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パリ軟禁日記 6日目 在宅トリップのすゝめ。

2020/3/22 (日)
家にいながらにして、あの場所に行こう。
今日のテーマは、題して「在宅トリップのすゝめ。」

昨日の日記でも触れたけれど、今週末は僕はもともとポルトガルのポルトを訪れる予定だった。今回はキャンセルになっただけでなく家に軟禁である。見ようによっては、羽を伸ばすどころか、羽を縛られ巣箱にカギをかけられた状態とも言える。行き場のない気持ちを抱えた時、あなたならどうするだろうか。幸い、監禁でも拘束でもなく、軟禁なのである程度の自由はある。何より、心は自由だ。そこで、家にいながら旅を追体験することにした。旅は五感で楽しむものだ、と個人的に考えている。それらを家にいながらにしてどれだけ満たせるか。実験してみた。なお、違法な薬物は使用しない。

視覚。これは情報化社会において至極たやすい。画像だけでなく、行きたい場所を映した動画見つけることも造作のないことだ。聴覚。街中の音や人々の話し声を再現するのは難しいまでも、その国の歌手や音楽を探すことはそんなに難しくないだろう。味覚。難易度が上がってくるのはここからで、近場にその土地の料理を出す店があれば簡単だが、今はレストランはやっていない。嗅覚…は電気信号に置き換えて伝達することができない。その土地で有名な花やスパイスの香り、香水などがあれば助けになるだろうか。最後の触覚。さぁ、どうしたものか。

僕が取った行動としては記憶を拡張する、というものだった。手に入った情報を元に、既に行ったことがある場所からその場所の雰囲気と似ていそうな所を選び出し、その思い出を元に想像力のエンジンを働かせる。今回の目的地はリスボンに次ぐポルトガル第二の都市、ポルトだったので、モデルとして僕は昨年春に訪れたリスボンを選んだ。リスボンの記憶を元に、「脳内ポルト」を構築していく。ポルトはリスボンより北なので、今頃は少し肌寒いかもしれない。いい具合に古びて詩情溢れる建物、壁にはアズレージョと呼ばれる青いタイルがあるだろう。ガタついた道、人々の話し方や雰囲気、こちらが外国人だとわかればきっと英語で会話をしてくれるだろう…。今は亡きアントン・イェルチン主演の映画『ポルト』(2016)で描かれた街並みをそのイメージに重ねていく。最近読んだジョゼ・ルイス・ペイショット著『ガルヴェイアスの犬』もポルトガルが持つ魔術的一面を追加するのに役立った。記憶に入っている五感を呼び覚まし、膨らませていく。

リスボンの記憶をより鮮明に思い起こすために、今日はポルトワインを開けて、ファドを聴きながらポルトガルの家庭料理バカリャウ・ア・ブラスを作って食べた。要は、タラとじゃがいもの卵とじなのだが、日本語にしてしまうと旅情がなくなるので敢えて横文字のまま呪文のように繰り返す。バカリャウ・ア・ブラスを食べたのは人生で3回目だった。1回目はリスボンで。2回目はフランス、トゥールのポルトガル料理屋で。すべてのバカリャウ・ア・ブラスは共通の材料を含みながら、その味、食感、歯触りが異なった。そして今は、未知なるポルト風バカリャウ・ア・ブラスを想像する。

これら一連の営みを通じて、ひとまず、僕の中のポルトガル行きたかった熱は昇華された。シンプルにバカリャウ・ア・ブラスが美味しくできたからかもしれない。近い将来きっとポルトを訪れて、脳内のイメージがどれほど正しいのか答え合わせをするのが楽しみである。

軟禁生活がどれほど続くかは定かではないが、楽しみなことがある人生はなかなかいいものだと思う。本日の試みはある種の功を奏したと言っていいいだろう。

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