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BtoB企業のサブスク事例

(2022年4月:に追加情報更新版はこちら

Amazonプライム、Spotify、Netflix、PlayStation Nowといった実利用者以外にも有名なサービス以外にも、ファション、コスメ、家具、マッチング、コンタクト、飲食など、いち消費者としてはそれぞれの興味から多くのBtoCサブスクリプションサービスが知られているかと思います。

一方、BtoBにおけるサブスクリプション型ビジネスモデルやサービスの日本における認知度はまだまだ低く、逆説的ですが導入・推進の取組みが遅々として進んでいない一つの理由かと思います。その中で、先進的に取組んでいる企業について一部ですがご紹介し、BtoB企業におけるサブスクリプションの位置付け、発展の方向性について一つの考えを提示したいと思います。

1.株式会社ブリヂストン

そもそも一般消費者にとっては、自転車やクルマのタイヤのテレビCMくらいでしか馴染みがないかと思いますが、バスやトラックでビジネスをしている企業にタイヤの販売やサービス提供を実施されているブリヂストン社。しかし、市場の成熟とともに、高品質の製品を作れば優位に立てるという状況ではないといった危機感を抱き始め、2015年頃から、将来的にはコモディティ化が進んでいるモノ売りだけのビジネスモデルでは立ちいかなくなると予想されたとのことです。

そこで、ユーザにとって新しい価値を生み出していく企業にならなければいけないと考え、ソリューションプロバイダーへ転換する方針を打ち立てられた。結果、タイヤの使用頻度や方法をユーザにヒアリングし、個別に価格設定した上でトータルなサービスをサブスクリプションとして提供する「エコバリューパック」を立ち上げられた。点検・メンテナンスやリサイクル(リトレッドと呼称されるよう)などを月額固定で請け負い、高齢化が進むユーザ企業の省力化に貢献するとともに、ユーザ側の予算化を容易にし、また自社としては作業負荷などの平準化を容易にされています。(ユーザ企業としてはいつでも同じ費用なので、異なるタイミングで提案されても相対的に受け入れやすい)

これはCRM(顧客関係管理)システムなどによる顧客関連情報の電子化・共有・活用、製品利用状況のデータ取得などデジタル化の観点では成長の余地しかありません。一方、このようなDX(デジタルトランスフォーメーション)が十分になされていない段階においても、包括的なサービス提供と顧客との接点維持・情報管理、ならびに顧客満足度の向上を実現できるという素晴らしい事例の一つかと思います。

20200913_事例①(ブリヂストン)

出典:ブリヂストン社 業務効率化 エコバリューパック

2.エアアズアサービス株式会社

SaaSに恐らく倣っての命名であろうAaaS(エアアズアサービス)社。読み方は"ア~~~ス(ズ)"でしょうか。

業務用エアコンでは世界シェアが1位のダイキン社。なお、家庭用エアコンの世界シェア1位は中国の珠海格力電器社のようです。これほど各家庭で身近であるはずのエアコンについて、業務用製品の導入・利用における課題をイメージしたことはほとんどないかと思います。業務用エアコンは、特に中小規模のビルにおいては、大規模な建物と異なり機器管理の専門家が常駐していないことが多く、非効率な運転を続けられているケースも多いとされています。また、病院や商業施設は空調設備が故障すると患者や来店客への影響が大きいことは想像に難くありません。
このような状況も踏まえ、三井物産社が90%、ダイキンエアテクノ社が10%出資した新会社エアアズアサービス社は、施設の空調設備の更新費用を抑え、消費電力や故障による停止時間の削減などに寄与するサブスクリプションサービスを提供しています。

導入前にユーザから施設規模や空調に関する要望を伺い、全体の見積を立てた上で月額費用を算出、多額の初期投資を不要とする形でサービス提供をされています。サービス内容について、点検・メンテナンスと言った保守においてはIoTを活用し空調機の稼働データを遠隔で監視・制御すると共に故障予兆なども対応可能であり、部品交換・修理も月額費用内で対応可能とされています。

ユーザ企業の省人化のみではなく、初期投資・資産計上といった財務的負荷軽減、またIoTを介したデータ活用によるリスク管理(故障による業務影響)、効率的な運用支援にまでユーザに価値提供されています。

20200913_事例②(AaaS)

出典:ダイキンエアテクノ Air as a Service
出典:日本経済新聞 ダイキンと三井物産、月額固定の業務用空調サービス

3.株式会社小松製作所(コマツ)

東京オリンピックによって追い風を受けていた建設業界ですが、国⼟交通省「国土交通分野の将来見通しと人材戦略に関する調査研究」(2018年3月)によると、2025年度には必要な約300万⼈の技能労働者のうちの約10%となる約 35 万人分の省人化を目標とするとされています。
このために、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組であるi-Construction(アイ・コンストラクション)を進め、また労働環境を安全で快適にすることで建設現場のイメージを改善し、その結果、⼥性や未経験者などこれまで建設業界とは無縁だった⼈材の就業などに期待を寄せているようです。

