教室のアリ 第9話 「4月19日」④〜「20日」① 〈ママに感謝、ママは激怒〉
オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。
ダイキくんのママとふたり(ひとりとひとアリ)っきりになるといい匂いがしてきた。オレは給食と公園に落ちているお菓子には詳しいけど、「家庭料理」はよく知らない。小さい鼻を全力でひろげ、空気を吸い込んでみた。その匂いを過去の給食のデータと照らし合わせてみた。カレーではない。シチューでもない。しょうゆをベースにした「何か」でもない。もう一度、大きく息を吸ってみた。そして、年間220日ほどある給食を何年も嗅いできた鼻がついに答えを導き出した。今日の夕食は「コロッケ」だ。その匂いの方へ、恐る恐る近づいていった。ダイキくんのママは白い粉を2回ほど付けて、鍋に入れると茶色くなった。オレはコロッケが大きな銀の箱に並んでいるところしか見たことがなかったから驚いた。「意外と手間がかかる」そう思ったよ。一瞬の「おいしい」のためにいろんな準備や順番があると初めて知ったよ。ママ&給食を作る人、ありがとう。そして子どもたち、たくさん食べて、少しだけこぼしてくれ。
〈どろんこが帰ってきた〉
ダイキくんが大きな手袋と鉄の棒を持ってどっかいってから2時間くらい経ったその時、「ただいまー」「疲れた!」「ご飯なにー??」とまるでセットのように叫びながらドアが開いた。「コロッケだよー」、ママの声に「やぎゃっぷー(多分、やったー)」といいながら走ってくるダイキくんの姿は「茶色」だった。どうすれば服がそんなに汚れるのか?と思うくらいの泥だらけだった。10分後、どっかに消えて帰ってくると無茶苦茶綺麗になっていたけど。コロッケとごはん、サラダにスープを食べて、ダラダラしているダイキくんが怒られたのは「ごちそうさま」の1時間くらいあとだった。
〈発見される…ジャム・パン・テスト〉
「臭いー、キャー!!」。ママの叫び声でオレの耳はちぎれてしまいそうだった。ママは見つけてしまったのだ。体操服を取り出そうとランドセルを開けたその瞬間に見つけてしまったのだ。底にへばり付いている「ジャム」、固くなった「パンの破片」…「32と赤のペンで書いてある紙」、「参観日のお知らせ」。最後の2枚にはジャムがベッタリついていた。そのあと、オレはダイキくんがどうなったのか知らない。すごく眠くなってしまったから。キッチンの隅(オレは隅が好きだ)でぐっすり眠らせてもらったよ。
翌朝、(土曜日)ダイキくんは元気がなかった。なんか、イジイジしてブツブツ話して机に置いた紙になにか書いたりしていたよ。ごはんは3回食べていた。で、話を聞いているとあしたはまた、大きな手袋と鉄の棒を持って出かけるみたい(手袋はグラブ、鉄の棒はバットと呼ぶらしい)。なので、ダイキくんのリュック(ランドセルではない)に忍び込んで一緒に外に出ることにした。
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