝えましたが、伴侶から、もう関係修復できるタイミングは過ぎ去った、もう別れるしかないと剣もほろろに一蹴されました。

よく話を聞くと、実際は、伴侶本人はよりを戻してもよい気持ちがあるみたいですが、どうも母親が強硬に反対しているらしく、母親に反対できないから別れたいということみたいなんです。

あきらめられないあなたは、もちろん何度も説得を試みましたが、離婚しかないの一点張りでした。

この一連の騒動で、もう伴侶に対する気持ちはまったくなくなっており、相手と離婚することはあなたの中でも動かしがたいことになっていましたが、やはり問題は子どもです。

娘に会いたくて、気も狂わんばかりのあなたは、伴侶がいるその実家に押しかけ、強引に連れ去ろうかと考えるまで思い詰めましたが、あなたの母親に諭され、すんでのところで思いとどまりました。

そんなあなたの元に、追い討ちをかけるように、相手が代理人として弁護士を立てたと告げてきました。

子どもは伴侶のもとにいます。もし、取り戻すとしたら、裁判をとおして親権を争うかたちになるでしょう。

しかしあなたには裁判で勝つ見込みはありません。

DVも不倫もネグレクトもしていないあなたであっても、子どもを取り戻すことは非常に困難なのです。

なぜなら、
あなたは男だからです。

まあ、皆さまも薄々お気づきとは思いますが、「あなた」が男つまり夫で、「伴侶」及び「相手」が女つまり妻です。

そして実は、この夫が私の友人であり、実際に友人から聞いた話をもとにこの記事を書いています。

今まで「あなた」「伴侶」等と故意に隠していたのは、夫と妻の立場が逆の場合もありうるからです。

口喧嘩をきっかけに夫が子どもを連れ去り、一方的に妻に離婚を突きつけることも有りうるのです。

しかしこの場合いかがでしょう。妻がよほど酷いこと、それこそDVとか不倫とかしてたならいざ知らず、争えば、夫が人非人扱いされたうえ、間違いなく妻が親権を獲得するでしょう。

男女平等ではないんですか?

いや、子どもじみた言いがかりはやめます。建て前どおりになんかいかないのが世間だということは、重々承知しているつもりです。

正直、自らのお腹を痛めた母親とその子どもが、一体感を持って生活することの必要性は、高いと言わざるえないでしょう。そして、乳幼児に対して父親が母親の代わりをできるかと問われれば、難しい面が多いと言わざるをえないでしょう。

実際友人は、子どもの親権について争っても、男には分がないことを承知していて、また、母親のもとにいる方が子どものためと思い、親権で争うのはあきらめました。

友人は離婚を認め、子どもはあきらめる旨妻に伝えました。妻からは慰謝料は受け取れない、養育費だけは協力して欲しいと言われました。

このような形になったとはいえ、血の繋がった娘に対して何らかの繋がりを持ちたいし、できるだけ責任も果たしたいと考えていた友人は、養育費については協力したいと思っていました。

しかし、妻と直接養育費負担のあり方についてやり取りをする心づもりだったのが、妻が「あなたに言いくるめられてしまうから」と当事者同士で話し合うことすら拒否し、友人は代理人である弁護士とのみやり取りすることになったのです。

友人は弁護士と面会しました。養育費は裁判所の算定表どおり、あなたの事情は分かるがこれが相場なので、親の責任と思って支払いなさいという、具体的な経緯は触れず、情実に訴える論調です。

裁判所の算定表というのは、裁判所が養育費の支払いを算定する際に用いる表で、夫婦お互いの年収から算定額が分かるようになっているものです。

裁判に持ち込まれた場合、男性が支払う養育費は、この算定表より低い金額になることは(もちろん妻からのDVなどあれば別でしょうけど…)まずないそうです。

そういったことを踏まえて、相手方の弁護士は、どうせ争っても算定表どおりなのだから、手っ取りばやく手打ちにしようというわけです。

しかし、友人は、官公庁の公式な資料をもとに、彼独自に試算した養育費と、算定表による養育費の間には乖離があると言います。

算定表の金額な方が、彼の試算よりはるかに高いのです。

友人は、一方的に娘を奪われたも同然なのに、妻側の意向どおりの養育費では、結局焼け太りになる。それは納得できないと言っていました。

たとえ資料を元にしているとはいえ、彼の試算がどの程度妥当なものか、そこまではさすがに分かりません。

しかし、養育費を支払われる側が、主に被害者と想定されて作られているのではないかと思いますし、少なくとも、それが表である限り、各個の事情を考慮しないものとなっているのは明白です。