建設機械の製造・販売を主要事業とされていたコマツ社ですが、コマツ社にとっては顧客となる建設業機の上記の課題についてICTを先進的に活用した「スマートコンストラクション」をソリューションとして提供されています。ドローンやIT技術を活用することで、⼯事に関するさまざまな要素を3次元データ化して管理・活⽤することで、作業日程や要員の計画支援、作業のシミュレーションなどといった側面で安全かつ効率的な施⼯の実現を支援されているようです。コマツ社では過去、建設機械の遠隔での機械稼働管理システム「KOMTRAX」をに留まらず、故障予知保全にもつながるデータ解析も含まれる鉱山機械管理システム KOMTRAX Plusをも打ち出されています。

このような従来のサービスに加え、今回のスマートコンストラクションといったソリューションは顧客の本業に食い込んだ提案となっています。これらが定着していくことで顧客はコマツ社からなかなか離れられなくなり、コマツ社はビジネス上の重要パートナーとなっていくでしょう。

さらにコマツ社の称賛されるべき点は、このスマートコンストラクションをコマツ社以外の企業でも⾏える「オープンなプラットフォーム」として展開され、建設現場に関連するサービスやソフトウエアの開発を建設業界や間接的に関係する業界も含めた全体で成長させ、部分的に自社の顧客を手放すことになるリスクがあるものの、新たな顧客を創造する姿勢も貫いていることであろうと思います。

20200913_事例③(コマツ)

出典:KOMATSU スマートコンストラクション
出典:VISIONARY MAGAZINE BY LEXUS スマートコンストラクションが
建設業界にもたらす未来

4.各社の想定される足跡と発展の方向性

このような各社の取組みは戦略上どのように位置づけられるか、一つの考え方としてデルタモデルがあるかと思います。詳細は以下の書籍本編に譲りたいと思いますが、デルタモデルは従来の「ポジショニング・アプローチ」と「リソースベースド・アプローチ」を継承しつつ、ネットワーク経済で競争優位を確立するための3つの戦略的方向性を示すものとしてアメリカで提唱されたものです。

デルタモデル出典:Hax, Arnoldo.C (2010). The Delta Model. Reinventing Your Business Strategy. Springer. ISBN 978-1-4419-1479-8.

このデルタモデルのポイントのみを抽出し、整理してみたいと思います。デルタモデルには3つの戦略上のオプションがあるとされています。Best Product (BP)、Total Customer Solution (TCS)、System Lock-In (SL)です。
BPは商品・サービスの低コスト化・差別化による競争、TCSは顧客コストの削減もしくは利益の拡大による競争、SLは顧客ビジネスの補完事業者のロックイン(囲い込み)もしくは競合他社のロックアウト(締め出し)によって業界標準化を目指すものです。

これらのオプションは、BP < TCS < SL の順に、持続的な戦略優位が確立される可能性が高いことが示唆されています。
これと日本企業の現状・特性を踏まえ、BPからTCSを経てSLに行くことがスムーズであり、かつ個々にサブスクリプションビジネスを通して発展していくことで効率的であると考えています。
実際に、上記3社の想定されるこれまでの足跡と今後の発展に向けた方向性を整理すると以下のように表すことができるのではないでしょうか。すなわち、前回の記事でも言及しましたが、多くの日本企業が今後コト売りを通して競争を勝ち抜き、継続的な成長を遂げるためには、サブスクリプション型ビジネスモデルが一つの有力なオプションであると考えられないでしょうか。

20200913_事例STEP整理

5.最後に

BtoCサブスクリプション型ビジネスは、インターネットで必要なものを検索すればすぐに出てきますが、BtoBの場合、直接的に出てくることは珍しいでしょう。しかし、着実に各社で検討、導入が進んでいます。
実際に、他にも事例は少なくなく、コニカミノルタ社では中小企業向けに複合機とITのサービスを統合したシステム基盤「Workplace Hubプラットフォーム」を従量課金制で効率的なICT利活用を提案されていますし、豊田自動織機社は年内にも提供開始予定であり、東芝エネルギーシステムズ社もサブスクリプション型のサービス提供を決定しています。

サブスクリプション型ビジネスは、前述のように顧客の囲い込みを目指すものであり、以前の投稿で述べたようにサービスの継続的な改善が必須となるサービス形態ではデータの量がモノを言うようになります。すなわち、早期に業務や体制・システムなどの事業形態を変化させ(トランスフォーメーション)し、試行錯誤し、結果に結びつけた会社から生き延びることは間違いないのではないでしょうか。

次回はサブスクリプション型ビジネスモデルの価格設定の考え方について整理し、研究してみたい思います。

本稿および関連する/しない内容についてご質問、ご相談があれば、コメントへ、もしくは私の連絡先までご連絡ください。
是非、皆様と共に新たな発見ができればと思います!

兵頭|顧客接点強化

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