母の手(短編小説)
実家に到着し、玄関のドアを開けるとピアノの音が聞こえてきた。靴を脱ぎながら耳を澄ませる。どうやら母がショパンのワルツを弾いているらしかった。音を立てないようにピアノのある洋室に向かい、ドアの前で曲が終わるのを待つ。最後の音が消えてから、わたしはドアをゆっくり開ける。
「ただいま」
母は顔を上げ、わたしを見る。
「あぁ、お帰り。来てたの」
「すごいね、まだ弾けるんだ」
「そうなの、自分でもびっくりするけど」
母は嬉しそうな表情でもう一度、鍵盤に手を落とす。わたしはピアノの側にあ