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BtoB企業のサブスク事例2(振り返りと見通し)

サブスクリプション型ビジネスモデルについて、BtoCを中心に普及・定着してきており、新型コロナのパンデミックにより時空間から自由となる柔軟な消費が求められるようになったことで、さらにサブスクリプション型の考え方は特に事業者側が意識を新たにしてきているかと思います。
以前、国内におけるサブスク事例の一部をご紹介しました。それから約1年半経過し、先進的な企業の取組みはどのように変化し、あるいは生まれ、また一方、海外ではどのような事例が生まれて定着しようとしているのか、ごく一部ですが確認してみたいと思います。

1.ブリヂストン株式会社(BtoBからBtoCへ)

当社については、以前の投稿でBtoBにおいてソリューションプロバイダーを目指すことを謳っていることを紹介しました。この取組みについて、BtoCにおいても国内では2020年から展開しています。(欧州ではそれよりも早期に試験的に実施)
それは、一定の月額費用で性能保証されたタイヤを継続使用でき、かつタイヤが故障や摩耗で使えなくなった場合、追加費用なくタイヤを交換できるタイヤサブスクリプションモデル「mobox(モボックス)」です。
これは、将来的にタイヤセントリックのソリューションビジネスにつなげる試みであり、すなわちタイヤからの各種センサーデータを取得し、デジタル基盤に蓄積・管理し、それらのデータを製品開発にフィードバックしたり、顧客サービスに生かしたり(アフターセールスの品質向上や各種モビリティメーカーとの協働も想定される)、といったビジネスモデルの充実・刷新につなげることを企図しているものと思われます。
すなわち、BtoBが売上・顧客の大半を締めている状況である企業においても、新たな資産とも呼ばれているデータを収集・活用し、商品やサービスの質的向上(に対する意思決定)までつなげることが中長期的には重要であり、そして、そのためには、商流や商品によっては極めて難しいケースがあることは間違いありませんが、BtoCも視野に入れたビジネスモデルの構築・転換を検討することが有用かもしれません。

出典:「タイヤを売るだけでは生きていけない」ブリヂストンが抱える“強烈な危機感”
出典:ブリヂストンが画期的サービスを開始! タイヤのサブスクリプションサービス「Mobox」とは

2.各種国内事例

目線を少し変えて、新規にサブスクリプション型ビジネスを展開している企業はどのようなところがあるのでしょうか。

まずは、特装車大手の新明和工業は2020年11月、最新のごみ収集車を所有せず定額で使えるサービスを始めています。
従来のリースとの違いは、点検や修理のコストも料金に含まれ、期間もリースの半分以下の2年と短いといった点のようです。新型コロナウイルスの影響でごみ収集業者の業績が悪化しており、定額で使いやすいサブスクリプションサービスとして採用を呼びかけており、当社のホームページ上では、利用料金の概算もできるようになっています。
ただ、こちらはKINTOと同様、いつでも利用開始・停止できる訳ではないという意味では、今後の目指すべきサブスクリプションビジネスとしての要素を充足していないと考えられます。継続することで最新機種に乗り換え可能となり、費用負担のシミュレーションが容易になることによって、従来よりも意思決定は軽くなるでしょうが、少なくとも2年にわたっての利用は必要となり、またブリヂストン社のように個別点検などのサービスが提供されている訳ではない点は、利用者側のメリットが小さくなっていると言えるでしょう。

出典:日本経済新聞 ごみ収集車もサブスク? 新明和、修理を定額料金で
出典:新明和 塵芥車のサブスク

次に、豊田自動織機においては、当初は2020年内にも、倉庫などで荷物を運ぶ自動搬送車(AGV)の廉価モデル「キーカート」でサブスクリプションサービスを始めると発表されていました。(ただ、それ以降は追加の発表やホームページ上の更新は見られていないため実態は不明です)
自律走行する高性能な搬送車で定額課金を始め、ネット通販事業者などに提案することで、顧客はリースと異なり追加料金を払わずに、契約期間中は常に最新機種・最新ソフトウェアを使えるようになることが大きな特徴としていました。
サービス提供側は「脱売り切り」で顧客と長く接点を持ちながら、利用状況の情報やデータを使い製品開発や顧客対応に生かすことができるのはブリヂストン社などと同様でしょう。すわなち、顧客側の課題や要望を継続的に収集できる枠組みとできる点が、新明和工業と大きく異なる点と言えそうです。

