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忘れないで生きるということ。

忘れないで生きるというのは、それなりに覚悟がいる。

ただただ、砂時計の砂が落ちるのをじっと眺めるかのように、永く永くしんどいときもある。

それでも、出来るだけ忘れないようにと、忘れていってしまう自分に歯痒さを感じながら、ずっと生きてきた。

時々記憶の波に飲み込まれ、身体は千切れてしまいそうになることもあった。

それでも忘れないように、その記憶が自分の未来を見つける道しるべなのだと思うようにしてきた。

大人になったみたいだ。

やっと。

やっと大人になったみたいだ。

それは記憶が、自分の身体を引き千切る波ではなく、寒空の下暖かく灯すマッチの灯りになったからだ。

今はどんな記憶も美しいように感じられる。

過去は私の人生の延長ではなく、ふっと一度途切れてしまったのかもしれない。

どうして途切れてしまったのか、それは私にもわからない。

きっと大人になるとはそんな風に、もはや思い出すことが出来ないようなことなのだろう。

忘れないように生きてきて、やっとそれも良かったと思った。

この先はもしかしたら、どんどんありふれて、退屈になるかもしれない。

そうしたなら、私はマッチを擦るだろう、記憶のマッチを。

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