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データサイエンス領域で事業を作るむずかしさ - 業務の性質と市場が抱える課題

本記事は 株式会社パタンナー アドベントカレンダー 2021  24日目の記事です。

データサイエンス業務の性質

成果報酬型の事業モデルにできない

データをあつめて、データを分析して、仮説を検証して、施策を考え実行する。このプロセスが重要であることは多くの企業が認識している。

データ分析は、マーケティング支援や営業支援のように成果報酬型の事業モデルにすることが難しい。どれだけの頻度、品質、精度でデータ分析すれば売上や利益率が良くなるのか?作業時間などを短縮しコストカット(経費節減)できるか?といった具体的な成果を保証できないからだ。

その割に、データ分析はやらない人が想像するより工数がかかる。お医者さんでいうと、手術してみて、お腹を開いてみないと状況がわからない。お腹を開いて見た結果、予定よりも手術時間が長引いた。「実際はステージ1でなくてステージ4だった。マズイぞ…」そういう感じ。

そういう課題があり、直近の確実性の高いコストメリットを感じたいクライアントはデータ活用やデータ分析に挑戦しない。

売上が小さい企業は、データ分析のアウトカムも小さくなりがち

データサイエンスを駆使して実行した施策というのは、現状の数値に対してXX%増加した、減少したという結果をレポーティングする。その後、その割合を掛け算して具体的な成果を実数化する。

データ分析業務はパーセンテージ効果の大きい性質のある業務だ。たとえば、売上100億円企業でのケース。データを緻密に分析し、施策を変更した結果売上が0.5%改善したとしよう。その実数は5,000万円になる。他方、売上3億円企業の場合はどうだろう。150万円程度のアウトカムしか得られない。年間150万円のインパクトは、地方企業であっても正社員の年収1人分のインパクトにも満たない。

こうしたデータサイエンス業務の性質が、次のような厳しい市場を作り出している

マーケットとしては民主化されていない

データサイエンスを無料で学べる環境は整ってきた。データサイエンスを学ぶことはすでに民主化されているといっていいだろう。データサイエンスに関する高度なプログラミングも優秀なエンジニアさんたちが提供しているオープンソースライブラリによって、ある程度学習すれば簡単に実装できる。

マーケットとしては良い点もあれば、誰もがデータを使ってビジネスをアップデートすることが難しい課題もある。

良い点: 研究者の新しい職業の選択肢になっていること

これまで、理系といえども工学部出身者が就職先の選択肢は豊富で就職率が高かった。理学部出身者は文系でいえば文学部出身者のようなもので、大学・大学院での研究で得た知見を活かせる就職先が少なかった。

今では、データサイエンティストという職種は優秀な理学部出身者の就職先の選択肢の一つになっている。そういうわけで、AIaaSを提供している企業で働いているデータサイエンティストやAIエンジニアは高学歴であり研究経験から非常に論理的且つ、ストイックなので、とても優秀である。

悪い点: 優秀なAI企業や外コンは高単価プロジェクトのみ受注する

彼らは明らかにアッパー層である。そして、企業に所属しながら研究開発もおこなっている。研究開発に投資するためのキャッシュが必要だ。経営者の選択肢として大企業との協業案件が中心となってくる。大企業が最もキャッシュが潤沢で、成果を長期的に待てる企業体力があるからだ。

データサイエンス市場が抱えている矛盾

そういうわけで、データサイエンス界隈では次のような矛盾が起きてしまっている。

  • 人手不足は明白で、高度な育成サービスは増えている。
    しかし、多くの受講生は学んだ技術や知識を応用できないという矛盾

  • データサイエンスのテクノロジーは無料且つ比較的簡単に触れられる。
    しかし、これらに投資できる企業は少ないという矛盾

その背景には、分析業務は労働集約的であり高単価でなければ、利ざやが減る。利ざやが減ると研究開発に再投資できない事情がある。AI企業や外コンは、働いている優秀なエンジニアやデータサイエンティストに比較的高額なオファーをしているから、高単価なビジネスにしか取り組まない(取り組めないとも言える)

データサイエンス界隈の吉野家になる

このデータサイエンス界隈の業界課題に違和感をおぼえた。だって、多くの優秀な人たちが「データを民主化する!」と謳っているのに、データリテラシーが低かったり、予算が少額なクライアントは端から相手にしていない印象があった。経営判断としてはどう考えても正しい。

でも、今の日本のスピード感の遅さは結構まずい。中国や北米のデータを活用したサービスや事業に触れれば触れるほど、日本は確実に先進国でないことに気付かされる。データリテラシーにおいては明らかに後進国だ。これがシンプルに悔しい。

儲からないから、やらない。なら、本当にその課題を解決したい!悔しい!と思っていないんじゃないか?そう思った。

そこで、弊社は売上インパクトが弱くても、必要だと思う企業やシーンに出会えば、弊社が持っているノウハウを最大限届けにいくことにした。これが経営スタイルだ。

低コスト最低品質でも一定のインパクトは出せる

低コストである場合、機械学習はほとんど利用しない。利用する場合もAutoMLで収まる範囲にコントロールする。また、できるだけ分析するのではなく、「データを見て、意思決定するだけでインパクトがある」ソリューションを考えることにした。つまり、分析フロー自体を最小化すれば、工数を下げられる

データを見やすい形で提供するだけで、ビジネス理解のあるクライアントは自発的にデータから示唆を得て、インパクトを出せる。

少ない顧客数で高額な客単価を成立させているマーケット

弊社の市場価値が相対的に高かったのは、希少価値が高いからだ。絶対的スキルよりも経験が稀有だから価値がある状態だ。

それは日本国内のマーケットが残念ながら小さいことを意味していた。ビジネスアナリティクス、データサイエンス市場は少数の大企業による高単価なプロジェクトが成長を支えており、テールの中小・中堅企業の低〜中単価のプロジェクトというものは、私が見てきた中では…マーケットにすらなっていない印象だ。

データサイエンス・ビジネスアナリティクス市場は少ない顧客数で高額な客単価を成立させているマーケットなのだ。

ハンバーガーだって、最初は低コストで作れなかったはず..

事業づくりにはタイミングとマーケットサイズの合致は必須条件だと甚だ痛感した一年だった。効率重視のビジネスアナリティクスサービスは課題はフィットしていても、マーケットサイズがフィットしていない。マーケットは起業家にとってアンコントローラブルな要素が大きい。

しかし、課題は確実に存在する。だから、継続する。顧客数も増やして、さらにデータ活用ソリューションのパターンを増やしていく予定だ。引き続き、試行錯誤していこうとおもう。きっとマクドナルドのハンバーガーだって、最初は低コストで作れなかったはずだから。


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