ですから、友人のように被害者的な立場の男性にとっては、不利に作られている可能性が高いのではないかと思います。

裁判所が扱う離婚事案について、いちいち各個の事情を考慮していたら、裁判所側がまわらなくなってしまうというのは理解できます。

しかし一方で思うのは、ひとつの算定表で決めてしまうというのは、さすがに乱暴ではないかということです。

特に彼のように男性の場合、まず算定表に従うしかないということならなおさらです。

友人自身判例を仔細に調べてもそうだし、彼はさまざまな弁護士に相談してみましたが、やはり算定表の金額で争って万一にも勝てる見込みはない、との回答でした。

友人はもちろん、裁判で争う気はもともとなかったのですが、弁護士の出現によって、それこそ弁護士に言いくるめられないよう、そして、最悪の場合法廷で争うことも覚悟して調査をし、準備をしたのです。

裁判に持ち込まれれば、金額面で争う余地はなさそうだし、さらに弁護士を雇う費用も時間もかかります。何とか話し合いでまとめたいと思って、友人は単身妻側の弁護士との2回目の面会に臨みましたが、そのときに会った弁護士の態度が酷いものだったそうです。

最初の面会の際、友人からいくつかの提案をしたのですが、それを依頼者である妻側には相談もせず、つまり一切準備をせずに来たのです。

それだけならまだしも、態度は居丈高で、友人が用意した条件提示のための資料を読むと「あなたおかしいんじゃないんですか?」などと人格否定とも取れる表現を友人にしたといいます。

実はこの「条件提示のための資料」のコピーを筆者は友人から預かり、それで、詳しい経緯が分かって、こうして書いているんです。友人から資料をなぜ預かったかと言えば、弁護士を探すためです。

筆者の勤め先がたまたま法律を扱っているので、こういう案件を扱っている弁護士はいないかと、資料を預かったのです。

そして実際、知人を介して友人に弁護士を、先の2回目の面会に先だって紹介していました。

今回の相手側の弁護士の対応に腹を立てた友人は、筆者が紹介した弁護士を立てて争うことも覚悟しましたが、その弁護士に相談しつつ、粘り強く話し合いを続けたところ、先日ようやく和解になったという報告を受けました。

報告には具体的な内容はありませんでしたが、「いろいろありがとう。(弁護士の)先生にはお礼を持っていく」というメッセージが添えられていましたので、もちろんハッピーな解決とは決していえないけど、最低限納得できる内容だったのだなと思いました。

まあ一応の事件の落着はみられましたが、筆者はこの世の落とし穴を垣間見た気がします。

もちろん、夫婦間のことは当事者同士にしかわからないことであり、自分は夫側からしか事情を聞いてないのですから、この記事内容は一方的であるという謗りは免れえません。

しかし、確実に言えることは、たとえ妻側の一方的な事情による離婚であったとしても、親権にせよ、養育費にせよ、夫側の不利が大きすぎるということです。

友人の例は極端な例でしょうか?

筆者は必ずしもそうは思いません。友人のケースのほかにも、最近のことですが、女性側からの一方的な理由によって離婚され、泣き寝入りした話を聞きました。

最近ジェンダー炎上等と言って、たとえば「おっ母さん食堂」等というネーミングまで、女性に対する偏見だと槍玉にあがる風潮があるようです。

女性が不当に差別されてきた長い歴史を考えれば、差別の根強さをそういうところに感じてしまうのも、やむを得ないことかもしれません。

しかし、もし本当に差別意識の是正を目指すなら、まずその前提たる実際の差別にこそ目を向けるべきと筆者は思います。

国民の平等が最も実践されるべきは法律の世界においてです。その法律においてこのような不平等が看過されているのは、そもそも法律の世界においてさえ「おっ母さん」の意識から抜け出せずにいるということだと筆者は考えます。

友人の元妻は、この法律あるいは世間における男女の水位差というべきものを意識していたのは間違いないところだと思います。そうでなければ、子どもを勝手に連れ出し、一方的に離婚を突きつけることなどできるでしょうか。

子どもに対する、母親の従来のままのありようを内面化しているのは、じつは女性も同じなのではないかと、この友人の例で思いました。

その子どもがジェンダーに対してどのような考え方を持つようになるのかは正直分かりません。しかし、少なくとも友人に関して言えば、子どもの「おっ父さん」のイメージに関与することは、あらかじめほとんど奪われてしまっているのです。

子どもが抱く父親のイメージなど、法律においても、世間においても、問題にされていないのだとヒシヒシと感じます。

「おっ母さん」等という表現が実際問題であるかということはさておき、その根っこにある深い差別意識を僅かずつでも改善していくためにも、友人のような悲しみを感じさせないような、理不尽な差別のない社会になってほしい、いや、そのような他人ごとのような言い方ではなく、自分ごととして、微力ながらもそのような社会にしていけたらと筆者は思っています。



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