出典:TOYOTA L&F keycart
出典:サブスクの波がBtoBに 常に最新機種で追加料金なし

最後に、東芝エネルギーシステムズにおいては、2020年12月からバーチャルパワープラント(VPP)に関するサブスクリプションサービス(Toshiba VPP as a Service)として、発電事業者および小売事業者向けに「PV発電量」および「電力需要」の2種類の予測機能のサービス提供を開始しています。
また、2021年7月からは一般家庭の太陽光発電システム、蓄電池、EVを適切に制御する「低圧VPPプラットフォーム」サービスも提供を開始しており、HEMS(Home Energy Management System)システムにも対応するようにしているとのことです。
このケースでは、BtoB、BtoCの両ユーザがコストメリットを受け、その効率性がデータ蓄積とともに改善されていくに留まりません。VPPとサブスクリプションの組み合わせによって、関係者の需給関係やそのバランスが継続的に変わっていくことにつながっており、また、それらの各種データがシステムベンダーなど周辺事業者にもフィードバックとして活用されます。
もちろん、サブスクリプション型ビジネスだからできるというものではありませんが、コンセプトとして顧客が容易に利用開始でき、コストメリットが明確で、事業者が顧客とのつながりを強化する方向性での事業展開は、業界構造をも変えることにつながるとも言えるでしょう。

出典:VPPに関するサービス「Toshiba VPP as a Service」の提供を開始
出典:サブスクの波がBtoBに 常に最新機種で追加料金なし

3.ABB

日本における取組みの概況とそれぞれの特徴を抜粋して見てみましたが、一方、海外事例ではどのようなものがあるのでしょうか。
特に欧州では早期に産業機械メーカーなどを中心にBtoB業界においてもサブスクリプション型ビジネスが立ち上がっていました。ブリヂストン社のセンサー情報も活用するといった考え方を産業機械で実践しているイメージでしょうか。

そのような中、ABB社においては2015年、世界初の真の協働ロボットとして「YuMi」を発表しましたが、この「YuMi」に、クラウドのMicrosoft Azureを利用したオペレーション用プラットフォーム「ABB Ability」を組み合わせ、ロボットを遠隔から監視・操作・管理するRaaS(Robotics as a Service)事業を構築しています。
RaaSとは、AIをクラウドコンピューティングや共有サービスと統合した提供形態であり、多くの企業・部門において自動化ソリューションの必要性が高まっていることに起因し、プロフェッショナル用ロボットの採用の増加が市場成長を促進すると予想されています。
最初は監視業務などの単純なマネージドサービスから始まりながらも、その後はリソース管理やプロセス改善などを通して、段階的に顧客の懐深くまで入り込むことが見込めることが大きな強みでしょう。この形を構築されてしまうと、データも運用ノウハウも先に着手した方が専有することになるため、圧倒的に競争優位となることは間違いないでしょう。

出典:IoTデータが変えるロボットのビジネスモデル【第6回】
出典:Continuous casting real-time optimization

4.エアバス

もう一社、業界構造を既に変えてしまったとも言える事例を見ておきましょう。航空機のエアバス社です。

2017年6月、エアバスは航空データプラットフォームの「スカイワイズ」(Skywise)をローンチしました。
スカイワイズは、機体の運航記録や部品交換の履歴などの整備記録、パイロットからのリポート、技術文書などを活用し、運航の信頼性や経年機の運航効率を向上させています。航空会社が機材の運航や整備を行う際、部品交換などの判断を手助けする多くの情報を提供しているのです。
国内事例のコマツとコンセプトは同様とも言えますが、業種・業務のカバー範囲が広範であり普及率も大きく、現場ユーザにとっての必要性は圧倒的でしょう。この状況は恐らく、将来的にESGなどの系譜と同様にルールの見直しにまで影響力を持つ可能性もあるのではないでしょうか。(機体チェック業務などの手順や項目、裏で保持するデータ形式など)

出典:skywise (airbus)
出典:エアバス、航空データプラットフォーム"スカイワイズ"発表

5.最後に

サブスクリプション自体の基礎的な定義は単純な定額制であることは初期の投稿で触れていましたが、同時に、その仕組みをどのような目的・コンセプトのもとビジネスモデルとして作り上げ、将来的にどのようなストーリーを構想するかが競争優位性が継続するかどうかを左右します。
作って終わり、といったモノ売り・コト売りの時代は徐々に終焉を迎えています。継続的な想像力を伴った、創り続ける姿勢が求められます。それは、情報のやりとりが圧倒的に高速化されグローバル化され、技術や知恵、取組みの変化・進展が少し前とは比べ物にならないほど早くなっており、一回見出した正解パターンがすぐに陳腐化するケースが頻発するようになってきているからでしょう。これにAIによる情報の質的転換も加わり、意思決定の方法論も根底から変わる潮流が生まれつつあります。

このような認識を持った上で、次回は、昨今議論テーマのトップとなってきているDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈に目線を移し、その流れにおけるサブスクリプション型ビジネスモデルの位置づけを整理・確認し、研究してみたい思います。

本稿および関連する/しない内容についてご質問、ご相談があれば、コメントへ、もしくは私の連絡先までご連絡ください。
是非、皆様と討議して共に新たな発見ができればと思います!

兵頭|顧客接点強化

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